35話 パーティー結成?
やってしまった……
賑わいを取り戻した冒険者ギルド。そして周囲からの、腫れ物を見るような視線。
俺は一つだけ空いていたテーブル席に座り、ずんと顔をうずめる。
サリーは俺に絡んできた見習い冒険者、トージを蹴り飛ばした。
もちろん俺の指示ではない。サリーは俺を守ろうとしてくれたのだ。
だけど、俺はネクロマンサーではなく人形師としてギルドに認知されている。
つまり、俺がサリーを、人形を操って攻撃したという話になる。
トージは仲間の二人に運ばれてギルドから出ていった。
意識はないようだったが、彼は無事なのだろうか。
体と顔を机に預けたまま横を向くと、プラプラと脚を曲げ伸ばししながらサリーは椅子に座っていた。ボリュームのあるスカートが大きく波打っている。
その愛らしい姿をずっと眺めていたいものだが、現実逃避をしているわけにもいかない。
だが――
頼んでも、頼んでもパーティーに入れてもらえないのだ。
この一件で悪目立ちしたものだから、声をかけても冒険者たちは苦笑いしながら俺から離れていく。
討伐クエストを受けるためには、二人以上でパーティーを組まなくてはいけないのに。
俺の冒険者人生は、クエストを受けることなく終わりを迎えようとしていた。
「ねぇねぇ、君」
「えっ……?」
声のする方を見上げると、そこに女の子の顔がある。
「君だよ、君に話しかけてるんだよ」
女の子はニッと笑顔を作った。
想定外の出来事に、俺は勢いよくテーブルから上半身を起こす。
女の子は灰色の薄いマントの下に、白地のシャツと青のショートパンツ。健康的な太ももをチラリと覗かせ、その下から足下までを黒のタイツでピッタリと覆っていた。
かなり軽装だが、腰には使い込まれた革のポーチと背中に大きいリュック。
彼女も冒険者なのだろう。
「何か用か?」
俺は疑うような視線で女の子を見上げる。
今の俺に好んで話しかける奴などいないはずだ。
もしかしたら人通りの少ない路地に連れていかれて、集団で身ぐるみを剝がされるかもしれない。
「そんな顔しないでよ。私はキサラ、見ての通り冒険者よ、新人さん」
胸に手を当てキサラはハキハキと喋る。
俺が新人だということを知っているのか。先ほどの騒動の影響はかなり大きいらしい。
「そうかよろしく、俺はダレス。って、どうせそれも知ってるんだろ?」
「もちろん! あなたはちょっとした有名人だからね」
キサラはニヤリと口端を持ち上げる。
「そんな有名人が、なかなかパーティを作れないのも存じております」
「げっ…… 見られていたのか」
恥ずかしさのあまり、俺は額に手を押し当てた。
キサラはコホンと一つ咳払い。
「ダレス、私たちとパーティを組んでくれない? 君のような攻撃役を探していたの」
「パーティ……?」
視線を戻すと、真面目な顔でキサラは俺を見つめていた。
少しして、俺は話の内容を理解する。
「俺とパーティを組んでくれるのか!」
思わず立ち上がってしまった。キサラは「お、落ち着いて」と、少し後退りして両方の手のひらを俺に向ける。
「すまない、でも嬉しくて…… もうクエスト受けられないと思っていたから。こんな俺ですがよろしくお願いします」
俺は深々と頭を下げる。
「勧誘してこんなに感謝されたの初めてなんだけど」
キサラは、相手を間違えたとでも言いたげに眉間にしわをよせていた。
「……じゃあオッケーってことで」
そう言いながら、キサラはギルドの入り口のほうを向き、両手で大きな丸を作る。頭の後ろで結んだ髪が、少しなびいて肩に落ちた。
近づいてくる大柄な男と杖を持った少女。
「よう兄弟! 俺は、アスタウンド・バナドル・ガイナロックってんだ」
大柄の男はガハハと笑いながら俺に握手を求める。
服の上からでも、その厚い胸板が存在感を示していた。
「どうだ? イカした名前だろ」
なぜか得意気に、大柄の男が自身の顎ひげを擦る。
「そ、そうですね」
俺は頬を引きつらせながら手を差し出した。
「っ……!」
たまらず俺は眉をひそめる。
男は手を握ると、骨が軋むような握力を見せつけてきたのだ。
「初対面で何やってるんですかアシュード。その手を放しなさい、ビックリしてるじゃないですか」
言いながら、小柄な少女が歩み寄ってくる。
男をジロリと睨むと、木を編み込んだ杖で丸太のような腕をトントンと叩いた。
先っぽの尖った大きな帽子に紺色のローブ。
これぞ魔法使い、というような出で立ちだ。
アシュードと呼ばれた男の右手は、寂しそうに俺の手から離れていく。じんわりとした痛みは、まだ手のひらに残ったままだ。
「ごめんなさい。このバカは自分の名前と筋肉を自慢するのが生きがいみたいなとこあるんです。名前は長いから、アシュードって呼んであげてください」
「別に構わないよ――」
「バカとは大層な言い草だなメロ。自分の特徴を相手に理解してもらうことこそ、初対面では重要なことだと思うがな」
アシュードは俺にかぶせるように、立てた人差し指を左右に振りながら言う。
「じゃあ、あなたが戦士のくせに武器を持たず、一切敵に攻撃しない無能の筋肉ダルマだってことも知ってもらわないといけませんね」
「おいおい、俺は強い信念のもと生きている物を傷つけないだけだ。それに、お前だって攻撃魔法を扱えないデバフ特化の陰湿魔法使いじゃないか」
「うなっ!? 言ってはいけないことを言いましたね! 攻撃魔法はこれから使えるようになるんですよ。そもそも攻撃する努力もしないあなたに言われる筋合いは――」
「はいはい! もうおしまい!」
様子を見守っていたキサラが、二人の肩をパンパンと叩く。
睨み合っていた二人は不満そうではあるが、言い合いを止めた。
「ごめんね、うちのパーティーこんな感じで。ほら、メロも挨拶しないと」
メロと呼ばれた少女は、軽く帽子を整え俺の方へ向き直る。
「わたしとしたことが失礼しました。わたしの名前はメロ。見ての通りの魔法使い、冒険者ランクはシルバーです。よろしくお願いします」
「俺は人形師のダレス、ランクは同じシルバーだ。よろしく。少し気になったんだが、デバフ? ってなにかの魔法なのか?」
「そ、それはですね……」
俺が問いかけると、メロはバツが悪そうに帽子の長いつばで表情を隠す。
「デバフってのは、敵を弱体化させたり妨害したりすること。メロの使うデバフ魔法はゴールドランク…… いや、プラチナランクの冒険者並みに凄いのよ」
キサラは両手を腰に当て、自慢するように話す。
「そうなのか。メロは優秀な魔法使いなんだな」
褒めたつもりなのだが、当の本人は納得いかない様子で唇を尖らせる。
「攻撃魔法が使えたら言うことねぇのにな」
「うっさいな!」
大きな口を開けて笑うアシュードの腹に、メロは杖を振りかぶる。
一連のやり取りを見て、キサラはまたかと言わんばかりに苦笑いだ。
言葉はきついがどこか温かみのある空気に、俺の頬は自然と緩んでいた。
「あっ! ダレスも私をバカにするんですね!」
「いやいや、違う違う」
俺は慌てて顔の前で両手を振る。メロは頬を膨らませた。
「笑ったのは…… なんかいい雰囲気だなって思ったんだよ」
ポカーンと間の抜けた顔で、キサラ、アシュード、メロの三人は俺を見る。
「こんなバカな話をしたのは久しぶりだったから」
鉱山で働いていたときに、ガインやローラとふざけた話をすることはあった。だけど、ガインは殺されてしまって…… ローラともしばらく会えそうにない。
もう誰かと、こんな話をすることはないと思っていた。
「新人であの騒ぎを起こした割に、ダレスは穏やかな人ですね」
メロがジトっとした目で俺を見る。
「いや、あれは仕方なかったんだ」
俺が弁明すると、「もっと盛大にやっても良かったと思うぜ」とアシュードが俺の肩に手を置く。キサラは「暴れるのは良くないけど、見てて爽快だったね」と快活に笑った。
他愛もない会話に、心が軽くなっていくのがわかる。
「仲間を作りなさい」というローラの言葉の意味が、少しだけ分かったような気がした。




