43話 特訓します2
歩き通しでボロボロになった足を無理やり動かし、俺たちはなんとか風車に囲まれた村の外れまでたどり着いた。目の前には、金色の麦畑が広がっている。
この状態で特訓って…… 走り込みなんかしたら命が危ういぞ。前を歩いていたメロもフラフラだったし、早くもパーティ崩壊の危機かもしれない。
元気なのはサリーだけで、相も変わらず風車に夢中だ。村の入り口からはかなり小さく見えたのに、ここまで近づくと見上げるほどに大きい。ゴォーッと迫力満点で羽を回す姿に、サリーは釘付けになっている。
「では早速始めますか」
メロは気合を入れるように、ぎゅっと拳を作る。俺はゴクリと唾を飲んだ。
「ダレス、まずは石を集めてください。手のひらぐらいの大きさのやつを」
「おう」
言われるままに、俺は周囲に散らばっている石を集める。
「その石を地面に重ねてください―― ええっと、草が生えていないところがいいですね」
かがむ度に鈍痛が走る腰を押さえ、踏みならされて雑草のない地面に石を重ねる。あっという間に、子どもが遊びで作りそうな高さの小さな石の山が完成した。
「で? これをどう使うんだ? 飛んで足でも鍛えるのか?」
「まさか。そんな力残ってるわけないですよ」
「だよな……」
その言葉に俺は胸を撫で下ろす。
「ダレスは少し離れておいてください」
言いながらメロは、両手で握った杖を石山に向けた。彼女との距離は大股の歩幅で五歩分くらいか。
メロは視線を石山に固定し、深く息を吸い込んで口を開く。
「ファイヤーボール!」
力強く発すると、メロのかざした杖の前に石ころ程の火の玉が現れた。片目を軽くつむり狙いを定め、石山に向けて飛ばす。
勢いよく飛び出した火の玉は標的に命中すると、ボッと外気に溶け込むように消え去った。石山はそのままの形で残っているが、これって……
「すごいじゃないかメロ。これって攻撃魔法だよな? 確か、使えないって言ってたんじゃ」
「その言葉は魔法使いにとって皮肉でしかないですよ」
興奮する俺とは違い、メロは遠い目で空を見上げた。
「今の魔法は、魔法使いが習う攻撃魔法でも基礎の基礎なんです。こんなんじゃ話にならないんです」
メロはまた、ぐるぐると木の根が絡まってできた杖を石山に向ける。そして何度も詠唱を繰り返した。
杖を握るその手よりも小さな火の玉。ぶつかっては消え、ぶつかっては消え。けれど、石山は崩れるどころか火の跡すら残らない。
「メロ……」
それでもメロは詠唱を続ける。ただひたすらに、闇雲に。辛そうに歯を食いしばりながらも、メロは攻撃魔法を止めることはなかった。
だが、魔力も無尽蔵ではない。限界が近いのか、生成する火の玉は次第に小さくなっていく。
「ファイヤーボール!」
杖を震わせながらメロは必死に叫ぶ。
火の玉はもう現れない――
「メロ! もういいって」
鈍く重たい風車の羽音が響くと、俺の声に乗るように一陣の風が吹いた。積み上げられた石山は、風に煽られあっさりと崩れ落ちる。
メロは散り散りになった石を見つめた後、表情を隠すように大きな帽子を深く被り直した。
「これがわたしの実力なんですよ。攻撃魔法を使うよりも、この杖で殴った方がダメージありそうでしょ」
杖で地面をトントンと叩きながら、自虐的にメロは笑う。
「そんな風に言わなくても。お前には、デバフ魔法があるんだから……」
「ダレスもみんなと同じことを言うんですね」
酷く突き放すような一言に、俺は次の言葉が出なくなる。帽子で瞳の隠れた横顔を、一滴の雫が伝っていった。




