とにかく探せ
モルティマーとジェイソンは、広大な王城の隅に打ち捨てられた林へと足を踏み入れていた。
好き勝手に枝を伸ばした木々が月光を遮り、土の湿った匂いが鼻を突く。伸び放題の下草に足を取られながら、二人はひどく荒い息を吐き、血眼になって「それ」を探していた。
「本当にあるんですか、そんなもの」
「間違いない。母上が作らせ、密かに行き来していたのをこの目で見た。……ちっ、暗くて何も見えん」
苛立ちを隠せないモルティマーに、ジェイソンがおずおずと提案する。
「火、点けてみます?」
「馬鹿を言え! 守備兵に見つかったらすべてが水の泡だ。……とにかく探せ、必ずこの辺りにあるはずだ」
それから、じりじりと焼けるような焦燥感の中で二時間を費やした。
ようやく夜が明け、薄暗い林に光の筋が差し込んだ頃、彼らはついにその場所に辿り着いた。
「あった……これだ」
「やりましたね。で、どうやって入るんです?」
「見ていろ」
モルティマーは、苔むし、今にも崩れそうな寂れた井戸の縁に立つと、片足を釣瓶桶に引っ掛け、もう一方の綱を力任せに掴んだ。そのまま、自身の重みを預けて井戸の闇へと降りていく。
――キュルキュル、キュル……。
錆びついた滑車が、嫌な軋み声を上げた。
「おい、降りてこい」
酷く響くモルティマーの声に急かされ、ジェイソンも同じようにして暗闇へと身を投じた。
「ここは……?」
底で待っていたモルティマーに、ジェイソンが震える声で問いかける。
「母上が作らせた隠し通路だ。もちろん、父上には内密にな。王宮の正面から出るには、煩わしい近衛兵どもの目を盗まねばならん。人目に触れぬよう、不都合な用件を片付けるために作らせたのだろうよ」
事もなげに言い放つモルティマーの言葉に、ジェイソンは戦慄した。
(国王陛下に内密の通路……それだけで、万死に値する大罪だ……)
動揺を必死に押し殺し、ジェイソンは湿り気を帯びた闇の中、モルティマーの背を追った。
「これは、どこへ通じているのですか?」
「北翼の主寝室。かつて母上の居室だった場所だ」
感慨の一つもこもっていない、事務的な答えだった。
ジェイソンの背筋に、得体の知れない、ぞわりとした感触が走った。
(あの、極刑に処された王妃の寝室……)
まだ部屋に辿り着いてもいないというのに、処刑されたゲルダ妃の妄執が冷たい手で自分の首に纏わりついてくるような錯覚に陥る。
(ち、違う。俺はゲルダ妃のために動いているんじゃない。あの女に利用されてたまるものか……!)
ひんやりとした壁の感触に肌を粟立たせながら、二人は先を急ぐ。
だが、通路は果てしなく長く、空気は澱んでいた。
日頃の放蕩と不摂生がたたり、若いはずの二人の体力は底を突いていた。重い足を引きずり、何度も立ち止まっては、息をつく。
這うようにして通路を抜け、ようやくゲルダの遺した居室へと辿り着いたとき、太陽はすでに天頂を過ぎようとしていた。




