偽装
学園での地道な挨拶のおかげで、同じクラスの令嬢達と話が弾むようになった。
王立学園のクラス分けは、成績順だ。ラウラにと言うか『真実の愛』に憧れて平民も入学しているが、ラウラ達のクラスにはいない。そして今回、話が弾むようになったのは下位貴族(子爵以下)の令嬢達だった。流石に、平民と仲良くする必要はないと思うのでそこは安心した。
(本当なら、高位貴族が良かったけど……女の嫉妬って、嫌ね)
当人達に『は』何もしていないが、ラウラが親しくしていた令息達の婚約者が、高位貴族の令嬢達だったのだ。それ故、露骨に無視こそしてこないが、ラウラが挨拶しても挨拶を返すだけで終了する。ちなみに下位貴族の令息達は、そもそも王太子の婚約者であるラウラに近づかないので、下位貴族の令嬢達への影響はあまりなかった。
(まあ、この娘達もハリドの騒動は知っていたし……王妃も、身分まではどうこう言ってなかったから良いわよね)
全く良くはない。王妃としては、令嬢達との交流は人脈作りを目的としているので、付き合うなとまでは言わないがラウラが親しくすべきなのは上位貴族の令嬢だと思っている。
しかしラウラにとって令嬢達との交流は、ユージンとの勉強会同様に『王妃とユージンへのアピール』でしかなかった。
だから、仲良くなった令嬢達を自宅に招いてお茶会をした。両親もラウラの偏った交友関係を気にしていたのか、身分はともかく貴族令嬢達との茶会を喜び、特に母は張り切って茶葉やお菓子などを手配してくれた。
(あとは、あの女を片づけるだけだけど……異国人のせいか、使用人に取り付く島もないのは盲点だったわ)
毒自体は母親経由というか、王妃経由ですぐに入手出来る。しかし、そもそもイリヤに近づく術がない。
「美味しいですね」
「流石、ファーレンハイト公爵家ですわね」
「今日はお招きいただき、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
令嬢達の反応に笑顔で返しながら、ラウラは内心で頷いていた。
(こちらは順調ね)
そう思っていると、侍女が何かを入れた器を運んできた。そして、今回の令嬢の一人から貰ったものだと説明してくれた。どこかで見たような果物らしきものに視線で問いかけると、子爵であり小さいが商会も営んでいる家の令嬢が口を開く。
「『ハウハのシロップ漬け』です。冷やすとより美味しいので、お願いしておきました」
「それって確か、リベル国で流行っているのよね?」
「まあ、珍しい」
「私達もいただいてよろしいの?」
「ええ、どうぞ!」
「……美味しい」
令嬢からの指示か、果物らしきものだけではなく器も一緒に冷やされていた。そしてスプーンで一掬いして口に運び、ラウラはたまらず呟いた。そして同時に以前、自分がウナム国で口にしてエスカーダに持ち帰ろうとしたが、駄目になってしまった果物だと思い出した。
その話はせず、けれどウナム国の果物の筈なので尋ねた。
「リベル国の特産品なの?」
「元々の果物は、ウナム国のものらしいですね。ただ柔らかく、そのまま扱うのは難しくて……乾燥させたりジャムにしたり、こうしてシロップ漬けにして売り出しているのはリベル国ですわ」
「そうなの……では、またこうして食べたければあなたにお願いすればいいの?」
令嬢の話に納得し、本当に美味しかったのでそう尋ねた。しかし途端に、令嬢が申し訳なさそうな顔をする。
「申し訳ございません。この商品は普段、ノアイユ商会が扱っていて……今回はたまたま、父がリブレ国に行っていたので手に入りましたの。定期的に食べるのならノアイユ商会なので養女のノアイユ様か、あとはローラン様にお願いした方が良いと思います」
「……まあ、そうなの」
イリヤ、そして彼女にベッタリの平民女となんて話をしたくない。
そう思ったところで、ラウラはオーベルのことを思い出した。
(彼に話せば、手配してくれるかも。仮に駄目でも、話しかける口実にはなるし……そうね、反応を見ながらにはなるけど、彼経由であの女に毒を盛るって手もあるわね)
ほくそ笑んだラウラは知らない。
今回、ハウハのシロップ漬けを持ち込んだ令嬢は家の手伝いをする中で、レーヴが単なる養女ではなく現在の商会長だと知っていることを。
そして、それなのにあえて言わなかったのは──レーヴ経由でイリヤからラウラにハウハを食べさせるよう頼まれ、代わりに彼女の家の商会がノアイユ商会の傘下に入ることになったからだった。




