なんですって……! おーっほっほっほ!
「アテナ・ルーミス、校長職に復帰」
その衝撃的なニュースが学園中を駆け巡ったのは、それから間もなくのことだった。
学園公式から復帰式典の開催が発表されると、生徒たちは「校長復帰に式典を?」と一瞬の困惑を見せたが、それもすぐに、敬愛する師の帰還を祝う歓喜と期待にかき消されていった。
その報は、腹心の子飼いを学園に潜り込ませ、執拗に動向を探らせていたゲルダ妃のもとへも、最速で届けられた。
「なんですって……! おーっほっほっほ! ちょうどいいわ。式典の真っ只中、あの女が最も輝く晴れ舞台を、そのままあいつの棺桶にしてやるわ!」
ゲルダは狂気を含んだ笑い声を上げ、おもむろにペンを走らせ始めた。
*
時は少し遡り、式典発表の少し前。
イングリッド、アテナ、ソフィアの三人は、ノエル王子の手引きにより商人の姿に身をやつし、王宮の奥深くへと足を踏み入れていた。
幾重にも張り巡らされた隠し通路を抜け、ついに国王エドワードとの謁見を果たす。
「アテナ……今回のことと言い、モルティマーの件と言い、何と詫びればよいか」
エドワードが沈痛な面持ちで頭を下げると、アテナは毅然として首を振った。
「いいえ、陛下。どうかお顔をお上げください。モルティマー様の件は、教育者である私がもう少し早く手を打てていればと、今でも……」
「ストーーーーップ!」
ノエルが二人の間に割って入った。
「父上、アテナ先生! 謝罪大会は後だよ。今は一刻を争うんだから!」
エドワードは苦笑し、「お前の言う通りだな」と表情を引き締めて一同を見回した。
「では、計画を立てよう。……ゲルダという女は、常に自分が世界の中心でなければ気が済まない性質だ。逆に言えば、他人が喝采を浴び、栄誉を授かる光景には、耐え難いほどの憎悪を燃やす。この性質を利用するんだ」
イングリッドが静かに口を開いた。
「陛下、それならば……このような案はいかがでしょうか」
彼女が提示したのは、前代未聞の「校長復帰式典」の開催だった。
不当な圧力を跳ね除け、身を挺して一人の女子生徒を守り抜いた「真の教育者」アテナ・ルーミスの帰還。その物語を煽り、人々の耳目を集める。
「ふむ、面白い。民衆の期待を高めれば高めるほど、彼女への栄誉は重くなるというわけか」
「左様でございます」
「ならば、式典はあえて『野外』で行うのはどうだろうか」
「野外……ですか?」
アテナの問いに、エドワードは鋭い眼光で頷いた。
「当然、警備上の危険は増す。だが、野外であれば『部外者』が遠目から眺めることも容易だ。ゲルダなら、この絶好の機会を逃すはずがない。暗殺を命じるだけでは飽き足らず、宿敵が絶望に沈む瞬間を、己の目で直接見届けようと、必ずどこかに現れるはずだ」
エドワードの言葉に、四人は深く頷き、網を仕掛ける決意を固めた。
栄光の光に影を潜ませ、狂える王妃を誘い出す。命懸けの舞台装置が、静かに動き始めた。
お読みいただき、ありがとうございました。




