証左
持ち帰り調べたところ、やはり蝋燭にも辰砂が入っていた。
辰砂は石の状態であれば、普通に触っても体に害はない。しかし砕いたりして、鼻や口から体内に入ると、その毒が蓄積されて死に至るのだ。
「そう考えると、蝋燭に混ぜるのは効果的だな。こうして事前に調べない限り、使い切ってしまえば証拠も残らない」
「感心してる場合かよ」
カルバの言葉に、オーベルが苛立ったように眉を顰めて言う。叔父と甥のくせに、こういうやり取りしか出来ない二人に内心、やれやれと思いながらイリヤは口を開いた。
「知らずに、この蝋燭を使い続けたとしたら……死ぬのは、いつくらいだ?」
「トオルさん!」
「そうだな……これくらいの量なら継続して、数か月から一年くらいかな」
「症状は、頭痛や吐き気……あと重症だと、歩けなくなったり昏睡状態になるんだったか」
「……そうです」
イリヤの問いにカルバが答え、母親のことを思い出したのか動揺しつつも、しばしの間の後にオーベルも答えた。それに頷き、イリヤは二人に言葉を続けた。
「逆に死ぬのが決まっていれば、これ以上の手出しはされないってことだな。証拠集めにもなるし……よし、気に入ったって言ってオーベル経由で定期的に蝋燭を貰おう」
「そう言うと思ってましたが……死亡時期の目安を聞くなんて、まさか、本当に使ったりしませんよね?」
「誰が使うか。もっとも、いつまでも健康体なら疑われるから……そこは、化粧と減量で補うことにしよう。あ、卒業式の前の三学期に休みがちになれば、ユージンも揺さぶれるな」
「イリヤの演技に期待するよ」
「まあ、あの坊ちゃんだと死にそうになったら母親が怖くて、さっさと手を引く可能性もあるが……そこは、リブレ国で治療法が見つかったことにしよう。さて、ライバルを毒殺までするラウラを、どう思うかだな」
心配そうなオーベルと楽しそうに笑うカルバに、イリヤはそう言って肩を竦めた。
※
最近のユージンは、ラウラと少し距離を置いている。登下校は一緒にしているが、馬車を降りて教室に行けば、彼はすぐ自分の席に着いていた。
そんなユージンと入れ違いに、イリヤがラウラに近づいていく。
「あら、ローランさん」
「ファーレンハイト様、昨日はありがとうございました」
「いいえ。いつも、あなたの傍仕えの方に助けて貰っているから……ほんの、ささやかな気持ちよ」
「ありがとうございます。昨夜、早速使いましたが、とても素敵な香りでした」
「良かったわ……気に入ったのなら、また届けさせますね」
「ありがとうございます」
イリヤはともかく、ラウラが機嫌良く対応していることにユージンは違和感を抱いた。
そしてその後、少しずつだがイリヤの顔色が悪くなり、痩せていくのを見てユージンはゾッとすることになる。




