2-3-6 ミーティング
―――学祭は、終わった。
次はクリスマスだ。
期末試験だ。冬休みだ。
イベントラッシュだ。
気持ちを切り替え………………………
…られない。
だって、だって。
あんなふうに手を差し出されて、
あんなふうに隣を歩いて。
胸の奥がぽわんとしたまま、
ずっと戻ってこない。
(どうしよう……
今日、ミーティングなのに……)
支度をしながら、
何度も深呼吸してみる。
でも、思い出すたびに心臓が跳ねる。
遼叔父さんの眼鏡。
柔らかい声。
花束を渡す姿。
二人で歩幅を合わせて歩いたこと。
遼叔父さんの眼鏡。…眼鏡。
……………眼鏡。
(ああ……無理…… )
ミーティング前なのに、
身悶えしっぱなしだった。
事務所の扉を開けると、
すでに全員が揃っていた。
あああ…また最後…。
大江さんが資料をまとめていて。
みなさんは椅子に座っていたり、
壁にもたれて立ったまま、
あるいは机に少しお尻乗せてるだけ、など、
思い思いな感じだった。
遼叔父さんは、
いつもの落ち着いた姿勢で席に座っていた。
(……顔、見られない……)
学祭の余韻が胸の真ん中から消えない。
視線を合わせるのが少し怖い。
…自分の反応が怖い。
でも、ミーティングは始まる。
「じゃ、始めよう」
遼叔父さんの声は、
いつもより気が引き締まってる感じに聞こえた。
「まずはハロウィンの振り返りから」
大江さんが資料を配る。
私は受け取りながら、
ハロウィンの日のことを思い出す。
あの日は試験…
小テストみたいなものの前日で、
私は強制的に休みにされていた。
「レーヴは試験前だったから、今年は休みにした。
これは正解だったと思う」
遼叔父さんが私を見る。
優しい目だった。
(……心臓に悪い……)
「GNブースの演出オフは、思ったより好評でした」
大江さんが続ける。
「“ジュエルの仮面”と、SNSで話題になってましたね。
“感情を隠す仮面”っていうコンセプトが刺さったみたいで」
「別に隠してるつもりはないけどね。
仮面つけてるほうが楽だっただけ」
灯弦さんが肩をすくめながら、静かに笑う。
「演出がないほうが、
お客さんの声がよく聞こえた気がする」
「ウチもそうかも。」
澄音さんとシズクさんだ。
「なるほど」
遼叔父さんが言う。
「僕は…来年は、占いを目玉にしてみたいです」
灯弦さんだ。
「古代ケルト族では、
ハロウィンは“境界が薄くなる夜”と言われてます。
未来を占うにはちょうどいい日と
されていたんです」
灯弦さんは、少しだけ目を伏せた。
「…面白そうだ。白河、頼むな」
遼叔父さんは、決断が速いなあ…。
「次、クリスマスの話をしよう」
少しだけ緊張が走る。
「レーヴさんの聖歌が目玉でどうですか」
大江さんが私を見る。
一拍置いて皆さんも私を見る。そして頷かれた。
……一斉に頷かないで…!!
「満場一致だな」
「やったね!」
「流石っす」
「たのしみだわぁ」
これは…。
「……がんばります!」
声が少し震えた。
「24・25で開催。
25日は22時までの営業にする」
遼叔父さんが淡々と言う。
「25日、レーヴさんは夜行バスの時間があります。
みんな、時間を気にしてあげてください」
大江さんが言ってくれた。
(……気にしてくれてる……)
胸の奥がまたぽわんとする。
「衣装は店で手配する。
サンタ、トナカイ、その他、
希望があれば大江に言って」
「サイズ等の必要事項、こちらで確認します」
大江さんは手帳に書き込みながら、
私のほうをちらりと見た。
「レーヴさんの衣装は、
もう、大体話済んでます」
「えっ……?」
遼叔父さんは口元を手で隠して、
少しだけ視線をそらした。
(……ずるい!……)
「年末年始は…」
「休みたいっす!」
小杉さんの発言に、大体皆さん「自分も」「私も」と、
休みたい旨を伝えている。
「…じゃ、1月5日まで休み。
しっかり英気を養ってくれ」
皆さん、今ので緊張がとれたみたい。
とてもリラックスした表情になった。
「最後に、異動の話をする」
また、空気が少しだけ引き締まる。
「大江が、ジュエルからスタッフに異動する。
そして──来年4月から支配人に就任する」
大江さんは深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
皆さんから拍手が上がった。
私も慌てて手を叩いた。
遼叔父さんは、
どこか誇らしげな顔をしていた。
「以上。
クリスマスまで忙しくなるけど、よろしく頼む」
ミーティングは静かに終わった。
私は資料を抱えたまま、
まだぽわんとしている胸の奥を
落ち着かせられずにいた。
遼叔父さんの声。
視線。
学祭の余韻。
(……こんなんじゃダメなのに……)
事務所を出るとき、
遼叔父さんがそっと声をかけてくれた。
「レーヴ、無理するなよ」
…ずるい。
また心臓が跳ねた。




