ふん、救いようのない女狐め
「ははっ……ははははは! ざまあみろ!」
サビーナ・アカデミーの寄宿舎の一室。母・ゲルダが死罪に処されたという報せに、モルティマーは狂喜の声を上げた。
母が嫌いだった。意地悪で、虚栄心の塊で、底なしの強欲。思い出すだけで吐き気がする。
そもそも、自分がこの薄汚い寄宿舎に押し込められているのも、元を正せばあの女のせいだ。
廃嫡が決まったあの日、逆上した母から受けた折檻の痛みは、今も頬の傷跡に刻まれている。石を内側に向けた指輪で、何度も、何度も。
母が荒れ狂ったのは、息子を想ってのことではない。自分が「国母」という至高の椅子に座り損ねたことが許せなかっただけだ。
「……ふん、救いようのない女狐め」
吐き捨てると同時に、彼は隠し持っていた禁忌の薬に火を灯した。
肺の奥まで吸い込んだ紫煙が、脳を甘く痺れさせていく。意識が揺らぎ、不遇な現実が遠のく。
ああ、心地いい。
俺は第一王子だ。
何をしても許される。
それなのに、なぜ。
なぜ、俺が、こんな、場所に。
あの女が処刑台で無様に泣き喚く姿を拝んでやりたかった。
あ
の
お
ん
な
?
……誰のことだ?
不意に、消えたはずの頬の傷が疼いた。
熱い。痛い。……そうだ、母上だ。
薬の霧に包まれた思考の中で、邪悪な閃きが弾けた。
つまり――。
俺は。
最愛の母を。
不当に殺された。
悲劇の。
王子。
「……くくっ、これだ。使えるぞ」
焦点の合わない瞳を虚空に向け、モルティマーはひび割れた笑い声を漏らし続けた。
頬の傷跡を愛おしげに撫でるその指先は、すでに現実と空想の境界を失っていた。




