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クラブ・ジェムノット~エピソード2-少女の歌は花開く~  作者: (さ)くま
第3章 伝播

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2-3-4 学祭を叔父さんと

学祭直前の金曜日。

構内はもう、ほとんど

学祭が始まっているような熱気だった。


屋台の準備をしている人、

衣装を抱えて走る人、

どこかで楽器の音がして、

空気がいつもより少しだけ浮き立っている。


陽菜ちゃんもその一人だった。

ヴァイオリンケースを背負って、

譜面の束を抱えながら忙しなく歩いて…

ほとんど走っている。


「陽菜ちゃん。忙しそうだね」


「イヴちゃん!やばい、ほんとにやばい!

 明日リハで、日曜が本番なの!

 オケのパフォーマンス、絶対観に来てね!」


「もちろん。楽しみにしてる」


陽菜ちゃんは、

そのまま走り去っていった。


弦楽専攻の子たちは、

学祭のオーケストラが毎年大人気らしい。


私はその背中を見送りながら、

胸の奥がぽわんとした。


――日曜は、遼叔父さんと学祭。


その事実を思い出すだけで、

心がふわっと浮く。

歩く足取りまで軽くなる。


そのままジェムノットへ向かう。


――ブースに入った瞬間、

自分でも分かるくらい“浮かれて”いた。


オープニングは

いつものアメイジング・グレイス。


でもその後は──


マイケル・ジャクソン。

クイーン。

「恋のサバイバル」。


気づけば、

テンション高めの選曲になっていた。


水鏡の星空も、

いつもより明るく

揺れている気がする。


お客様も気づいたらしく、

指笛が飛んだり、

リズムに合わせて軽く手拍子が起きたり。


「レーヴさん、今日すごいね!」

「なんか楽しそう!」


そんな声が聞こえて、

胸の奥がさらにぽわんとする。


そのとき、

久しぶりの声がした。


「レーヴ嬢。何かのお祝いか?」


翁さんだった。

静かな佇まいで、

私の“ノってる”歌を聞いてくれてたみたい。


「はい!そんなところです」


自分でも驚くほど明るい声が出た。

翁さんは少しだけ笑って、

席に座った。


明日は大学もない。

日曜は学祭。

叔父さんと一緒。


その嬉しさが、

歌にそのまま乗ってしまう。


ABBA。

――踊りましょう!

だって今日は金曜日だから。


思い切り身体を揺らす。

皆さんも踊ってくれてるようだった。


……ああ、終わらないで。


水鏡の星空が揺れ続けながら、

金曜の夜は更けていった。


―――明けて、土曜日。


ジェムノットの事務所に入る。


自分でも分かるくらい、

ずっと胸の奥がぽわんとしている。

学祭のことを考えて、

ずっと、心がふわっと浮く。


「お疲れさまです」


遼叔父さんは、

いつものようにデスクワークをしていた。

顔を上げると、静かに言った。


「レーヴ。

 また、知恵熱のお世話になるぞ?」


くぎを刺すような言葉なのに、

表情はまったく怖くない。

むしろ、少しだけど完全に笑ってくれている。


予約表を見ながら、大江さんが

私の肩をトントン、と叩いてくれた。


「レーヴさん、今日22時上がりです」


“飛ばしても大丈夫ですよ”と

言ってくれているような、

太陽みたいに明るい笑顔。


「大江さん!ありがとうございます」


胸の奥がまたぽわんとする。


そのとき、

遼叔父さんが手招きした。


「レーヴ、ちょっと」


近づくと、

私にだけ聞こえる声の大きさで言った。


「明日、16時までは空けた。

 ……何時から行く?」


胸が一気に熱くなる。

学祭の話だ。


「陽菜ちゃんのライブが11時なので、

 それまでには行きたいです」


「じゃ、10時に下宿へ迎えに行く」


その言い方が、

あまりにも自然で、

あまりにも優しくて、

胸の奥がぽわんと揺れた。


叔父さんは背を起こし、

いつもの声の大きさに戻した。


「ハウスキーパーさん、

 知恵熱に気を付けて」


「もちろんです!」


返事をすると、

叔父さんは少しだけ目を細めた。


その表情が、

なんだか嬉しそうで、

なんだか心配そうで、

胸の奥がまたぽわんとした。


明日は学祭。

ブースで歌う間も、

仕事を終えて下宿に帰ってからも、

ずっと、

心はふわふわのままだった。


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