煽動
ユージンが、母・レミーアと話して数日後。
ラウラは、月に数回の王宮でのお茶会に赴いたが──場所こそ、前回の執務室ではなくいつもの東屋だったが、今日もレミーアだけでユージンはいなかった。学園が休みなのに、である。
「ユージンには、仕事を任せているの……今日は、あなたに伝えたいことがあったから」
「……はい」
微笑みながらの言葉に、ラウラは緊張しながらも頷いた。それに笑みを深めて、レミーアが話の先を続ける。
「ハリドどのの婚約が解消されたでしょう? 代わりの婚約者と言っても、ほとんどの令嬢達は既に婚約済で……でも、ウナム国との交流を考えたら我が国の令嬢と縁付けたいの」
「え? ええ」
「流石に、平民は難しいかしら……と思っていたけれど。知ってる? ハリドどのは我が国に残る為に、ローラン嬢に婚約するよう詰め寄ったらしいわ」
「え」
最初は、ハリドの婚約解消の原因である自分に対しての嫌味かと思った。
だからと言って無言でもいられず、戸惑いながらもラウラは返事をしていたが──続けられた言葉に、絶句した。ハリドの行動に引いたのではない。その騒ぎについて、そもそもラウラは知らなかったからである。
(ユージンも、他の生徒会の皆も教えてくれなかったし……同級生の、皆も)
令嬢達とは最低限の交流しかしていないが、同じクラスには令息達もいる。
それなのに、誰からも話を聞かなかったのはハリドが王族だからと話自体を口留めされたのと──今までなら、それでも誰かはラウラにこっそり教えてくれていただろうが、ハリドの婚約解消に怖気づいて距離を置かれ、結果としてラウラの耳に入らなかったのだろう。
(私は、王太子妃になるのに)
怒りと悔しさの為、頬が熱くなるが──次のレミーアの言葉に、一気に血の気が引いた。
「断られたらしいけれどね……そこで、思ったの。公爵家令嬢であるあなたなら、ハリドどのにふさわしいと」
「…………は?」
「そしてユージンはローラン嬢と婚約すれば、ウナム国だけではなくリブレ国との縁も結ばれるでしょう? 万事、丸く収まるわね……とは言え、あなたはラスティの娘だから」
青を通り越し、白くなって固まったラウラの顔を覗き込むように見つめて、笑みを絶やさぬままレミーアは口を開いた。
「ユージンがいるから、首席は難しいかもしれないけれど……ラスティの娘だもの。あなたなら、その気になれば三位以内に入れるでしょう? ユージンに伝えておくから、一緒に勉強しなさい」
「は、はい」
「あと、令嬢達の味方を作りなさいね。解ったでしょう? 異性とだけ付き合っていれば、こうして耳に届かない話もあるの……ね?」
「は……」
「あなたは、ラスティの娘。平民でありながら、公爵であり宰相であるラルフと結ばれた、ラスティの娘……ラスティのことを、私は本当に気に入っているの。どうすれば良いか解らないのなら、ラスティを見習いなさい?」
「……は、い」
レミーアの言葉に、頭を下げながら──レミーアに見えないようにした上で、口の端を上げてニヤリと笑った。
(その気になれば? 人のことを馬鹿にして!)
(そうね。今後のことを考えて、多少は言いなりになってあげる……でも、そもそもあの女がいなくなれば、もう交代出来なくなるでしょう?)
(ええ、お母様と……あなたを見習って、邪魔者を片づけるわ)
それから笑みを消し、悲しげに目を潤ませて顔を上げたラウラを見て、レミーアは満足げに笑って言った。
「ええ、ラウラ……楽しみに、しているわ」




