えっ、物置? 僕、何されるの……?
「ソフィア……室長!」
生徒相談室のドアからひょっこりと顔を覗かせたノエル王子を見て、ソフィアはいつものように「教室へお帰りなさい」と追い払おうとして、不意に言葉を呑み込んだ。
明るい笑顔の奥に、拭いきれない憂いを見て取ったからだ。
「殿下、何かありましたか?」
「もう! ノエルでいいってば。……まあいいや。ソフィア室長、アテナ・ルーミス先生が今、どこにいるか知ってる?」
心臓が跳ねるような問いに、ソフィアは一瞬で表情を硬くした。
「……なぜ、それを?」
「詳しくは言えないんだけど、危険なんだ。先生に気を付けてほしいんだよ」
「ちょっとお待ちください」
ソフィアは制止した。ここはいつ他の生徒が相談に来るか分からない。
「続きは放課後、場所を改めて伺います。よろしいですね?」
*
放課後。ソフィアに連れられ、ノエルは理事長室を訪れた。
理事長イングリッド・シンクレアは二人の顔を見るなり無言で頷き、部屋の奥にある隠し扉――ノエルには物置にしか見えない小部屋――へと彼らを招き入れた。
「(えっ、物置? 僕、何されるの……?)」
少々怯えるノエルの前に、以前見かけたことのある凛とした女性が立ち上がった。
「初めまして、殿下。アテナ・ルーミスです」
「なんだ、僕たちもう会っていたんだね。ノエルです、よろしく」
イングリッドが重々しく告げる。
「ここなら誰にも聞かれません。さあ、お話しください。何があったのですか」
「うん。えーっと……具体的なことは秘密だって言われてるから、聞かないでほしいんだけど」
そう前置きして、ノエルは父から預かった確信を口にした。
「あるリストが手に入ったんだ。そこには数人の名前が書かれていた。――カサンドラ・レクトル、アテナ・ルーミス、イングリッド・シンクレア。それから父上と、僕と母上」
モルティマー廃嫡事件の立役者である三人の顔から、一気に血の気が引いた。
「そして証言がある。このリストを見つめながら、『一人ずつ地獄へ落としてやる』と呟きを聞いたという」
三人の脳裏には同時に、一人の狂える王妃の顔が浮かんだ。
「父上も手を打ってくれているけれど、どうか用心して。特にアテナ先生。カサンドラは行方不明で見つからないから、最初のターゲットは先生なんだ」
あまりの衝撃に、沈黙が部屋を支配した。アテナはやっとの思いで言葉を絞り出す。
「……しかし、私が今ここで身を隠せば、彼の人の矛先は次に記された理事長へ向かいます」
「そして、私が逃げ出せば」イングリッドが厳しい顔で続いた。「次の標的は、陛下になる」
ノエルはゴクリと唾を呑み込んだ。
国王には厳重な護衛がついている。だが、同じ屋根の下に住む正妃ならば、いつか「その時」を作り出せてしまうかもしれない。
もし国王が暗殺されるようなことになれば、この国の未来は闇に閉ざされる。
リストを作った、不穏なことを呟いた。そんな程度では、王妃を捕らえる証拠にはならない。
打開策が見つからぬ中、アテナが静かに、しかし決然と告げた。
「私が、囮になります」
「止めてください!」
「ダメだよ、そんなの!」
「馬鹿なことを言うもんじゃない!」
三人の叫びを、アテナは掌をかざして静めた。
「もちろん、無策で飛び込むつもりはありません。相応の準備を整え、隙なく網を張ります。殿下にも協力していただきますよ。これは王宮の膿を出し切るための作戦なのですから……陛下にも、動いていただかねばなりません」
アテナの瞳に宿る、鋭く冷徹な光。
三人は唖然としながらも、彼女が語り始めた「反撃の計画」に引き込まれていった。
お読みいただき、ありがとうございました。
40話完結を目指しているので、半分を超えました。
あと18話も書けるのだろうか不安ですが、頑張り⋯いえ、気負わずに、書けたらラッキーくらいの気持ちでやります(#^.^#)




