46話 最深部
「ゴーレム?」
「そう、ゴーレム。ざっくり言うと岩の巨人だよ」
首を傾げる俺を見て、キサラは両腕に力こぶを作ってみせた。
微かに筋肉が浮き出る程度の二の腕。硬いというよりムチムチしている。
これでは弱そうなイメージしか浮かんでこない。
ダンジョン出発前。クエストを受注するため訪れた、村の冒険者ギルド。
窓から差し込む朝の日差しが、床上を舞う塵をキラキラと照らしている。ここを利用する冒険者は少ないのか、掃除はあまり行き届いてないらしい。
キサラは、ギルドから得た情報をパーティメンバーにレクチャーしてくれている。主にダンジョンの知識が無い俺を中心に。
「ゴーレムがダンジョンのボスか…… 相性はあまり良くなさそうだぞ。こっちの攻撃はサリーちゃん頼りだからな」
アシュードは渋い表情で俺の隣に立つサリーを見つめる。「岩の体に物理攻撃は通り辛いですからね」と、悩ましそうにフレンだ。
どのダンジョンにもボスと呼ばれる魔物がいるようで、そのボスを討伐すれば、魔物がダンジョンの外に出てくることはないらしい。ダンジョン攻略とは、ボスを討伐することを指すそうだ。
しかし、ボスはダンジョンの最深部にいるらしく、攻略に挑む冒険者を阻むように、魔物や罠がダンジョン内に存在しているとのことだ。
「大丈夫だって。メロのデバフ魔法で防御力を下げれば攻撃は通るはず」
「ゴーレムの体なんて、ふわふわの綿菓子みたいにしてやりますよ」
キサラとメロは肩を組んで、仲良さそうに高笑い。どこからそんなに自信が湧いてくるんだ。
でもまぁ、メロが自分の魔法に自信を持てるようになって良かった。
「いつも通りやろう。アシュードが敵を引きつけて、メロが魔法をかける。弱ったところをサリーちゃんが叩いて、フレンは適宜回復魔法を。これで大勝利だよ」
親指を立てるキサラに、一同は「おー」と腕を高く挙げて応えた。
◆◆
「さっすが、サリーちゃん」
キサラがパチンと指を鳴らす。
目の前には真っ二つで横たわる巨大なトカゲが二体。生臭さと鼻を刺す刺激臭が漂ってくる。
奇襲は簡単に成功した。連係を取る必要もなかったな。
「うえっ、こいつポイズンリザードじゃん。毒あるよ毒。触らないでね」
キサラは魔物の顔を覗き込むと、鼻をつまんで苦い顔をする。
アシュードぐらいデカいのに、毒まであるのか。まともに戦っていたら厄介だったろうな。
「キサラの言う通りだな。だが、ポイズンリザードがいるなんてギルドの報告にはなかったろうに」
アシュードは神妙な面持ちで、切断された魔物の隣を通り過ぎる。
「ギルドも見つけられないぐらい数が少ないんじゃないの? 面倒な相手だけど、レアキャラに出会えたと思えばいいんだよ。なんかラッキーじゃない?」
「レアキャラって……」
しみじみと言うキサラに、フレンは呆れ顔で返す。
「警戒は必要だけど勝てない魔物じゃないし、どんどん行こーう」
キサラは腕を突き上げ意気揚々と先頭を行く。「本当にキサラは……」とメロは困ったように眉尻を垂らしながらも、少し楽しそうに呟いた。
アシュードの抱いた不安とは裏腹に、俺たちは大きな問題もなくダンジョンを進んでいく。
キサラの道案内で戦闘は最低限で済んだし、ポイズンリザードのような強力な魔物と対峙することはあれから一度もなかった。
ここまで全てキサラの読み通りといったところで、十分にパーティーの体力を温存したまま俺たちは最深部へと辿り着いた。
「この先にボスのゴーレムがいるから。みんな、手筈通りにお願いね」
キサラは目の前の巨大な扉をコンコンと拳で叩く。
パーティメンバーは顔を見合わせて静かにうなずいた。ここまで上手くいっているからか、みんなの顔に不安の気配はない。
無限に続くかと思えた通路を抜け、突如現れた鉄製の扉。
その表面は所々錆びており、壁から伸びる緑色のツルがぐるぐると巻き付いている。
アシュードがツルをかき分け扉に両手を着く。「行くぞ」と威勢のよい掛け声を出しながら、両手に目一杯体重を乗せた。
軋む音を立てながら、二枚の板は押し込まれるようにして開く。中から漏れ出すジトッとした熱気。
そのままアシュードが先陣を切り、俺たちは武器を構えて後に続いた。
「ボスは…… どこだ?」
アシュードは注意深く視線をさまよわせる。だが、キサラの説明で聞いた岩の巨人はどこにも見当たらない。
中は膝下ほどまで伸びた緑や赤の草花がびっしり生えていた。
一際目立つのは、部屋の中央にそびえ立つ大木。草花をかき分け伸びる数本の木が、絡まり合って一つになっている。
壁はここまで通った通路と同じように光の粒が輝いているが、天井は暗闇で包まれており部屋の高さがわからない。
その暗闇の中へと吸い込まれるように、大木は螺旋状にねじれながら幹を伸ばしていた。
「あ…… 暑いです…… それにゴーレムなんかどこにもいませんよ」
メロはバテた犬のようにうなだれ、襟元を掴んでパタパタと自身を扇いだ。
「うーん、ここが最深部で間違いないんだけど?」
キサラは眉をひそめながら首をひねる。フレンが大木を指差した。
「あれ、なんか動いてません?」
疑念を抱きながらも、俺は指し示す方を凝視する。すると、捻れた幹が解けるように動き出し、形を変えていった。
「これは……」
バキバキとけたたましい音を立て、意思を持つように絡み合う木々。出来上がったのは巨大な二本の腕と足。
見えなかった木の天辺は、地中に引き込まれるようにするすると下ってくる。そのまま巨大な胴体と頭部を形成すると、先に完成した手足と幹を絡めて合体した。
編み込まれるように作られた頭部の隙間からは、不気味な緑の光が漏れ出している。
自然現象とは思えない大木の変形に、パーティメンバーは目を丸くして立ち尽くすことしかできなかった。
「これは…… ゴーレムなのか……?」
俺の問いに、キサラは呆然としながら首を横に振った。




