106話 裏切り者4
俺は三回もシチューをおかわりした。あらかじめ俺の空腹度合いを知っていたかのように、アシュードは多めに作ってくれていたようだ。
食事中は俺が目覚める直前までのことを教えてもらっただけで、核心を突いた話はしていない。
村で俺を気絶させた後、アシュードが俺とサリーを担いでこの森まで運んだそうだ。先に俺を狙っていたルナードには、「ダレスは騎士団に突き出す」と嘘をついたらしい。
サリーはというと、すぐにアシュードとメロに敵意がないことを感じ取ったらしく、今はアシュードの頼みで焚き木を集めてくれている。
俺を助け出すためとはいえ、サリーを殴ってしまったことをアシュードはとても悔やんでいた。
「んじゃまぁ、聞かせてもらおうかね」
空になった鍋を片付けながら、アシュードはついでにというような雰囲気で口を開いた。俺に話しやすい空気を作ってくれているのだろう。そんなことをしなくても、俺は全てを語るつもりだった。
「あぁ」
俺は立ち上がって深々と頭を下げる。
「アシュード、メロ。本当にすまなかった」
「……なにが、すまなかったんですか?」
グサリと刺すように、メロが問いかける。
「パーティーを勝手に抜け出したし、俺がネクロマンサーだから――」
「あぁもう。ダレスは本当に何もわかってないですね」
精一杯の謝罪は全くといっていいほど的を射ていなかったようで。思わず顔をあげると、メロは腕を組んで首を左右に振っていた。
「あなたがネクロマンサーだろうが、人形師だろうがどうでもいいんです。わたしたちはダレスを選んだんです」
「俺を…… 選んだ……」
「そうです。仲間でも隠し事の一つや二つはあるでしょう。でも、自分がいっぱいいっぱいの時には、仲間を頼ってください!」
弱くなった焚き火がメロの潤んだ瞳を照らす。
俺が返す言葉に詰まったのは、メロの想いが自分の想像とはかけ離れたところにあったからだ。
嫌われて当然だと、拒絶されて当然だと思っていた。でも、アシュードとメロは違う。仲間から離れようとしていたのは俺だけだった。
「勝手に、いなくならないでください…… 仲間がいなくなることの辛さを、ダレスも知っているでしょ……」
メロの丸い瞳から、大粒の涙が溢れ出す。たまらずメロは顔を伏せた。嗚咽を漏らす度に、すっぽりと表情を隠す帽子が上下する。
「メロ…… すまない」
なにやってんだ俺は……
キサラが死んだ次の日、俺は逃げるようにパーティーから消えた。残されたやつのことなんて深く考えなかった。
ナターシャへの復讐心に溺れ、俺は隣で支えてくれていた仲間すらも見えなくなっていたのだ。
「その顔は、ようやく事の重大さに気づいたって感じだな」
アシュードは下顎を包むように手を添え、探るような視線を俺に向ける。
「あぁ…… 俺はお前たちを、仲間を、見捨てたんだ。それにやっと気づけた」
メロに感化されたのか、また目頭が熱くなってきた。俺が鼻をすすると、アシュードは満足そうに頬を緩ませる。
「そうさ。だが俺たちは決してお前を見捨てない。命を預けて戦った仲間だからな」
脳裏に浮かんだのはトレントや水竜と戦った時の記憶だ。アシュードが敵を引きつけ、メロがデバフを付与し、サリーの剣が相手を斬り裂く。フレンが回復魔法を唱え、キサラは的確な指示を与えてくれた。
俺たちは一人だけじゃまともに戦えない。尖った能力を持つみんなが一つになることで、困難を乗り越えてきたんだ。
「だからまずは、俺たちに何をしてほしいのか言ってくれ。ダレスの置かれてる状況なんざ、その後で教えてくれたらいい」
アシュードが快活に言い放つと、メロは泣きながらコクコクと頷く。
本当に頼もしい奴らだと思った。貧民街から外に出て、みんなと出会えて本当に良かった。
俺は指先で弾くように目をこすり、前を向く。
「俺の妹を助けてほしい」
わざと声に力をこめたのは、仲間への信頼の証だ。
「任せとけ!」
「もちろんです!」
アシュードとメロは理由を尋ねることもなく、俺を真っ直ぐに見つめて答えた。




