112話 荒野へ2
荒野の奥へと進むごとに、足下から伝う熱が、体の芯まで燃やすかのように温度を上げていった。だがそれよりも、凄惨な姿で転がっている騎士たちに俺の心は冷たくなっていく。
ライロは誰よりも先に自身の仲間を見つけた。
まだ息のある騎士にはメロがポーションを飲ませ、アシュードとサリーで支えながら、聖王国のテントを目指す。
けれどほとんどが助からない人ばかりだった。
俺の肩で悔しそうに涙を流すライロにかけてやる言葉なんて思いつかず、ただしっかりと、彼を支えて歩くことに俺は全力を注いだ。
「あそこだな」
骨の城がさっきよりも遠くに感じる荒野の岩石地帯。岩肌の影から、周囲に溶け込むような配色の茶色のテントが見えてきた。
幾つか設営されたテントの周りに、破損した鎧を着たまま苦しそうに横たわる騎士たちがいる。
痛ましい光景に戸惑っていると、俺の前を担架に乗せられた騎士が通り過ぎ、テントの中に収容されていった。反射的に目をそらしたその騎士には、左膝から先がなかった。
「どう見ても怪我人の休む場所が足りてねぇな」
両肩に一人ずつ騎士を抱えたアシュードが、困ったように眉尻を垂らす。
どうしたものかと様子をうかがっていると、分厚い布をめくって若い騎士が姿を見せた。
「あなたたちは……? もしや仲間を助けてくれたのですか?」
俺たちを見つけると、若い騎士が曇った表情を和らげ駆け寄ってくる。アシュードは申し訳なさそうに言った。
「全員ってわけにはいかなかったがな…… 兄ちゃん、こいつらはどうしたらいい?」
若い騎士は、アシュードが抱えた騎士の怪我の状態を確認すると重々しく口を開いた。
「いえいえ、ありがとうございます。すみませんが、テントの近くで寝かせてやってください。テントは全て医療救護所に変えたのですが、あまりに負傷者が多すぎて」
下を向く若い騎士に「俺たちは大丈夫だ」と、アシュードの肩を借りる騎士たちが声をかける。
「ネクロマンサーの卑劣な攻撃がなければこんなことには――」
ふいに顔を上げた若い騎士と俺の視線が交わった。
若い騎士はビクッと固まったかと思うと、崩れるように座り込んで俺を指差す。
「ダ、ダレス・ハーパーだ! ネクロマンサーがいるぞ!」
「おい、お前……! 騒ぐな、話を聞け!」
ライロが苦しそうにしながらも割って入ったが、若い騎士の瞳は恐怖に染まったままだった。
空気がひりつき、救護に当たっていた騎士がぞろぞろと俺たちを囲いだす。
横たわっていた怪我人までもが歯を食いしばって立ち上がり、剣を抜いた。
「ち、違います、わたしたちは――」
「周囲も警戒しろ! またスケルトンが出てくるかもしれん!」
「死体にもだ! 動き出したら躊躇わずに斬れ!」
「ここが潰されたら終わりだぞ!」
震えるメロの声は、次々に集まってくる騎士の足音と、士気を高める鼓舞で簡単に消されてしまう。
たった今、ここは戦場に変わった。もう言葉は意味をなさない。
ライロがどれだけ俺たちの身の潔白を訴えようが、目の前にネクロマンサーがいるという事実が全てを捻じ曲げる。
そりゃ、そうだ。ネクロマンサーは死者を操る。
俺に身を預けたまま声を張るライロだって、剣を向けてくるあいつらには俺が操っているように見えているのかもしれない。
「話にならん」
大事そうに騎士を担いだまま、アシュードは小さく舌打ちをした。
「だから言ったんですよー」
メロがたまらずアシュードの影に隠れようとした瞬間―― 強烈な光の波動がこの場の全員を包み込んだ。
「相変わらず、すげぇ魔力だ……」
俺の耳元でライロがぼそりと零す。彼の視線の先で、短く整えられた白髪が風に揺れている。
「ネクロマンサーがいると聞いて飛んできたが、思っていた状況とは少し違うようだな」
ロイデール騎士団団長ギルラーク。普段は穏やかな風貌だが、鬼気迫る形相で剣を振る姿は今も目に焼き付いている。
ライロとともに、ギルラークも地下牢から救出されていたようだ。
強者であるギルラークの登場で、ピンと張り詰めていた空気にどこか余裕が生まれた。
「みな、剣を仕舞え。ここは私に任せろ。怪我人の救護が先だ」
心配そうに顔を見合わせる騎士たちをよそに、ギルラークは歩幅を大きくして俺の目の前まで迫った。
「会いたかったよ、ダレス君」
「はい……」
目尻のしわをさらに深くして、ギルラークは穏やかにほほ笑む。
俺は罪悪感と恐怖に押しつぶされそうになりながらも、ギルラークから目をそらさなかった。




