始めまして、じゃないんだけど
陽光が降り注ぐ昼休みの中庭。ベンチに腰を下ろすアイリスとセレナは、穏やかなティータイム……ではなく、意外な話題に花を咲かせていた。
「体術というのは、学べば学ぶほど奥が深くていけませんわ」
「ええ。あの忌々しい元婚約者を投げ飛ばした時の指先の感触、今でも忘れられなくて。もっと大きな殿方を制圧してみたいものですわ」
「ええ、自分の技量を試したいというお気持ち、分かります。大きな男性を倒してみたいものですわ」
淑やかな微笑みを浮かべながら物騒な望みを口にする二人。そんな彼女たちの視界の端を、一人の男が何度も通り過ぎる。
二人は自然と彼を目で追った。
レオはなかなか話しかけるきっかけを作れずにいた。
もう何周目だろうか。
いや、まだまだ疲れはしないが、何のためにここに来たかを思えば、情けないことだ。
そう思って彼女たちの方をちらっと見れば、こちらを凝視しているような気がする。
いや、気のせいだ、と思いつつ、しばらくしてからまたチラ見すれば、明らかに見ていると思われる。
そして、アイリスがおもむろにどうぞこちらへと手招いた。
しっぽブンブン状態の大型犬を思わせる騎士が、いそいそと目の前にやって来ると、セレナは信じられない思いでアイリスを見た。
(ええ、ええ、大男を倒したいとは申しましたが⋯)
アイリスが突然、口を開いた。
「セレナ様、こちら、レオ様ですわ。私たちを三ヶ月間ずっと見守ってくださっていたのよ」
「えっ?!」
はあ、と照れながら頭を掻くレオ。
セレナは居住まいを正して言った。
「それは、本当にありがとうございました。私は多くの方の助けを借りて、不本意な婚約を解消できたのですね。感謝いたします」
深くお辞儀をした。
レオは、あわわわ、止めてください、と焦っている。
フィンは今だとばかり植え込みの陰から飛び出して、わざとらしく言った。
「あれえ、兄さん、こんなところで何してるの?」
(兄さんたらまだあわわわしてるよ。頼りないんだから、もう!)
仕方なく、自己紹介した。
「初めまして、じゃないんだけど。僕はフィン・グラント。二年生。これの弟です」
と、兄を指さす。
「あっ、昨日の⋯」
セレナは、思わず呟いた。
(麦袋状態の僕を見られてた!? 兄さんのバカぁ!)
フィンはシミュレーションしていた会話が頭から消し飛んだ。
まだ、あわわわしているレオと、魂が口から出かかっている弟。
令嬢二人は、いそいそと彼らを介抱するのだった。




