第2話 お裾分け
全部を冷蔵庫にしまう前に、大家の顔が浮かんだ。
小さな容器を出して、レンコンを移した。
戸口で声をかけると、大家は容器を受け取り、中を覗いた。
「あら、おいしそう」
「少し、作りすぎまして」
「いつも、そう言うわね」
「今日は、本当に」
大家が笑った。
修一も笑った。
いくつか言葉を交わし、部屋へ戻った。
猫は、まだいた。
さっきより、部屋の真ん中にいる。
「留守番、ありがとう」
顔を上げ、また下げた。
修一は座った。
皿の一つに、少し空いたところができていた。
さっきまで、そこにあったものを、別の部屋で誰かが食べてくれる。
ビールを一口飲み、紗季へ送った。
《レンコンは、大家さんに少し持っていきました。喜んでくれました》
それから、猫の写真も撮った。
《今夜は、晩酌の相手をしてくれています》
たいした出来事ではない。
何を作ったとか。
少し作りすぎたとか。
猫が来たとか。
けれど、こういうことを、紗季には話したくなる。
今日、自分がいた場所を、少し知らせたかった。
紗季からも、そんな便りが来ると嬉しい。
以前、変わった形のパンを見つけたと、写真が届いたことがあった。
何に見えるかと尋ねられ、修一が答えると、それは違います、と返ってきた。
大事な話ばかりしていたわけではない。
思い出すと、何でもないやり取りの方が、よく残っていた。
電話が鳴った。
《すごい。お正月みたいに華やかですね》
修一は、机を見た。
皿の大きさは揃っていない。
鍋は、鍋のまま置いてある。
正月というほど、整ってはいなかった。
それでも、言われてみると、少し晴れがましく見えた。
修一は、自分の送った写真を開いた。
さっきまで、作りすぎた料理だったものが並んでいる。
「正月だってさ」
猫へ話しかける。
猫は、目を細めていた。
「君には、いつもと同じか」
箸でレンコンを取った。
紗季の言葉で、料理の味が変わったわけではない。
けれど、食卓は少し華やかになっていた。




