67話 キサラの作戦
水竜の喉元を捉えたかに思えた一撃は、何もない空を切る。
サリーが飛びかかった直後に、水竜は素早く羽ばたき飛び上がったのだ。
水っ気のある砂が舞い散る中、奴はその流れでアシュードを踏み潰しにかかる。サリーは虚しく、バシャンと水面に着地した。
「おい、ダレス! 攻撃が読まれてるみたいだぞ」
アシュードは腰をぐっと落としながら、水竜のゴツゴツとした足を受け止める。余裕を感じさせる横顔に、少し影が見え始めた。フレンは焦ったような声色で、治癒魔法を唱える。
サリーが攻撃する直前。水竜は確かにアシュードだけを見ていたが、こちらの攻撃を回避するために最低限の跳躍を行った。周囲の状況をしっかりと把握している証拠だ。
これが水竜。単なる本能的な動きではなく、しっかりと空間を把握しての立ち回り。簡単に首を取らせてはくれないようだ。だが、まだ一発外しただけ。
心の中で俺はサリーに呼びかける。躱されるなら、躱せないほどの速さと鋭さで。
俺が大きく腕を振ると、サリーは水面を蹴って駆け出した。そしてもう一度、水竜の首筋に刃を向ける。
「くっ……」
やはり大剣は水竜に届かない。サリーは体を切り返し、再び斬り付けたのだが、これも最小限の飛翔で躱されてしまう。
何がいけないのか、どうすれば良いのか。サリーを操るように手を振りながら、俺は思考し続けた。
だけど答えは出てこない。だからといって攻撃をやめるわけにはいかない。ほんの一瞬の攻防が、まるで何分もの間膠着しているかのように感じられた。
額から汗が流れ落ち、呼吸が浅くなってくる。身体を蝕むように体力と魔力が削られていく。それでも俺はただ、サリーと共に戦った。
「ダレス! ストーップ!」
ぼんやりとしかけた意識がパッと鮮明になる。声のする方を向くと、キサラが両手を筒のように口元に当て懸命に叫んでいた。
「サリーちゃんと一緒にこっちに来て」
「でも水竜が」
「いいから、わたしを信じて」
湖面で反射した日光がキサラの瞳を煌めかせた。彼女の目に揺らぎはない。この状況でも打開策が浮かんでいるのだろうか。
「わかった!」
俺は託すような思いでキサラに向かって走り出す。それを見て、キサラは安堵したように微笑み、湖と反対の森の方へと駆け出した。
「みんな! 絶対戻ってくるから、少し時間を稼いで」
走りながら振り返り、キサラは言う。
「頼んだぜ、キサラ!」
「お願いします!」
「ダレス! ちゃんとキサラを守ってくださいね」
アシュード、メロ、フレンは交戦しながらも、俺たちの背中を押すように力強い言葉をかける。
リーダーであるキサラへの信頼。それが、みんなの表情や仕草からありありと伝わってくる。俺は足をさらに大きく踏み出し速度を上げる。ようやくキサラの隣へと追いついた。
「これからどうするんだ?」
「あの槍の子。トージっていったっけ? 彼を追いかけるよ」
まさかの名前に、俺は目を丸くする。キサラを信じて間違いはないと思ってはいるものの、頭の中で不安が膨らんでいく。
アクアトードから逃げていたトージが、水竜を何とかできるのか?




