42話 特訓します
「やっと着いたよー!」
キサラはパーティの列から飛び出し、大きく伸びをした後くるりと向き直る。
やっとの思いでたどり着いた、のどかな農村。その入り口。
斜面を石畳で舗装した街並みにぽつぽつと民家が立ち並んでいる。村の外れには大きな風車が数台、朝の陽光を受けながらゆっくりと羽を回していた。
王都の北部、ルナール湖を目指して早四日。疲労困憊の俺たちは、土と牧草の匂いが漂うこの村で休息を取ることにした。
「今日はやっとベッドで寝れる……」
俺は肩の力を抜くように大きく息を吐きだす。クエストをこなしながらの旅がこれほどのものとは…… 腰が、全身が、もうぼろぼろだ。
「ダレスってば、ほんと体力ないんですから。もっとわたしたちを見習ってください」
「そう言ってやるなメロ、今回は結構きつかったぞ。それに、野宿に慣れるまでは誰だってこんなもんだ」
アシュードが笑いながらドスン、ドスンと俺の肩を叩く。膝から崩れ落ちそうになるのを俺は必死にこらえた。
「それじゃあ、冒険者ギルドの支部に行ってクエストの報告しとくね。そのあと、全員分の宿を取っておくから。では、解散!」
魔物から取れた素材でパンパンになったリュックを背負い、キサラは勢いよく走り出そうとする。
「ちょ、ちょっと待って! キサラだけで行くのか?」
呼び止める俺の声に驚くキサラ。無理に止まろうとして転びそうになったのを、彼女はステップを踏んでなんとか体勢を保つ。
「そうだぞキサラ。その荷物も、お前が無理言うから仕方なく持たせてるんだ。ここからは俺が運ぶ」
「えー、でも…… わたし戦闘で役に立てないし、みんな疲れてるだろうから……」
嫌がるキサラから、アシュードは無理やりリュックをかっさらった。
「キサラの道案内があったから、安全にこの村へたどり着いたんだろ? 役に立ってないなんて言うなよ」
「ダレスの言う通りですよ、キサラ」
「うぅぅ…… フレンー」
鼻水をすすりながらキサラはフレンに抱きついた。
フレンはまるで天使のように微笑みながら、キサラの頭をそっとなでる。
「えっ…… サリーちゃんまで」
涙目になっているキサラの視線の先に目を向ける。そこには、キサラを鼓舞するように力強く親指を立てるサリーがいた。
「ダレスもありがとぉー」
「お、おう」
キサラはズーと鼻をすすると笑顔になる。少しは元気が出たようだ。
サリーは人形の設定なんだから、人形師の俺が操作してることになってるんだったな……
アシュードが場を仕切るように口を開く。
「それじゃあ、俺とキサラでクエストの報告に行ってくるから、宿の手配はフレンに任せていいか? ゴールドランクの冒険者なら慣れたもんだろ?」
「はい、任されました」
フレンはあざとかわいく首を傾げて、ニコッと微笑む。
「わたしもフレンについて行きますよ」
ビシッと手を挙げるメロであったが、アシュードは顎髭を触りながら眉端を下げた。
「メロよ。さっきダレスには強がっていたが、お前も足が限界なのはバレバレだぞ」
キサラがメロの背後にすっと回り込む。
「えい」
「うぎゃっ」
キサラはメロの膝裏に向け素早く膝頭をぶつけた。
どてっと膝から崩れ落ちるメロ。
「ごめん、大丈夫だった?」
「もぉー、急になんですかキサラ」
メロは眉をしかめながら、差し出されたキサラの手を掴む。そのまま腕の力を頼りに立ち上がろうとするが、思ったように足の踏ん張りが利いていない。それを見かねてか、アシュードはメロの背中を掴み、持ち上げるようにして起立させた。
「今のでわかっただろ。お前も早めに休んだほうがいい。ダレスと一緒にな」
「――わかりましたよ」
煮え切らない様子でメロが言う。帽子のツバを掴んで表情を隠しているが、落ち込んでいるのを感じ取るのは容易だった。
「じゃあ行ってくるね」
「また後でお会いしましょう」
キサラ、アシュード、フレンの三人は村の門をくぐり、それぞれ目的の場所へと向かっていく。
残されたのは、体力の限界が近い俺とメロ。サリーは、ぼーっと風車を眺めている。
「とりあえずどっかで休憩するか、二人で」
「何か言い方がやらしいですよ」
「違うわ! 何勘違いしてるんだよ」
メロは控えめな胸もとを腕で覆い、隠すように身を背ける。怪訝な目を向けてくるが、俺に一切落ち度はない…… はずだ。側にサリーもいるのだから、そういう反応は控えてほしい。
「休んだほうがいいなんて言われて、ダレスは悔しくないんですか?」
瞳を潤ませながらも、メロの表情はいつになく真剣そのものだった。急な落差に、俺は意識的に声色を抑える。
「悔しいって気持ちが無いわけじゃないけど、さっきのはメロを気遣ってのことだろ?」
「それはわかっていますけど……」
少し旅をして気づいたが、メロには強情なところがある。休むように言っても本人が聞かないから、キサラとアシュードは、メロの疲労度をみんなの前で露にしたのだろう。
上手く立てないところを見られてしまっては、メロも強がりを言うわけにはいかない。
「ですが、このまま簡単に引き下がるわたしではありません」
メロは親指で弾くように目尻をぬぐう。
「というと?」
「ダレス!」
「はい……!」
思わず背筋が伸びてしまった俺を見て、メロは何か企んでいるかのように、くくくと笑った。
「少しでも悔しいという気持ちがあるのなら、わたしの特訓に付き合ってください!」
「はい?」
特訓する? 今から……?




