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貧民街のネクロマンサー 〜妹たちとの幸せな生活を夢見て〜  作者: ひとえ


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108話 リゼ救出作戦2 


 旅路は順調だった。


 街道に沿うように森の中を進んで数日が経った頃、俺たちはモルジス王国の国境付近へとたどり着いた。


「アシュード、今日は遅いですね」


 メロが毛布にくるまりながら、不安そうに森の奥を覗く。木々によって日を遮られた早朝の森の中は、足下から俺たちの体温をじわじわと奪ってくる。アシュードが街へ買い出しに向かってから、かなりの時間が経っていた。


「アシュードなら大丈夫だろ。……ほら、噂をすれば」


 草をかき分け現れた大きなシルエットに、メロはほっと息を吐いた。


「もうアシュード、遅いですよ。早くご飯にしてください」


 心配していたことを感じ取られたくないのか、メロは毛布で口元を覆い隠す。深くかぶった帽子と合わさって、彼女の顔はほぼ目しか外に出ていない。


 もう少し素直になれよ、なんて軽口を言ってやろうと思ったが、向かってくるアシュードの真面目な表情に俺は出かかった言葉を飲み込んだ。


「かなり厄介なことになったぞ、街が大騒ぎだ」


 背中の荷物を置き、アシュードはドスンと座り込む。


「何が厄介なんです?」


 きょとんと首を傾けるメロに、アシュードは神妙な面持ちで続けた。


「街の掲示板に布告書が貼られていた。聖王国アストロイアが、モルジス王国へ宣戦布告したんだとよ」


「戦争って、そんな……」


「まぁでも、話の流れからこうなるのは予想できた。なんたって、停戦の条件で引き渡したレスティーを奪い返したんだからな」


 目を丸くする俺を見やり、「問題は次だ」とアシュードは言葉を区切る。


「モルジス王国は戦うことを諦め、すぐさま属国になることを申し入れたんだ」


「属国って、負けを認めて相手の支配下になるってことですよね?」


 小首を傾げたまま問いかけるメロに、アシュードは大きく頷いた。


「そんな…… ナターシャとレスティーがいるなら、負けを認めるなんて選択はしないだろうに」


 ネクロマンサーの二人は、モルジス王国の軍事力の要だったと聞いている。先の聖王国アストロイアとモルジス王国の戦争でも、死者の軍勢が猛威を振るったと。


「ナターシャの屋敷にいるリゼちゃんが心配だ、だから早く助けてやらねぇと――」


 その時、ゴゴゴという凄まじい地鳴りがアシュードの言葉尻をかき消した。


 激しく枝を揺らす木々と、逃げるように飛び立つ鳥の群れ。俺たちは周囲を警戒しながら、地面の揺れが収まるのを待った。


「地震なんて珍しいですね、そんなに強くはなさそうでしたが」


 毛布から口をすっと覗かせたメロが、怯えた様子で眉尻を下げる。


「ちょっと待て、何か見える」


 揺れた葉と葉の切れ目から、一瞬巨大な黒い影が姿を見せた。あっちは確かモルジス王国の方角、さっきまでは何も見えなかったのに。


 得も言われぬ焦燥に駆られ、気づけば俺は走り出していた。


「どこ行くんですか、ダレス!」


 メロの声を置き去りにし、草木を跳ね除け森の出口へと突き進む。視界が開け、剥き出しの日光を全身で受け止めると、俺はその場に立ち尽くした。


 一面に広がる荒野のさらに奥。山脈に張り付くようにして、天に突くほど巨大で禍々しい城がそびえ立っていた。



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