言寄
「離せ! 俺は、この女と話があるんだっ」
「ハリド殿下……お静かに」
「ここは図書室です。話はまた、日や場所を改めて」
「……っ!」
遅れ馳せながら、他の生徒会役員の生徒達がやってきて、抵抗するハリドを宥めながら彼を連れて立ち去った。流石にラウラはいなかった。おそらくだが彼女はもうハリドから距離を置いていると思われる。
(自分のせいで、公爵令嬢が婚約解消することになったんだからな……流石に、今も友達なんて言って親しくしていれば立場が悪くなる)
いや、すでに立場は悪くなっていると思うし、そんな彼女への牽制でユージンはイリヤと勉強している。それはラウラがユージンからの印象のみ考えて、王太子妃として行動しなかったことでユージンと、おそらくだが彼の母親である王妃が、ラウラに不満を抱いているからだろう。
そして今回のハリドの騒ぎを利用して、イリヤはユージンに『口実』を与えた。
(努力していない、あるいは努力の仕方を間違えているラウラと、今後も信頼関係が築けるかってな)
あと気づいたのはハリドが先だが、仮にユージンがラウラとの婚約を解消したら、次に婚約者候補になるのはイリヤだろう。そしてユージンは、ハリドがイリヤと婚約することを阻止した。
「ローラン嬢。本当に、すまなかった」
「いえ……かえって、ありがとうございました」
ハリドの代わりに謝るユージンに、イリヤは微笑んでお礼を言った。
気持ちとしてはハリドがいなくなったし、知りたいことは解ったので心配してるだろうソフィア達のところに行きたい。とは言え、イリヤからそれをやると無礼になるので、ユージンも立ち去ってくれないかと思って待っていると。
「……君にとって、信頼関係を築くのに一番、大切に思っていることは何だろう?」
「え?」
「私にはラウラがいるから、今までそれ以外の関係性に少し鈍感になっていたと思っていて……セルシウス嬢には、迷惑をかけた。よければ参考までに、聞かせてくれないか?」
嘘ではないだろう。だがそれを『口実』に、ユージンはイリヤがどう思っているかを知りたいのだろうなと思った。頭は良いのかもしれないが、年の割には子供だなと思う。
(まあ、前世の年齢も併せたら俺、五十近いからな)
ちなみに、微笑ましいなどの感想はない。悪気の有無はともかく、ユージンはジャンヌを虐げた人物の一人だからだ。
だからこそイリヤは、更にユージンが飛びつくような話題へと誘導した。
「お互いに誠実であり、尊敬出来る間柄になることでしょうか……優しければ、言うことはないですね」
「誠実、尊敬……優しさ」
「とは言え、学生のうちは考えられませんね。今回、お断りはしましたが私が誰かと婚約すると、ハリド殿下も複雑でしょうから……私が言うのも何ですが、どなたか良い方とご縁が結ばれると良いですね」
「……解った。ありかとう」
「いえ」
イリヤの言葉に頷くと、今度こそユージンは踵を返して立ち去った。
そんなユージンの背中を見送りながら、イリヤは声に出さずに思った。
(気づいたか? ユージン)
ラウラと婚約解消した後は、彼女とハリドと婚約させれば良い。そうすれば、エスカーダとウナムの縁は結ばれたままだし、ユージンは遠慮なくイリヤを娶ることが出来る。
……まあ、ラウラとしては納得出来ないだろうから、イリヤの襲撃やそれこそ毒を画策すると思われるか。
(お前らの思い通りにはならない)
そう声に出さずに結論付けて、イリヤは心配そうにこちらを窺っていたソフィア達の元へと向かった。




