対比
ファーレンハイト家で、高位貴族の令嬢を招いて茶会を開く。ファーレンハイト家もまた公爵家であり、れっきとした高位貴族なので本来であれば何の問題もない。
しかし、ラウラがこれまで高位貴族の令嬢との交流を持ってこなかったのと──今回のことを機に、令嬢達の母親がラウラだけではなく、ラスティとも距離を置こうとしているのである。
(今でこそ公爵家夫人だが……ラスティが平民なのが、仇になったか。これではラウラは元より、下手をするとラスティが招待状を出しても断られてしまう)
そんな訳で、宰相であるラルフの名で招待状を送った。学園に入る前の交流は親が先導するが、普通は母親である。異例でしかないが、そもそも令嬢達が参加して場が成立しなければ話にならないので仕方がない。王妃直々に促されたので、最低限でも形にしなければ。
(……しかし、本当に最低限だな)
まず主催者であるラルフに挨拶した後、令嬢達は娘であるラウラに挨拶をした。その後、茶葉や料理を令嬢が褒め、それに対してラウラが令嬢達のドレスや髪飾りを褒めるのだが──会話が、続かない。ラウラは話題を膨らませようとするが、令嬢達が返事や相槌だけで会話を打ち切るのだ。
(まあ、ラウラが悪いんだがな……友人や生徒会の仲間と称して、彼女達の婚約者を侍らせたのだから)
だから、令息であればラウラは高位貴族との交流はあったのだ。もっともハリドとソフィア、そして彼女の友人達の婚約解消があってからは、令息達から距離を置かれてしまっている。
(苛立っているようだが、何とか最後まで堪えてくれ)
眉を顰めたり笑みを引きつらせるラウラに、ラルフはこっそりため息をついた。情けない。来年、成人を迎える令嬢に対する心配でない。
もっとも、ラウラが苛立つのにはもう一つ理由がある。
実は今日、王妃がイリヤを城に招くのだ。そのことで、ラウラがどんな反応をするか解らないので、王妃はあえてラウラが乱入出来ない今日にしたようだけれど。
※
「息子から聞いたわ。婚姻は契約で成り立つ、だったかしら?」
「……はい」
「ああ、いいのよ。気にしないで……でも、いえ、だからこそ? ハリドどのとは、結婚出来ないとも聞いたわ」
「…………」
「ごめんなさい。最初にする話ではないわね。お茶とお菓子を用意したからどうぞ、遠慮なく召し上がれ」
「ありがとうございます、いただきます」
王妃レミーアからの疑問に答えたり、話しにくいと『思われる』ことにはあえて答えなかったり──そして、目の前に出されたお茶と焼き菓子に対して、イリヤは意識して微笑んだ。
(絶対、毒入りだろうな)
とは言え、まさか食べてすぐ具合が悪くなったら問題になるだろうから、以前のようにごく少量だろう。もっとも、だからと言って解っていて毒を口にするのは、気分が良いものではない。
(ない、が……まさか茶会に招かれていて、何も口にしない訳にはいかないからな)
内心、やれやれと思いながらイリヤは焼き菓子を手に取った。そして淑女らしく、かぶりつくのではなく一口サイズにして口に運んだ。
(……まあ、普通に美味いな)
もっとも家に戻った後は、薬湯や果物などで排出するのだが。
そんなことを考えながら食べ、おそらく辰砂入りの紅茶にも同様の感想を抱いていると、レミーアが微笑みながら口を開いた。
「綺麗な所作ね。リブレ国で習ったの?」
「はい」
「とても、平民には見えな……ごめんなさい。口が過ぎたわね」
「いえ。逆に学んだ甲斐があります」
まあ、学んだのも事実だが、ジャンヌが学んだ数少ないことに茶会のマナーがあり下地はあった。舐められる要素は少ないに越したことはないし、ソフィアやその友人との茶会の時も困らなかった。
そう思い、微笑みながら答えるとレミーアが感心したように言葉を続けた。
「あなた『は』、順調に社交を行なっているようね」
「……ええ。時間は、限られておりますから」
「優れた娘を得られて、ローラン伯は幸せね」
何気ないレミーアの言葉に、イリヤは自分の腹の奥が怒りでカッと熱くなるのを感じた。
今、お前が褒めている娘をかつて、貴様が勝手に侮って虐げて捨てた。そしてその時、肩入れした娘が期待外れだったからと、再び手を伸ばそうとしている。
(利用はする。だが、絶対に搾取はさせん……ジャンヌは、俺が守る)
自分の内にいる『ジャンヌ』に誓いつつ、イリヤは微笑みながら答えた。
「恐れ入ります」




