2-4-2 聖夜
「……終わった……!」
思わず小さくガッツポーズしてしまった。
年内の大学の授業が、
今日、いま、全部終わった。
最後にレポートを提出した瞬間——、
肩の力がふっと抜けた。
今日は、クリスマスイブ。
“聖夜”だ。ジェムノットも聖夜だ。
駅前のモールは
クリスマスソングが鳴り止まない。
イルミネーションも、
行き交う人もきらきらしてる。
今日だけは影のざわつきも気にならない。
胸の奥がぽわんと温かくなる。
急いで店に向かうと、
事務所も控室もお祭りの空気だった。
皆さんクリスマス仕様だった。
シズクさんはミニスカサンタ。
それだけでもかわいいのに、
いつもより真っ赤なツヤツヤのリップと
ゆる巻きのツインテール。写真撮らせてもらわないと…!
宮子さんは銀の髪飾り。
どこかの民族衣装なのかな?
だけどフォーマルみがある。
朝比奈さんはチェックのフランネルシャツに
トナカイのツノ。
ブラウンのパンツとサスペンダー、かわいい!
澄音さんはファー付きの白いコート。
さすが元ホスト様。似合ってるしかっこいい。
控室で私も衣装に着替えると、
シズクさんが髪を整えてくれた。
「レーヴちゃん、今日ほんとに天使……」
いつの間にか控室にきていた遼叔父さんが、
白い花のかんざしをそっと差し出す。
シズクさんが刺してくれた。
本当に素敵…!
「叔父さんの特権乱用だけどな、
メリークリスマス。……似合うよ」
胸の奥がぽわんとしたまま、
私はブースへ向かった。
静寂。
今夜のウユニ塩湖は夜。
星空が瞬いてる…私の深呼吸に合わせて、
光の粒がふわっと揺れた。
今日のセトリは、遼叔父さんの特別製。
こんなに素敵な歌ばかり…
叔父さんはやっぱりかっこいいなあ。
・きよしこの夜
・もろびとこぞりて
・荒野の果てに
・神の御子は今宵しも
・マライヤキャリー
・TMR
・松任谷由美
・山下達郎
・SEKAI NO OWARI
私は……精一杯聖夜を祈ろう!
今夜は、ご挨拶から。
「メリークリスマス。
聖なる夜に私の歌を聞きに来てくださって、
ありがとうございます。」
深く息を吸う。
歌い始めた瞬間、
ブースの空気が変わった。
―――きよし この夜…―――
ウユニの星空は、いつも満天。
でも、さらにもう一段輝いたように見える。
ひときわ明るく輝く星がある。
シリウスかな…南半球なせいか、
日本の星空と少し違うんだよね。
始めてのお客様は…いなさそうかな。
皆さん、影は少しも揺らがない。
静かに聴き入ってくださってる。
さあ、2曲目にいこう。
――― もろびとこぞりて… ―――
ウユニの水面が淡く光る。
イエス様は夜にお生まれになった…んだと思う。
“今宵”っていう表現が多いから。
でも、きっと神々しくて、
光が溢れていたのかなって想像しちゃう。
光源はわからないけど水面の光は穏やかで、
私を足下から照らし、神秘的な美しさを演出していた。
影が少し揺れる。
嫌な感じじゃない。
きっと、感動や、幸福の揺れだ。
まるで
祈るように胸の前で手を重ねてくれてる。
聖夜って感じ。
胸がぽわんとした。
「ありがとうございます。
次は、クリスマスキャロル『荒野の果てに』です。
元々は一般の人たちが歌い始めました」
――― Gloria in excelsis Deo, Gloria in excelsis Deo… ―――
アドリブ。
意味のきちんとわかる人が少なくても、
この曲の象徴的な1フレーズから届けたかった。
私の頭上から光が降りてくる。
天井から降り注ぐ一筋の光は本当に幻想的で、
イエス様が見てくださっているような気持ちになった。
みんなが少し息を飲んだのがわかる。
…うん、この演出…私の頭上に、っていうのは初めてかも。
私も胸がきゅんきゅんしてます。
曲の終わりに合わせて、光の柱は消えて行った。
さあ、次は、
セトリ最後の賛美歌!
――― 神の御子は今宵しも… ―――
水面が金色に染まる。
わあ…何この演出……
影がふわっと温かくなる。
イエス様の生誕はずっとずっと昔だし、
日本からもウユニからも、ベツレヘムは遠いけど。
天上はもっと遠いかもしれないけど。
祈りの気持ちが届きますように。
私は、胸の前で両手を組んだ。
胸の奥がじんわり熱くなる。
間違えないようしっかり集中して、
最後の1フレーズまで丁寧に歌い上げた。
お辞儀をする。
割れんばかりの拍手をいただいた。
「ありがとうございます。
引き続き、お祭りムードを
一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです」
さあ、ここからは
クリスマスソング!
マライヤキャリー
『All I Want For Merry Christmas Is You』。
T.M.Revolution『Burnin X’mas』。
松任谷由実『恋人がサンタクロース』。
12月に必ず聴く曲ばかりが続いて、
手拍子が止まらない。
中には、一緒に歌ってくれる人も。
山下達郎『クリスマス・イブ』。
恋人たちが、また、今夜めぐり合えますように。
…私の名前は、こっちのイブなのかな。
遼叔父さんに聞いてみようかな、
少し恥ずかしいかな…。
私、すこし頬が赤くなってるかもしれない。
「ありがとうございます。
次がセトリ最後の1曲です。
SEKAI NO OWARI、
『スノーマジックファンタジー』です」
――― スノーマジックファンタジー 雪の魔法にかけられて… ―――
ウユニは南米で、雪の降る地域じゃない。
だから、“雪の演出は入ってない”って、小杉さんは言ってた。
なのに。
ふわふわとした、白い、
綿毛のようなものが降ってきた。
(小杉さんの、嘘つき!!)
視界がにじむ。涙がこぼれそう。
声が震えそう。でも最後まで歌いたい。
歌い終えても、
舞い落ちていた雪は、とまらない。
「……ありがとうございました。
お時間の許す限り、聖夜をお楽しみくださいね。」
私は深くお辞儀をする。
ウユニ塩湖に降り積もる
まぼろしの雪は、止むことなく、
聖夜が更けて行った…。




