↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラブ・ジェムノット~エピソード2-少女の歌は花開く~  作者: (さ)くま
第3章 伝播

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/36

2-3-5 学祭で叔父さんと

日曜の朝。

いつもより早く目が覚めた。


学祭に行くだけなのに、

胸の奥がぽわんとして落ち着かない。


(服、どうしよう……)


クローゼットの前でしばらく固まる。

派手すぎるのは違う。

地味すぎるのも違う。

学祭だから、少しだけ華やかでもいい気がする。


―――うん、

ペンシルスカートに

オーバーサイズのジャケットにしよう。

少しだけ、大人っぽく。


お化粧は無理。

慣れてないし、きっと失敗する。

でも──


(リップだけなら……)


鏡の前で、

ほんの少しだけ色をのせた。

それだけで、気持ちがふわっと軽くなる。


チャイムが鳴った。


心臓が跳ねる。

玄関へ向かうと、

遼叔父さんが立っていた。


「……」


言葉が出なかった。


いつものスーツじゃない。

ゆったりしたシルエットのローゲージのカーディガン。

スエードタッチのシャツ。

落ち着いた色のタックパンツ。


そして―――セルフレームの眼鏡。


全体が柔らかくて、

でもどこか大人の余裕があって──

格好よくて、格好よすぎて―――。


「遼叔父さん……

 かっこいい……」


気づけば、

そのまま口に出していた。


叔父さんは一瞬だけ目を丸くして、

すぐに柔らかく笑った。


「イヴも、すごくいいよ」


その視線が、

私の唇で止まった。


「……朝から唐揚げでも食べた?」


「えっ……?」


「冗談だよ。

 素敵だ、俺のお姫様」


胸の奥が、

ぽわんと熱くなる。


リップに気づいてくれた。

それだけで、

今日が特別な日なんだと実感する。


叔父さんが手を差し出した。


「行こうか。

 学祭、楽しみだな」


その声が、

いつもの穏やかさより少しだけ柔らかくて、

心がふわっと浮いた。



外に出ると、

タクシーが一台、静かに止まっていた。


「今日は、ね。

 あとこれは、陽菜ちゃんに」


後部座席に積まれていた花束を指さす叔父さん。


(心臓破裂しそう……!)


タクシーに乗り込む。


―――窓の外を流れる街並み。

通い慣れた景色なのに、

まるで違って見える。


遼叔父さんと一緒にいるだけで、

世界が柔らかくなる。違う表情になる。


「学祭のチラシとか、あるか?」


「あります。地図とプログラムガイドが乗ってるはず……」


探そうとした瞬間、

そっと手を止められた。


「着いたら見せて。

 ――もう着くよ」


タクシーがゆっくり止まる。

陽菜ちゃんの舞台の時間が近づいている。


「本当は俺がしたいけど。

 お姫様、エスコートをお願いしても?」


「お任せくださいませ、遼叔父様」


自然に言葉が出た。

恥ずかしいけれど、嬉しい。


大講堂へ向かうと、

ちょうど入れ替え時間だった。

間に合ってよかった~。


空いている席に並んで座る。

壇上の陽菜ちゃんを見つける。


「あれが陽菜ちゃんか。

 後で挨拶行こう」


演目はパッヘルベルのカノン。

続けて弦楽セレナーデ。


陽菜ちゃんのヴィオラの

澄んだ高音が響く。

弦楽器の音が空気を震わせ、

大講堂の天井まで満ちていく。


舞台が終わると、

大きな拍手が起きた。

遼叔父さんは静かに立ち上がり、

スタンディングオベーションを送った。


舞台袖へ向かい、

陽菜ちゃんに花束を渡す。


「イヴ!

 …と、もしかして叔父さん?!?」


「そう……」


遼叔父さんが、陽菜ちゃんに会釈してくれる。


「かっこよすぎん?!

 マ!?!?」


「そう……」


語彙が死んでしまう。

顔もあげられない。


陽菜ちゃんは笑いながら、

「絶対あとで話聞くから!」

と言って去っていった。


遼叔父さんが軽く肩に触れ、

移動を促してくれた。


促されるまま大講堂の外へ出る。

プログラムを確認しながら歩く。


「演奏も素敵だけど…

 構内を案内してくれると嬉しいかな。

 イヴの日常を、見たい」


胸の奥がまたぽわんとする。

プログラムをカバンに仕舞った。


「それじゃ、

 声楽校舎行きましょうか」


私たちは、二人で並んで歩き出した。

学祭のざわめきの中、

二人で、歩幅を合わせながら。


――この時間が、

ずっと終わらなければいいのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。