託言
ハリドが、イリヤを新たな婚約者にと望み──ユージンが、それを止めに来たことは解った。
(とは言え、やり方は最悪すぎるが……俺とハリドの、婚約自体は望んでる? どうだろう?)
自分で言うのも何だが、平民(この体は違うが)でこそあるが今は伯爵令嬢であり、レーヴのおかげで大商会にも伝手がある『イリヤ』には価値がある。逆に元平民だからこそ、今のハリドのように少し強く出れば言うことを聞かせられると思われてもおかしくない。しかも先日は、留学生ながらも学年首席にもなった。これだけ己の価値を上げたのは、ユージンをラウラから奪う為だ。
(ラウラとは、全く正反対の女性……だが、どうだろう? 勉強会はどうも、親からの指示だったようだし)
そういう意味で今回、ユージンの本音を知ることが出来るとイリヤは思った。
今の段階で恋愛かどうかはともかく、ユージンがイリヤに執着しているか。それとも、ただ便利な女としてハリドなどに宛がおうとしているか。
どちらだろう、とハリドの暴言に困惑の表情を『造りながら』イリヤは、ユージンとハリドを眺めた。そんなイリヤの視線の先で、彼女との接触を止められたハリドがユージンに噛みつく。
「馬鹿だと!? 俺がコイツと婚約すれば、国の役に立てるっ」
「ハリド……仮にも、婚約を申し込んでいる相手のことをそんな風に言うとは」
「何を甘いことを言っている! 貴族や王族の結びつきは、どれだけ得があるかどうかで」
「……ええ。婚姻は平民のように恋愛ではなく、契約で成り立つのだと養父から言われております」
イリヤの言葉にハリドが目を輝かせ、ユージンが驚いたように見てくる。
そんな二人の視線を、真っ直ぐに見返して──イリヤは、話の先を続けた。
「ですが一方で、契約だからこそ……信頼出来る相手と結ぶことを、養父から許されております。申し訳ございませんが、人の目があってもこちらを見下す相手のことを信頼など出来ません」
「何だとっ!?」
仮にも令嬢なので、一言「お断りだ」だけで済ませることは出来ない。
あとは『真実の愛』のように、耳に心地好い言葉をあえて選んでみた。だが、結局は同じ意味なのでハリドは怒りに顔を赤くし──その衝動のまま、イリヤへと手を伸ばしてきた。
殴るのではなさそうだが腕か、それとも胸倉でも掴んでくるか。流石に『か弱い女性』が反撃しては色々とまずいので、イリヤは逆らわないことにした。
……すると、イリヤに触れる前にユージンが動き、庇うようにイリヤの前に立った。そして、ハリドの腕を掴んでねじ上げた。
「痛っ……ユージン、何をっ」
「ハリドこそ、頭を冷やせ! そしてローラン嬢の言う通りだし、だからこそお前はセルシウス嬢との婚約が解消になったのだ……信頼関係が、築けなかったのだからな!」
「それは!」
「ハリドの勝手に、ローラン嬢を……令嬢を、巻き込むんじゃない!」
そして、耳障りの良い言葉にユージンはまんまと引っかかってくれた。
そんなユージンの後ろに隠れて、誰にも見られないようにしながら──イリヤはこっそりと、口の端を上げた。




