女王陛下と誘拐事件:第十二話:~メイド達の帰還~
戦闘を終えたフレイジアとアイギスが談笑する前でVKFの隊員二名がし失神した大男と小男を拘束用バンドで縛っていた。
木こり小屋の中では、班長ともう一名が内部を調査確認している。もう一人は、先ほど城の方へ現状報告の伝令に走っていった。
「陛下。小屋の方には、特に何も無いようです。」
小屋から出てきた班長は、そう言いながらウッドデッキの階段を降りてこちらへ向かってきた。
「そう。それじゃアイギス戻りましょうか?」
「はい。」
「私たちは、念のため周囲に賊の残党がいないか調査してから戻ります。」
VKF班長は、フレイジアに告げると側にいた隊員2名に支持を出す。
「お前たち2人は、その賊を荷馬車まで運べ。そのあとそこで待機している二名に陛下を護衛して城に戻るよう伝えろ。そのあとで、小屋周囲の森を調査する。」
「「はっ!」」
「陛下、途中でボイド部長が遣した迎えの警護騎士が合流するはずです。ですが道中くれぐれもお気を付けて。」
「ええ、班長も。色々とありがとう。」
「お世話になりました。」
「いえいえ、こちらこそ。アイギスさん陛下を頼みますよ。」
「はい。お任せ下さい。」
フレイジア達は、木こり小屋を離れメルの待つ荷馬車の所へ戻ってきた。
「だたいまぁ~!メル!」
「ただいまもどりました。メルさん。」
「あ!おかえりなさ・・・っ!?」
手を振りながら戻ってきたフレイジアとその横を静かに歩くアイギス、その後ろに続く2人の男がグッタリとして動かない手足を縛られた大男と小男を担ぎあげている光景にメルは、言葉を詰まらせた。
「あ、あの・・・こ、この人達が先輩を?」
「そうよメル。でも、安心して私とアイギスでキツ~イお灸を据えておいたから。」
「はい。暫くは、意識が戻らないと思います。」
「そ・・・そうですか・・・」
「さってと!メル、アイギスお城に帰りましょうか!」
「は、はい。」
「そうですね。」
そんな、会話をしているフレイジア達の後ろでVKFの四名は、荷馬車から出っ歯の御者を一度下ろし、大男の体をくの字に折り曲げて強引に荷台に押し込むと小男をその巨体にもたれかける様に座らせ、再び御者をその隙間に詰めるように乗せて直していた。
「よっ!こっち寄せてるから押し込め!よし!」
「ふぅ・・・なんとか納まったな。それじゃ俺たち二人は、戻るから陛下を頼むぞ。」
「あぁ、任せろ。」
「了解だ。!」
フレイジア達は、賊三名を乗せた荷馬車の後ろに続くように森の夜道を城を目指し歩いていた。。荷馬車の馬の手綱をVKFの隊員の一人が引き、もう一名は、フレイジア達の後方を警戒するように少し離れてついて来ていた。
ようやく、森を抜け昼間なら田園地帯が広がるであろう辺りまで戻ってきたとき街道前方の奥から揺れる魔素灯 と思われる灯りが見え、次第に数頭の馬の蹄の音と馬車の車輪の音が微かに聞こえ始め次第に大きくなり近づいてきた。
馬車が2台と3名の騎乗した男たちがフレイジアの前で停止する。一台は、装飾が控えめながら貴族が使用す立派なキャリッジを備えた馬車、もう一台は、人の乗車するキャリッジ部が鉄で補強された護送用であった。
「フレイジア陛下、お迎えに上がりました。さぁこちらの馬車へご乗車下さい。」
「ええ。ありがとう。」
貴族用馬車の後方御者台から御者が降りて馬車のキャリッジ部の扉を開けフレイジアの手を取り招きいれる。その御者の所作は、熟練の執事のように優雅であった。
「メル、アイギスどうしたの?ボーっと立ってないで早く乗りなさい。」
「いいんですか!フレイジア様!」
「よろしいのですか?」
「何を言っているの。いいに決まってるでしょ・・・御者さん乗せてあげて!」
「畏まりました。」
やはり御者は、優雅な振る舞いでメルとアイギスを乗車させる。満面の笑顔で御者にお礼を言うメルとは、対象的に御者に手を取られ乗車を優しく補佐されたアイギスは、顔を少し赤くしてペコッとお辞儀をしていた。
3人を乗せた貴族用馬車は、前後に騎乗した男を1人づつ護衛に付けて静かに王都ヴァレエイド、その中心ヴァレンシア城を目指し出発した。その後方に少し距離を置くように3人の賊を収容した護送馬車が騎乗したもう1名の男を先頭にして付いてきていた。最後尾には、賊が使っていた空の荷馬車にVKFの隊員2人が乗り込み護送馬車に続いていた。
「フレイジア様!この馬車凄いです!!ほとんど揺れません!!これなら酔わないです!!」
「そうね。車軸のとこに鋼製の板バネが何枚も使われてるから振動が吸収されて和らいでいるのよ。」
「そろそろ、新市街ですね。このような貴族馬車では目立つのでは?もう、日付もまたいでいるようですし・・・」
「心配ないわ。王家の専用車ではなく一般的な貴族用ですもの。それに、新市街の歓楽街には、好事家向けの余り大きな声では言えない店舗もあるから。貴族が馬車で来ることも珍しくないのよ。この馬車にしたのも護衛の騎士達が騎士団の制服でないのもボイドの配慮でしょうね。」
「そうですが・・・でも、遠回りでも陛下を護衛する以上、余り人目に・・・」
「人通りの無いほうが危険じゃないです?アイギス様?」
「メルの言う通りよ。ほら、アイギス見なさい。あの路地にも向こうにも同じような護衛付きの馬車が停まっているでしょ。それに、下手に迂回するほうがかえって”アノ馬車には、何かあるな”と思わせて怪しまれるわ。」
「なるほど・・・」
フレイジア達を乗せた馬車が新市街に差し掛かった頃、護送馬車と荷馬車は、いつの間にかいなくなっていた。どうやらあちらは、人の目を避けるルートで騎士団の尋問施設へと向かったようであった。
「そうだわ!メルもアイギスもお腹すいてない?あ、メルは、具合よくないんだったかしら?」
「乗り物酔いですか?もう平気です。この馬車とても乗り心地良くて。そういえば、ずっと何も食べてなかったですね。」
「はい。そうですね。たしかに少し・・・」
それを聞いてフレイジアは、手綱を握る御者の座るキャリッジ前方の小窓をコンコン!と軽くノックした。
「陛下如何なさいました?」
「申し訳ないのだけど、この先の左側の路地へ入ってくれるかしら?『酒場・竜の溜息亭』という看板が見えるのでその前で停めて下さる?」
「畏まりました。『酒場・竜の溜息亭』でございますね。」
キャリッジの連絡窓を開けてフレイジアと会話した御者は、一度馬車を停め後方御者と護衛の2名に連絡を取り路地へと入っていった。
分厚い大きな木の看板にペンキで殴り描いたような『酒場・竜の溜息亭』の文字、少し薄汚れた酒場は、店内も店外の葡萄酒の空き樽に適当な板を乗せただけの即席立呑みテーブルが乱雑に並ぶスペースもほぼ満員満席で日付が変わり何時間か経つのに大盛況で活気に溢れていた。
「なんでぇ!!ここにやぁ!!貴族様の口に合うもんなんて何もねぇぞぉ!!」
その酒場の前に似つかわしくない馬車が急に停まったので店舗入り口横の開口部にある焼き台からハゲたガタイ良い中年男が身を乗り出し大声で罵声を浴びせてきた。しかし馬車のキャリッジ内で何か揉めているようで停車したまま誰も降りてくる気配が無い。それに業を煮やしたハゲた中年男は、大きな黒鉄のフライパン片手に握ると店の入口から勢い良く飛び出し、怒鳴りながらフライパンをブンブン振り回して馬車の側に詰め寄った。
「なんだごらぁ!!新手の営業妨害か?停めんならどっかヨソ停めやがれ!!」
「ご、ごめんなさいねドン・・・・アイギスそんなに心配しないでも大丈夫よ・・・ほら、離して・・・」
馬車のキャリッジの扉が開きフレイジアが身を乗りだした。後方御者が少し慌ててフレイジアが下車する補佐に入ろうとしたのをフレイジアは、手をかざして制止し馬車から降りた。続けて降りようとするアイギスに馬車で待機するよう強く懇願してフレイジアは、ハゲた中年男に近づく。
「一体何なんだぁ・・・・あん?・・・ってフレイ!?フレイじゃねぇか!!」
「久しぶりねマスター・ドン!」
このハゲた・・・スキンヘッドのガタイの良い中年は、『酒場・竜の溜息亭』を切り盛りするマスターのドンである。ドンは、フレイジアを見て先ほどの険しい顔が嘘のようにニカッ!と笑顔をみせた。
「てかおめぇ女王になったんだろ?あ、大声じゃまずいか?それがなんでこんなトコにいんだよ?しかも、女中みてぇな服でよ?」
「説明すると長いわ・・・色々あってね・・・」
「わかった!お忍びだな!なら、もっと頭使えよなぁ・・・その服も馬車と護衛も目立ち過ぎだぜ?がはははっ!!」
「えぇ、まぁそんなとこね。ふふっ。」
「呑んでくのか?ギルアデスの25年物・・・まだキープしてあるぜぇ?」
「そうしたいけど、多忙でね・・・ドン、スペシャルミートサンドって今出来る?」
「あぁ問題ねぇ!お前の好物だったな!いくつだ?」
「3人分、3つお願い出来るかしら?あと、なにかアルコールでない飲み物、そうねジンベリコークを7本お願い。」
「おう!まかせな!ちっと待ってろ!」
そういうと、ドンは、嬉しそうに店のなかに消えていった。フレイジアは、焼き台の側カウンターで暫くまっていた。馬車のなからアイギスのソワソワした心配そうな視線を感じながら・・・
「おまたのおまたせ!がはは!!確かフレイは、ピクルス多めだったな赤い印の包がそうだ!!瓶のジンベリコーク7本な!」
「あ、言うの忘れてたわ!値段は、変わらず1つ6リーヴェラと5ヴェラ?でジンベリが・・・」
「お代はいいぜ!出世祝いだ!フレイのを出世っていうか知らんが、まぁコレがってのもなんだがなぁ~わはは!」
「そんな、悪いわ・・・」
「そうい言うなって!そうだ、代わりと言っちゃだがよ『女王様御用達』って看板に書いていいか?スゲぇ~繁盛するぜきっと!」
「別に構わないけど・・・だれか信じる人いると思う?常連の一部は、既に知っているでしょうけど・・・」
「信じるか信じないかはってやつよ!新規の客が増えればガッポリ儲かるしな!」
「これ以上、盛況になったら何処で呑むのかしら路上?・・・それじゃぁ、お言葉に甘えてお祝いに頂いておくわ!」
「おう!それと良く食べてたドン特製ハーブソーセージも3本サービズだ持っけ!」
「ありがとう。機会があればゆっくり呑みに来るわね!」
フレイジアが、スペシャルミートサンドの袋を受け取り焼き台のカウンターを離れると店の奥から「マスタ~俺の頼んだハーブソーまだぁ~」と酔った男の声と「がはは!昔なじみにあげちまったぁ!」というドンの豪快な声が聞こえた。
ブレイジアは、御者二名と護衛の騎士二名にジンベリコークを労いの言葉と共に渡していった。御者も騎士も緊張した面持ちで恐縮そうに勲章でも賜るかの様にフレイジアからジンベリコークを受け取っていた。
「おまたせ・・・ってアイギスそんな怖い顔しないで・・・」
「護衛する身にもなって下さい。」
「まぁまぁ・・・アイギス様。でも、フレイジア様もアイギス様の事も考えてあげて下さいね。」
「うっ・・・わかりました。」
「ところで、フレイジア様、何を買ってたんですか?」
「ふふふっ!これよ!はい!メルの分!そして、アイギスのもね!それに、おまけで貰ったソーセジ!」
「わぁ~美味しそうです!いいんですか!!」
「えっと、あの・・・い、いただきます!(ごくっ・・・少し独特だけど食欲をさそう香り・・・なんていう料理なんだろう。)」
「それはね『酒場・竜の溜息亭』の裏メニュー『ドンのスペシャルミートサンド』よ。せっかく近くを通ったのだから久しぶりに食べたくなってしまったわ。」
メルとアイギスは、フレイジアから渡されたスペシャルミートサンドを眺めていた。
それは、香ばしく焼いたビーフのハンバーグとスモークベーコンに軽く焼いた輪切りオーニオとチーズにクーミスのピクルス、それとドン秘伝のソースを掛けて新鮮な赤い果実の様な野菜トメタと葉物野菜ラトスとともにパンに挟んだものであった。
世に言うボリューミーなハンバーガーであった。
「あと、はい!ジンベリコーク!それじゃ、少し早いけど誘拐事件が一応解決といことで乾杯しますか!」
「あ、そういえば栓抜きないですよフレイジア様?」
「え、ああ、そうかメルは・・・貸して!」
「フレイジア様、私がやります。」
そう言われメルは、不思議そうな顔で瓶のジンベリコークをアイギスに渡した。
「少しはしたないと言われそうですが・・・」
アイギスは、瓶の王冠に親指をかけるとアニマを軽く操作してメキョ!シュポン!と簡単そうに栓を抜いてメルに渡した!
「わぁ~!これも”あにま”っていう力の?便利そうです!今度、私にも教えてください!!」
メルは、アイギスをキラキラした瞳で見つめながら興奮気味であった。
「フレイジア様のも抜きますか?」
「私は、大丈夫よ。」
フレイジアも瓶の王冠に親指を当てスポン!と栓を抜く。それを見てアイギスも自分の瓶の栓をシポン!とを抜いた。
「それじゃあ!改めて!アイギスもメルも今日はご苦労様!乾杯っ~♪」
「はい!か、乾杯!」
「乾杯ですぅ!えへへ!」
チーンというガラス瓶の音がキャリッジ内に響き3人同時にジンベリコークをゴクっと一口飲み込んだ。ジンベリコークの冷たく甘酸っぱい炭酸が乾いた喉を刺激しながら流れ落ち、ジンベリというこの世界の香辛料の少し辛みのある爽やかな香りが鼻に抜けていった。
「と、ところでフレイジア様?このミートサンドでしたっけ?どの様に食べればいいんです?」
「そうですね?変に食べるとバラバラに・・・」
「口で説明するより見た方が早いわね!まず、ミートサンドは、この紙袋に入れたままでいいわ・・・あとは、見ててこんな感じよ!」
フレイジアは、紙袋に包んだミートサンドを軽く押すようして潰し、パンと具をなじませると豪快にバクッ!と”かぶり”ついた。
「モグ、ホグモギュ・・・んっ!とこんな感じよ。正式な食べ方が有るのかは、知らないけどこれが一番崩れないわ!それにんくっ!この紙袋も耐水性があるから多少ソースや肉汁が零れても気にしなくていいわよ!」
「な、なるほど!やってみます!潰して・・・あ~んと!んっ!?んん!!もきゅもきゅ!・・・お、美味しいですぅ!!あむっ!!」
メルは、恥じらう様子もなく開けれるだけ大きな口を開けミートサンドにカジりついた。まるでリスのように頬を膨らませて美味しそうにモグモグしている姿がとても可愛いらしい。
「ほら、アイギスも!」
「は、はい!い、いただきます!パクッ!・・・・・・ハムハム・・・」
アイギスは、恐る恐るミートサンドに口をつける。メルとは、違い少し恥じらうようにカジカジと食べる姿は、メルとは別の小動物のようで非常に愛らしい。フレイジアは、また今度何かアイギスに餌付けしてみたいと考えていた。
「どう?アイギス・・・美味しい?お口に合うかしら?」
「パクッ!ハムハム・・・パクッ!ハモハモ!・・・っ!は、はい!ハンバーグもジューシーでベーコンも香ばしくて凄く美味しいです!!」
アイギスが、ミートサンド夢中になっている姿をフレイジアが微笑ましく眺めていると、パキッ!という弾ける音が響きわたる。
振り返るとメルがカジったハーブソーセジの棒を持って美味しさの余り目を丸くして微笑んでいた。
「いい音したわねメル!それも、美味しいでしょ!あのお店のマスターの趣味なのよ色々なソーセージを作るの。私のおススメは、そのハーブなんだけどマスターは、ドラゴンの牙だとか呼ばれるバーネェーロとかいう名前の唐辛子入りを進めてくるのよね!」
「バーネェーロのソーセージですか。今度食べに行ってみようかな・・・」
「やめておきなさいアイギス・・・大の男がガチ泣きする程の辛さらしいわ・・・・」
「アイギス様、辞めておいたほうが・・・あの?辛いのお好きなんですか?」
「そうですね。わりと好きでして結構、平気な方なんですよね。」
「意外ね・・・・」
三人が談笑しながらミートサンドとハーブソーセジを堪能し終える頃、馬車は、城に向かう丘の大通りにある2つの防壁の門を通過しヴァレンシア城の正門が見え始めていたのだった。




