検討
イリヤとオーベルは、王立学園でそれぞれ復讐の為に動いている。
一方、二人の保護者であり雇い主でもあるカルバもまた、オーベルであり自分の復讐の為に動いていた。
己の容姿とリブレ国の珍しいもので王妃や貴族、または使用人達の懐に入り込み、好意的に対応されているし何なら愚痴を聞くこともある。
「私はもうじき、国に帰ります。だから、ここだけの話……私との、ささやかな秘密ですよ?」
憂いでいる、または苛立っている相手に微笑みながらそう囁く。そうすると、男女問わず簡単に口を開くのだ。そして最近、よく話を聞くのはラウラとハリドのことである。
(ハリドは解りやすく声を荒げ、ラウラは一見、取り繕っているか……使用人にきつく当たって、八つ当たりをしているようだな)
出力の仕方は異なるが、どちらも癇癪を起こしているようだ。似ているのでイリヤがそそのかした通り、二人が結ばれれば良いと一瞬だけ考えたがすぐに思い直した。それでは、毒で苦しんで死んだ妹の復讐は果たせない。
それにラウラは、遊び相手としてはともかく結婚相手としてはハリドを見ていない。彼の国は観光地でこそあるが、一方で田舎なので大国エスカーダで生まれ育ったラウラにとっては、数日観光するだけならともかく永住する国ではない。それもあって、オーベルに目をつけたのだろう。
ちなみにオーベルは、ラウラのおねだりに応えて彼女と距離を縮めたらしい。万が一、探られては困るのでイリヤやレーヴの伝手は使わず、使用人達に頼った。不愛想だが、逆に声や顔が良い彼が珍しく頼ったことで、簡単に希望の品を入手出来たらしい。
(とは言え、現段階では王太子の婚約者としての頑張りを振りまきつつ、密かにオーベルとの繋がりも持っている状態で……さて、イリヤ経由の提案を王妃は利用することにしたようだが)
王妃の思惑を知ったのは昨日、王妃であるレミーアに呼ばれたからだ。
流石に、王妃と二人きりだとは思っていなかったが──ラウラの父である、宰相・ラルフも招かれていたことにもしやと思った。ちなみに場所は城の東屋で、女官長自らラルフとカルバにお茶を出し、少し離れた場所へと移動した。話は聞かない。しかし、王妃をカルバ達と三人だけにしない絶妙な距離である。
そして女官長が離れたところで、王妃はおもむろに口を開いた。
「今日、二人を呼んだのは……ハリドどのが、婚約解消されたからなの。今後のラウラの頑張りにもよるけれど、私は婚約者入れ替えも検討しているわ」
「…………は?」
ラウラから話を聞いていなかったのか、宰相・ラルフが間の抜けた声を上げた。そんな彼には構わず、レミーアはカルバに笑って話しかけてくる。
「そんな訳で、検討段階ではあるけれどローラン伯? 一度、ご息女を私的にお招きしていいかしら?」
「光栄でござ」
「ま……待って下さい! ラウラと入れ替えとは、どういう!?」
恭しく答えるが、遮るようにラルフが王妃との話に割り込んできた。もっとも予想していたのか、レミーアは淡々とラルフの問いに答えた。
「言葉通りの意味よ。ユージンの婚約者はローラン伯令嬢に、そしてラウラはハリドどのの婚約者に……公爵令嬢だから、適任でしょう?」
「娘は、ユージン殿下の婚約者でございます! ハリド殿下には、それこそローラン伯令嬢を」
「それがねぇ。そもそもの婚約解消の理由が、ハリドどのが婚約者よりラウラを優先した上に、ローラン嬢に乱暴な態度を取ったことなの。まあ、ラウラも反省しているようだから、先程も言ったけれど『頑張りによれば』入れ替えず、ローラン伯にご令嬢との仲を取り持ってほしいのだけれど」
そこで一旦、言葉を切ってレミーアは笑みを深くした。
「今後、その『お願い』をする為にも一度、ローラン嬢とお話ししたいの。ローラン伯、お願い出来るかしら?」
「かしこまりました」
「ラルフはラスティと共に、ラウラにもっと頑張るよう伝えてね? 勝手に、下位貴族の令嬢との付き合いで満足しているようだけれど、高位貴族令嬢との付き合いがないなんて王太子妃失格だし……あなたかラスティが、屋敷でお茶会を開いて令嬢達を招待しないと駄目かしら?」
「……承り、ました。私も、検討させていただきます」
カルバとは違い、ラルフは顔を引きつらせつつ何とか返事をしていた。
……仮にも宰相が、来年の年明けには成人する娘の後押しをしろと言われたのだから当然だろう。
(可愛がっているようだから、叱りつけるかまでは不明だが……話を聞いたら、またあの娘は不貞腐れるだろうからな)
それでイリヤに、毒を盛ろうとしてくれたら好都合だ。そう思っていたら、不意に女官長が近づいてきた。その手には、リボンで飾られた箱がある。
「これは、私からローラン嬢に」
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取ったカルバは、微笑みながらも内心、ゾッとした。
(まさかと思うが……もしや妹のように、王妃自らイリヤに毒を?)
ラウラに圧をかけつつ、イリヤにも毒を飲ませて脅しをかける気か──動揺したのは一瞬で、それはそれで証拠になるとカルバは気持ちを切り替えた。




