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令嬢の復讐代行者  作者: 渡里あずま


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32/33

空転

ハリド視点。

 話は、少し前に遡る。

 ソフィアとの婚約を解消したことで、ハリドは王妃から二週間の外出禁止を命じられた。城下町は勿論、学園に登校することも許されず。逆らうのなら国に帰れと言われていたので、仕方なく滞在している王宮の自分の部屋でユージンからノートを借りて自習していた。


(追い出されたくないから、おとなしくするが……せめて、ラウラからのノートだったら良かったのに)


 良かったも何も、婚約解消の直接の原因はラウラに溺れ、公爵令嬢であるソフィアを雑に扱ったり、留学生であるイリヤを脅したりしたせいだ。それなのに、まだラウラとのつながりを求める辺り、ハリドは婚約解消を軽く見ていた。それこそ結婚していないので、おとなしくしていればまた元の生活に戻れると思っていた。

 ……そう、思って『いた』。過去形である。


「はっ!?」


 外出禁止が解除され、明日からまた登校出来ることになった日に。

 ハリドはユージンから、自分が生徒会役員から降ろされたと聞いて声を上げた。驚きではなく、怒りからである。

 けれどそんなハリドに怯まず、むしろより冷ややかに見返してユージンは話を続けた。


「もう一度、言おう……君はもう、生徒会役員じゃない。だから明日以降、生徒会室に来ないでくれ」

「何故!?」

「生徒会役員は、生徒達の見本になる存在ものだ。か弱い令嬢を脅すような、乱暴者には任せられない」

「それは! 君が、ラウラを蔑ろにしたからっ」

「……いくら婚約者だからとは言え、全肯定するつもりはない。悪いことをすれば当然、諫める……それは、君に対してもだ」

「ユージン……」

「王族である君に、ものを言えるのは私だけだ。我が国の為になりたいと聞いていたし、セルシウス嬢に対して、婚約者としての義務を果たしていると聞いていた……まさか二人きりで会うことなく、贈り物も年に一度だけなんて」

「うっ……」

 

 ユージンの言葉は正しい。今までは、ソフィアが黙っていたので周りから責められることはなかったが──娘から話を聞いた、セルシウス公爵がハリドの不実を訴えたことで王妃も、そしてユージンも彼のことを庇えず、むしろ責める立場になったのである。


(いや、でも……生徒会役員をやめても、ラウラとは友達だから)


 そう思い、登校してすぐにラウラに声をかけに行ったら──手を引かれ、教室を出て人気のない階段下へと連れていかれた。そして、戸惑うハリドにラウラは言ったのだ。


「ごめんなさい、ハリド……あなたの気持ちは嬉しいけど、私のせいであなたの婚約が解消されたなんて……申し訳なくて、合わせる顔がないわ」

「そんなことはっ」

「どうか、早く新しい婚約者を見つけて? あなたの幸せを、祈ってるわ」


 潤んだ目で、上目遣いに訴えてくるラウラは、本当に健気で可憐だった。だからハリドは、彼女を安心させるように言ったのだ。


「……ああ! ちゃんと君に、紹介するっ」

「ええ」


 ハリドの誓いに、ラウラが微笑んで頷く。そんな彼女の為に、婚約者を探そうとしたが──王族であるハリドと婚約出来るような高位貴族だけではなく、下位貴族の令嬢達にはほぼ婚約者がいた。いないのは、ハリドとの婚約解消をしたソフィアとその友人達だが、流石に彼女達と婚約を結ぶことは出来ない。そうなると、あとは。


(元凶の、あの女か)


 咄嗟に歯軋りしてしまうが、イリヤはリブレ国の外交官の養女であり、ノアイユ商会との伝手もある。


(そういう意味では便利な女だし……俺の婚約を解消させた、責任を取らせるべきだ)


 そう思ったハリドは、ここで暴挙に出た。本来なら故国に連絡し、イリヤの義父であるローラン伯に婚約の許可を得るのだが、急ぐあまりに直接イリヤと話をつけようとしたのだ。


「貴様、俺と婚約しろっ!」


 自習室から出てきたイリヤに、ハリドは命じた。


「ハリド、何を馬鹿なことをっ!」


 そんなハリドは、すっかり信用されておらず。

 ユージンや生徒会の面々に見張られていたので、彼を止められるユージンが駆けつけたのだった。

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