2-2-6 あたたかい家
遼叔父さんが送ってくれた
地図の場所に向かってスキップしていたら。
「イヴ!」
店から出て、
叔父さんが小走りで駆け寄ってくれた。
「遼叔父さん」
胸の奥がぽわんとする。
「お前…また例の挨拶になるぞ?」
…?
なんのことだろう?
「いい、いい、もういい。
さ、帰ろう」
遼叔父さんが笑っている。とても嬉しそう。
うん、もういい。
帰りましょ、叔父さん。
「半分持ちます」
「ありがとう。こっち持って」
“ケータリング”を半分もらう。
…あっちの方が重そう。
二人で並んで歩く。
「イヴ、3か月ほど働いてみて…
どうだ?」
「とっても楽しいです。
“隙間がなくても”楽しいんだ、って」
ちゃんと“並んで”歩くって、初めて……かな?
いままでは、ずっと、少しだけ後ろだった気がする。
知らない道、知らない店、控えめの、自分…。
「それに……」
「それに?」
「たくさんの方が、
私の歌で、“整って”帰ってくださるのが、
嬉しいです」
遼叔父さんは、
少しだけ複雑そうな顔をする。
遼叔父さんの家が見えてきた。
「ちょっと複雑な気分だな。
商売繁盛は何よりなんだが」
遼叔父さんが玄関を開けて、
先に入るよう招いてくれる。
「おかえりなさい、叔父さん。
おじゃまします」
「いらっしゃい、イヴ。
さ、二人だけど打ち上げだ」
リビングに、ケータリングを広げる。
うわあ、食事もカトラリーもすごく素敵。
見てるだけでおいしそう。
遼叔父さんは、
グラスと飲み物を持ってきてくれた。
「打ち上げだから、ちょっと奮発した」
「ありがとうございます。
すごくおいしそう」
グラスに…ワインかな?を注いでくれる。
「それじゃ、いただきます。乾杯」
「乾杯。いただきます」
すこしピンクがかったスパークリングワインだった。
…おいしい。飲みやすい。
「飲みすぎて潰れてもいい。けど…
“自分の飲める量”を知るのも楽しいぞ」
うっ。
…そういえば。
「…先日……起きたら……
叔父さんの家に居た日がありましたね…?」
「今日は、自分の足で
ベッドまで行けるといいな?」
あああああ。お酒は、控えよう…。
だって、今夜は。
「…叔父さん。
話、聞いてもらえますか。」
「いいよ。どうしたんだい、イヴ」
まずは、遼叔父さんのあの話。
「遼叔父さんは以前、
“影から過去の因縁が読める”っておっしゃってました。
その話は…冗談で言ってくれたことですか?」
遼叔父さんは控えめに笑った。
「いや。本気ですね」
やっぱり。
「私、最近、“影を読もう”としてて…」
「見えないあの人数相手に歌おうとしたら、
そうなるだろうな。
イヴはやっぱり素晴らしいな」
遼叔父さん、ご機嫌だ。
「…ひとり、気になる人がいるんです」
何度か見て、最近分かったことがある。
…あの人は、たぶん背が高い。
「少し背の高い、男性だと思うんです。
週に2回くらい、1、2曲だけ聞いて帰る方で」
「…“気になる”って、
どういう感じに気になるんだい。」
…大丈夫。
遼叔父さんなら、
きっと、ちゃんと聞いてくれる。
「ずっと昔…
私が私じゃない…みたいに思う時に、
会ったことがあるんじゃないか、って感じるんです」
叔父さんが、ワインをグイっと飲み干す。
「過去生だな」
遼叔父さんは、わかるんだ。
過去生…前世ってこと?
「前世……ってことですか?」
「ああ。
…ワインどうする?」
もう少しいけるかな。
それに、遼叔父さんと一緒に飲みたい。
「この後家に帰りたければ、
ちゃんと送り届ける。
泊ってもいい。」
陽菜ちゃんと話していて、
最近覚えた言葉がある。
遼叔父さんは、“スパダリ”だ……。
「…ほしいです」
私の分をまず注いでくれる。
そして遼叔父さんのグラスへ。
「俺が過去生を見たのは…
はっきり確信するほど見たのは、
イヴが生まれた時だな」
「そうなんですか?」
「ああ。
隣で笑ってくれてる
イメージがはっきり見えた。
嬉しすぎて、名前つけさせてくれ、
って突撃したんだよ」
ものすごく懐かしいものを見るように、
穏やかな笑顔で、私を見つめる叔父さん。
「名付け親志願したことの顛末は、
そういうこと」
「過去生って…あると思いますか」
「今は今だし、過去だけどな。
俺はあると思ってるよ」
今は今。過去。
……それなら。
「…私……その気になるお客さんに、
そんなに踏み込まなくていいや、
って思ってます」
「そうか。
じゃあ、そのつもりで対応する」
テーブルの上の食事は、
ずいぶん空いたお皿が増えてきてしまった。
「うまかったな……
風呂沸かしてくる。イヴ、先入るか?」
「いえ。後で大丈夫です」
遼叔父さんが席を立った。
…私は、
まだもう少し、余韻に浸っていたかった。
―――あの人の視線は、気になる。
お父さんみたいな雰囲気も、安心できる。
でも。
「……私は」
遼叔父さんと、
もっと、話したい。
…もっと、一緒にいたい。




