表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/5

【1章】杉浦健太2

─息ができない。

 

立ち込める埃でむせ返る。

ガタガタと何かが震える音。

自分がどこにいるのか分からない。


ぼやけた視界。


目の前には、太く大きい木材。

それは、自分の腰辺りにのしかかる。


次に来たのは、

痛み。

 

「うっ…あああ」

声なんて我慢出来ない。

左手に激痛が走る。

よく分からない木材の下敷きになっている。

骨折経験はない。

でも、折れている。


逆に腰から下は感覚がない。

寒気がした。


「佳奈!」

動かない体。

首だけ右に向ける。

 

二人を遮るように、また木材。

 

右手には感触がある。

小さく、暖かい。

 

「佳奈!佳奈!」

小さな震えが伝わる。

「ああああああ」

「お腹が…っ!」

佳奈の悲鳴が耳を突く。

「お腹…あああああ」

手が壊れんばかりの力。

視界は佳奈を捉えられない。


「佳奈!落ち着いて」

「深呼吸して」

佳奈の呼吸が大きく響く。

深く吸って、深く吐く。


「健…太」

「いるよ!ここにいるよ!」

握った手を『ギュ』と握る。


「これ、なに…起きて…」


痛みに耐えながら辺りを見る。

目の前まで天井が迫る。

腰の上の木材は大黒柱。

 

多分、家が崩れた。


「佳奈、少しごめんね」

動く右手で辺りを探る。


木彫りの熊。

こけし。

掛け軸の残骸。

 

─硬いプラスチックの感触。

 

視界の前に手繰り寄せる。

祖父のCDプレイヤーを引き寄せる。

電源を入れると「WELCOME」と表示された。

 

ラジオボタンを押して周波数を探す。

ザーザーというノイズ音。

「─をお送りします」

ボリュームを最大に上げる。

「─五月二十五日、月曜日の地震」

「─マグニチュード 9.0」

ノイズが多くて音が途切れる。


ラジオを、二人を遮る柱の横に置く。


右手で佳奈を探す。

見つける間もなく、強く握る。


「佳奈、地震だ」

何度も『ギュ』と握る。


「寒い…」

「お腹の上に…何か乗ってて動けない」

「あと、右手も…」

 

流れるラジオはどこかの大学教授の声。

そんなものはどうでもいい。


時間…時間を確認したい。

CDプレイヤーに視線を向ける。

『AM5:48』


「今は朝の六時前」

「明るくなったら救助が来る」

「大丈夫だから」

手を『ギュ』と握る。

『ギュ』と返事が届く。

それだけで、視界が滲んだ。



二人の浅い呼吸が響く。

「佳奈?」

佳奈の指先が少し動く。

「少しゴメンね」

 

ラジオの無機質な音声に腹が立つ。


他のチャンネルにしようとボタンを押す。

間違えてCDボタンを押す。

キュルルと回転する音。

流れてくる音楽。


「これ、聞いた事ある」

「バッハ…だよ」

「俺音楽の成績二だから」

「知って…る」

息だけで笑う。


「アリ…ア、G線…上のアリア」

「長年ピアノやってただけあるな」

小さく笑った気がする。

「ヴァイオ…リンの一番低い弦」

「それ…がG線…なんだよ」

少しだけ暖かい風が吹く。

「話して大丈夫?」

「う…ん、なんとか」

「苦しくなったら無理しなくていい」

『ギュ』と手を握る。

 

─閃く。


「喋るのきつかったら」

 

「『ギュ』は“はい”」

「『ギュ』『ギュ』は“いいえ”」

 

「これならできる?」


『ギュ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ