36話 パーティー結成?2
「そういえばさぁ、このお人形さんなんだけど……」
キサラは後ろ手を組み、椅子に座るサリーをもじもじしながら見つめる。
「……どうかしたのか?」
もしかしてサリーが死体だと気づかれた?
俺は眉をひそめキサラの顔を覗いたのだが――
「もう、我慢できない!」
キサラはサリーの背後に回り込み、背もたれ越しにむぎゅっとサリーを抱きしめた。
「ええっ!?」
驚く俺を気にすることなく、キサラは感触を確かめるように何度もサリーを抱擁する。
「なにこの触り心地、本物の女の子みたい」
「本当ですか? 私にも触らせてください!」
両手をワシワシしながら、メロが目を輝かせている。
さらなる危険を察知したのか、サリーはキサラの手を振りほどいて立ち上がり、俺を盾代わりにして背後へと隠れた。
「すごい、本当に生きてるみたいに動いてますね」
「むやみに触らないでもらえるか」
「ええー、ちょっとぐらいいいでしょ?」
感心するメロの隣で、キサラは唇をとがらせている。
死者だとは気づかれていないみたいだが、なるべく触らせない方がいいな。
「そうだぞお前たち。人形とはいえ、レディを乱暴に扱ってはいけないな」
アシュードが蓄えた顎髭を擦りながら言う。
「それにだキサラ。彼女に、このなんて物みたいな言い方をするべきじゃない」
アシュードは俺の隣に立ち、跪いてサリーの手を取る。レースの袖口から伸びる華奢な手。
「彼女も俺たちの仲間なんだからな」
「アシュード…… ありがとう」
「礼なんていらねぇよ、俺は当たり前のことを言ったまでだ」
アシュードは立ち上がって俺の肩に手を回し、またガハハと笑う。肩にズシッと感じる腕の重みが、今はとても心地よかった。
「ごめんねダレス…… そこまで気が回らなくて」
申し訳なさそうに、キサラは頭を深く下げる。
「いいんだ、気にしないでくれ」
片目を閉じ、キサラは俺の顔を恐る恐る覗き込む。俺が目尻を下げて微笑むと、彼女の強張った表情はすっと緩んだ。
「それと」
キサラはサリーの前に立ち、膝を抱くようにしゃがみ込む。床に広がる灰色のマント。
「さっきはごめんなさい。私はキサラ、これからよろしくね」
長い睫毛に包まれたキサラの瞳がサリーを映す。その眼差しは、さっきまでとは違い慈愛に満ちていた。
年下の女の子に喋りかけるような声色でキサラは続ける。
「私が気になってたのはね。あなたのお名前、なんて言うのかな?」
クシャっとサリーに笑いかけたあと、キサラは視線を俺に移す。
「この子はサリーっていうんだ」
「そうなんだ! よろしくね、サリーちゃん」
キサラに微笑みかけられ、サリーは両手を前に組んでペコっとおじぎをする。
しまった――
俺は慌てて自分の口を手で塞ぐ。
キサラの笑顔に当てられ、無意識にサリーの名前を口にしてしまった。
一部の人間しかサリーが死んだ事を知らないけれど、サリーと同じ見た目の女の子が、同じ名前を名乗ったりなんてしたら……
俺たちを、ネクロマンサーというこの世界の禁忌ともいえる存在に結びつけることは難しくないだろう。
「どうしたのダレス? 顔色が悪いよ」
キサラが心配そうに俺を見上げる。
「なんでもないよ」と誤魔化すように笑いかけた時、聞き覚えのある丸みを帯びた声音が、後ろから俺を包み込んだ。
「――その女の子、サリーちゃんっていうんですね」
少しずつ、床を蹴る乾いた音が近づいてくる。
振り向いた視界に飛び込んできたのは、白いローブを身にまとう女性。
頭まですっぽり覆うフードの中で、クセのある金髪が揺れている。
「あら、ダレスさん。お久しぶりです」
「フレン……」
俺にサリーは諦めろと言い放った治癒魔法の使い手。
あの時俺は、フレンの言葉に納得してサリーを看取る決意を固めたのだったが、結局ナターシャと契約してサリーをネクロマンスすることになったのだ。
愛嬌のある笑顔を振りまきながらフレンは進む。気づけば彼女は、一人分空いていたパーティの輪の中に入っていた。
「いきなりで申し訳ないんですが、私をパーティに入れてくれませんか?」
突然の申し出に、パーティメンバーは顔を見合わせる。




