あなた方を誇りに思いますよ
アテナ・ルーミスの校長復帰式典という未曾有の騒動を経て、シンクレア学園は平穏を取り戻した――かのように見えた。
懸念されていた生徒たちの心理的ダメージは、驚くほど皆無だった。それどころか、女子生徒たちの間では、冷めることのない奇妙な熱狂が渦巻いていたのである。
「あの令嬢方の、たおやかな身のこなし……本当に素敵でしたわ」
「ええ。それでいて、襲いくる刺客をバッタバタと薙ぎ倒してしまうのですもの。度肝を抜かれましたわ」
「なんでも、『ユースティティア式』という体術らしいですわよ」
「まあ! どこかで教えてくださる場所があるのかしら?」
そんな噂が瞬く間に広がり、ついに『ユースティティア式・絶対制圧体術』の道場から、「生徒が詰めかけすぎて困っている」という悲鳴混じりの連絡がアテナのもとに届いた。
(せっかくやる気になっている彼女たちを、応援したいのだけど……)
アテナが思案の末にイングリッド理事長へ相談を持ちかけると、理事長は面白そうに目を細めて言った。
「学園のホールを開放して、課外授業として取り込めないかしら?」
その閃きはすぐさま実行に移された。道場側も「学園のためなら」と快諾し、こうして前代未聞の課外クラブ活動、『ユースティティア式・絶対制圧体術部』が誕生したのである。
週に二度、道場から派遣された師範代が放課後のホールで指導を行う。
果たしてどれほどの生徒が集まっているのか。アテナが様子を覗きに行くと、そこには驚愕の光景が広がっていた。
なんと、学園の女子生徒のほとんどが、動きやすい稽古着に身を包んで整列していたのだ。
かつては重いドレスに身を隠し、淑やかに微笑んでいた令嬢たちが、今は額に汗を浮かべ、真剣な眼差しで拳を振るい、組み手を交わしている。
アテナはしばらく呆然と立ち尽くし、やがて堪えきれずに笑い出した。
貴族女性はこうあるべき、誰かに守られるべき――そんな、何世代にもわたって押し付けられてきた窮屈な殻を、彼女たちは今、自らの力で粉々に壊そうとしているのだ。
(私は、あなた方を誇りに思いますよ)
アテナは満足げに、そして誇らしげに、熱気に満ちたホールをそっと後にした。




