ババブブブ!(僕だって、そのうち大人になるんだい!)
事件の報告をすべて聞き終えたとき、ポレッタ妃は堰を切ったように泣いた。
ノエルが無事で良かったと泣き、エドワードが無事で良かったと泣き、そして――自分だけが何も知らされていなかったと、寂しさに泣いた。
ポレッタがようやく泣き止むと、エドワードは彼女の肩を抱き、優しく語りかけた。
「……さて。北翼が空になった。あそこを何に使おうか?」
「そうですわね。よく耳にするのは、一方の翼を王の居室に、もう一方を王妃の居室に、という形ですけれど……」
その提案を聞いた瞬間、エドワードはあからさまに拗ねた。王としての威厳もどこへやら、大いに拗ねてみせた。
「……私を南翼から追い出したいのかい?」
「まあ、そんなわけありませんわ」
ポレッタが可笑しそうに微笑むと、エドワードの機嫌は瞬時に直った。
「私たちも、いつまでも子供のままではありませんから、(北翼を使うことも出てくるでしょう)」
アイラがふと漏らした一言に、ノエルは早くも将来の妄想を膨らませる。
(そうそう、僕たちだってそのうち大人になる。僕は国王なんて柄じゃないから、いっそアイラに王になってもらおう。僕は臣下に下って公爵位でももらい、暖かい領地でソフィアと楽しく暮らして……)
一方、アイラもまた、別の未来を夢見ていた。
(北翼で王太子の職務に励む兄さまを支えるために、さらに諜報活動に精を出して、影からこの国を操り……)
あまり表には出さないが、アイラは重度のブラコンなのである。兄の知らないところで、彼女の忠誠心(と愛)はさらに研ぎ澄まされていた。
「ババブブブ!(僕だって、そのうち大人になるんだい!)」
末っ子のロビンが、負けじと声を上げる。
それを聞いたノエルが、しみじみとした表情で呟いた。
「ロビンが僕の歳になる頃には、僕は三十歳か……。おじさんだよ。……いや、待てよ。僕は素敵な『オジサマ』を目指すことにするよ! カッコいい髭なんか生やしちゃったりなんかしてさ!」
ツルッとしたゆでタマゴのようなノエルの顔に、ヒゲを足した姿を想像し、家族は涙が出るほど爆笑した。
北翼を覆っていた冷たい呪詛は消え去り、王宮には、ミルクの香りと未来を語る笑い声だけが満ちていた。
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