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クラブ・ジェムノット~エピソード2-少女の歌は花開く~  作者: (さ)くま
第4章 拡散

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2-4‑1 クリスマスがすごい

低気圧にやられて、すっかりグロッキーでした…

12月に入った。

街の空気が、急にきらきらしている気がする。


…“気がする“じゃなく、本当にとってもきらきらしてる。

去年の冬は、イルミネーションの多さに

ただただビックリしてたなあ…。

今年は少しだけ慣れてきたみたい。

きらきらを「キレイだなあ」って眺めてる。


だ・け・ど。


大学では試験と課題が一気に押し寄せてきて、

レポート三本、語学の小テスト、

声楽の課題曲の提出──


全部、今週。


「昨日、何時に寝たっけ……?

 今日は早く寝て、明後日本気出す……」


絶対やりきる。でもしんどいよう…

固い誓いと確かな疲労を

無限ループしながらジェムノットに入ると、

店内がクリスマス仕様になっていた。


白と青が基調の内装に合わせられた、

紺と銀のオーナメント、

天井から下がる細いライト。

そして、エントランスホールの大きなもみの木。


いつもの静けさに、

少しだけ華やかさが混ざっている。好き。

荷物を置くために、控え室に向かう。


「レーヴちゃん!衣装届いたよー!」


シズクさんが、箱を抱えて出迎えてくれた。

宮子さんもすでに衣装をチェックしてる。


「試着しよ!

 絶対似合うから!」


試験の疲れが一瞬で吹き飛んだ。

箱を受け取って更衣室へ。


箱を開けると、中に収められていた

白いドレスが、ふわっと光を吸った。


胸元から上はシースルーのレース。

胸で切り替えられて、膝まではタイト。

そこから裾が大きく広がる。


白いファーのケープが添えられていて、

まるで雪の精みたい。かわいい。きれい。


「……すごい……」


そっと触れると、指先がすべすべした。


恐る恐る着替えてみる。

鏡の中の自分が、自分じゃないみたい──


ふわふわした気持ちで、更衣室から出た。


「レーヴちゃん、マジ神ビジュ……」


シズクさんが素で言った。


「伏見さん、またサイズぴったり……」


宮子さんが呆れたように笑う。


「えっ……あ、ありがとうございます……?」


頬が熱くなる。

白衣や緋袴は素敵だと思ってるし、

思ってたけど…

こんなに素敵な衣装、初めて。


「伏見さん、天才じゃん……」


シズクさんがケープを整えてくれる。


「レーヴちゃん、これで歌ったら絶対バズるよ。

 いや、バズるとかじゃなくて……なんかもう……尊い」


ケープがふわふわでとっても可愛くて、

思わずくるっと一回転してしまった。


宮子さんが後ろ姿を見て、

「天使の背中だね」と小さく言った。


胸がじんわり温かくなる。


「お。うちの歌姫は最高ですね」


遼叔父さんが控室に入ってきて、

クリスマス専用のセトリを渡してくれた。


「レーヴ。これ、確認しておいてくれ」


紙を受け取る。


聖歌、讃美歌、クリスマスソング──

どれも胸の奥がふわっとするような曲ばかり。

うわあ、歌いたい………。


「歌ってよ!レーヴちゃん!」


シズクさんがすぐ言う。


「えっ……いま?」


「いま!」


この衣装でこのセトリは……

やっぱり、歌わないと嘘だよね。


「……はいっ」


紙を持ったまま、

一曲目をそっと歌い始める。


控室に声が響く。


控室にはセンサーもクリスマスの飾りも何もない。

天井も高くないし反響版もないから、

音響的には響くはずもない。

環境としては、正直を言えば最悪の部類。


でも、完全にクリスマスムードになった。


二曲目。…最高。


三曲目。……もう最高。


歌うほどに胸が温かくなる。

疲れていたのが嘘のように歌声が伸びていく。


「やば……」


シズクさんがぽつりと言う。


「お疲れ様です。

 今日もハウスキーパーさんですか…

 って、レーヴちゃん尊すぎ」


「マジ癒される〜」


「これ、本番どうなるんだろ……」


出勤してきた

朝比奈さん、澄音さんの影が、

私の歌で整っていくのがわかる。


宮子さんは、目を閉じてフワフワしてる。


遼叔父さんは、静かに頷いていた。

その目が、どこか優しかった。


営業時間が迫ってきていたので、

名残惜しいけど5曲ほどで一旦歌うのを止めた。


胸の奥がぽわんとしたまま、

息が少しだけ震えた。


「クリスマス……楽しみすぎます……」


思わず言ってしまった。

皆さんに一斉に噴き出された。


遼叔父さんは、ほんの少しだけ目を細めた。


「えっ。笑うところですか?」


このドレスで過ごすクリスマス、

楽しみすぎて本気で無理!


いけない!もうこんな時間!!


「すみません着替えますね!

 今日もよろしくお願いします」


「えっ、もう営業時間?」


シズクさんは完全に気付いてなかったみたい。

…あ。

シズクさんや宮子さんの衣装、

見せてもらい損なってる…。


あとで絶対見せてもらわないと。


着替え終わったクリスマスの白いドレスとケープを、

ロッカーにそっと仕舞う。


このロッカーは、

今日からクリスまで、

私の宝石箱!


今日の営業中、私が

ずっとふわふわしてたこと、

内緒ね?


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