俺の王子がグレた
愛着がわいてしまったキャラたちとお別れしたくないばかりに急遽足してしまったエピソードです。
次は最終回かと思うと、何だか淋しくて、書きたくないなあという気になってきます。
王宮の南翼にある子供部屋。
そこではノエル、アイラ、ルシア、そしてハンスの四人がカードゲームに興じていた。
ノエルは手元のカードを眺める。
「トランプ」という名のこのカードは、描かれた絵柄がどこか古風で、眺めているだけでも面白い。同じ数字を揃えて捨てるだけの単純なルールは、もうすぐ七歳になるハンスでも楽しめる。
ノエルもそれなりに、この穏やかな時間を楽しんでいた、それまでは。
「ワハハ、このキング、おもしろーい! 兄さまがお年を召したら、きっとこんな風になりますね!」
無邪気なハンスの声が響く。
彼は自分の手札をバラしてしまうおバカさんだが、今は誰もそんなことを気にしてはいなかった。
アイラが「チッ」と小さく舌打ちし、妹のルシアに鋭い目配せを送る。
察したルシアは即座に立ち上がると、嫌がるハンスの腕を掴んだ。
「あ〜ら大変、ハンス。お花摘みのお時間よ」
「えっ、ぼく、お花なんか摘みたくないよ〜!」
廊下に響く悲鳴を余所に、部屋には重苦しい沈黙が降りた。
「お兄さま、なんだか喉が渇きますわねぇ?」
わざとらしく話を逸らそうとするアイラを無視し、ノエルはすっ、と立ち上がって鏡の前に立った。
静まり返った室内。テケテケテケ……と、歩き始めたばかりのロビンの足音だけが空虚に響く。
「母上」
ノエルが口を開いた瞬間、待機していた従者アランとアイラの声が重なった。
「「お似合いです!!」」
「王子の愛らしさを最大限に引き立てる、このサラサラおかっぱ! これ以上に尊い髪型がこの世に存在するでしょうか、否、断じてない!!」
凄まじい早口でまくし立てるアランに続き、アイラも声を張る。
「お兄さまの気品を際立たせる至高の造形美! その毛先一本一本から溢れ出す高貴さといったら……!」
二人の熱弁をスルーして、ノエルは母ポレッタに問いかけた。
「僕、なんでこんな髪型なんでしょう?」
アランとアイラが目に見えて動揺し、あたふたと視線を泳がせる。
ノエルはふとした疑問を抱いたのだ。学園の男子生徒は皆、短く切り揃えた精悍な髪型をしている。弟のハンスだってそうだ。なのになぜ、自分だけがこの「おかっぱ」なのだろうか。
「理容師と相談して、一番似合うものを選んだのではなかったかしら」とポレッタ。
「母上が?」
「いいえ……アランが」
部屋に、何とも言えないぎこちない空気が流れる。
耐えられなくなったアランは、唐突に末娘のメリルに駆け寄ってあやし始めた。
「幼女に触れるなぁっ!」
ノエルの鋭い制止に、アランは一瞬で真顔になり、あろうことか主君であるノエルを指差した。
「それしか、嫌です」
「はっ?」
「その髪型以外の王子など、私は認めません。一生そのままでいてください」
「はーっ!? 僕にあのトランプのキングになれって言うのか?」
「まさか! 王子があんな髭のおっさんになるわけがありません。あんなことを言ったハンス殿下は、至急眼科にお連れしましょう」
「……分かった」
「お分かりいただけて、何よりです」
「理容師に会ってくる」
その一言に、アランは膝から崩れ落ちた。
「じゃあね」
「あああ……俺の王子がグレた……!」
泣き崩れるアランを背に、ノエルは軽やかなスキップで部屋を後にした。
二時間後。
再びスキップで戻ってきたノエル。
「どうよ? 」
自慢げに指で髪を梳いて見せるノエルの髪型は、少しだけ短くなった「おかっぱ」だった。
(あ、可愛い。いや、めちゃくちゃ可愛いな……!)
アランは瞬時に復活し、深々と頭を下げた。
「流石は王子、どんな髪型もお似合いです。このアラン、おそれいりました!」
結局、少し短くなっただけのおかっぱ頭。
満足げなノエルと、それを崇めるアラン。
周りの面々は、そんな二人を「結局こうなるのか」と生温かい目で見守るのだった。




