第一章 6 『役に立たない異世界の冒険者』2
「……」
「……」
二人がギルドに到着すると、皆の視線が二人に釘付けになり、同時に鼻を押さえた。
夏奈の逃走速度はレイアより上だったため、レイアはずっと夏奈の後ろで引きずられている足虫の死体の粘液を浴びていた。今や二人の体にはどこもきれいな場所はなく、粘液まみれだった。
「レイアさん……」
「なんだ……」
「お風呂ってありますか……」
「まずは納品だ。金が入ってからだ……」
二人の話す声は非常に小さく、おそらく粘液が口に入るのを恐れてのことだろう。それにこの臭いはとても耐えられるものではなかった。
周りの冒険者たちは二人が通った後に避けて通った。二人はなるべく周りにぶつからないようにしていたが、この臭いの拡散を防ぐことはできなかった。
「……」
依頼の報酬を受け取った後、二人はギルドを離れ、入り口にじっと立っていた。
レイアは報酬を手に持ったまま、目が少し虚ろになっていた。夏奈も同じだった。
二人は町に着く前に追いかけてくる足虫を振り切っていたが、そのために体力も気力も完全に使い果たし、風前の灯火のようだった。
「レイアさん……」
「なんだ……」
「今、お風呂に入ってもいいですか……」
「いいぞ……」
粘液まみれの服を引きずり、清らかな金貨を手に、二人は町の温泉を探し始めた————
「つーかさ、やっぱり仲間を募集した方がいいんじゃないかな。」
席に座った夏奈が足虫の肉を食べながら言った。
二人は体を清めた後、ギルドに戻り、捕獲したばかりの足虫の肉を楽しんでいた。
正直なところ、依頼を受ける方が町で日払いの仕事をするよりもずっと稼げるし、他にも収穫があった。
もちろん、諸事情により、二人は足虫の加工費とギルドの清掃費も支払わなければならなかった。ただ、足虫の解体費は必要なかった。この工程はレイアが済ませていたからだ。
サービス料は報酬から差し引かれたので、二人の手元に残ったのは報酬のほんの一部で、日払いの仕事と大差なかった。
しかし、足虫の肉の味は夏奈にとって驚きだった。予想外に美味しかった。
でも、まあ、どんな食べ物でも夏奈は食べるのだが。
「仲間を募集するなら、それなりの実力が必要だし、それに報酬の分配も考えなきゃいけない。それにまだ借金もあるだろ。あとお前も考えてみろよ、俺たちの装備は今は貧弱だ。どう見ても誰かが来たいと思うような状況じゃない。」
夏奈の向かいに座ったレイアは両腕を組んで言った。彼の前の足虫の肉は一口も食べられておらず、どうやらこの食べ物にはあまり興味がないようだった。
「うーん……そう言えば、前に読んだ小説でこんな状況があったな。もしかしたらすごく可愛くて強いロリっ子が来たりしないかな?」
「……お前はまず自分が生き残る確率を上げることを考えろ。小説は読みすぎだ、自分をもっと高めろよ……」
夏奈はまた口いっぱいに食べ物を頬張った。
「なによ。あなた一人じゃ無理でしょ。だってあなたは大魔術師だもの。魔力も才能も戦闘経験もあるけど、気づいてるでしょ? 敵の数が多いと手が出せなくなる、簡単にやられちゃうんじゃないの? それに、私たち二人だけでずっと依頼をこなすのも、楽しさが半減しない?」
そう言って、夏奈はレイアの皿から足虫の肉を一つフォークで奪った。
「数が多くても、やりようはある。ただ装備がそれを支えきれないだけだ。それと、依�頼の楽しさとかいうのは、その考えはやめておけ。いずれわかるさ、この世界がどれだけ暗いか。それから、俺の分を食べたいなら止めないが、こそこそするなよ。お前の体が必要としてるんだからな。」
レイアは自分の皿を前に押し出した。
夏奈はこの突然の言葉に戸惑ってしまった。
「な、なによ。もし私の体を気遣っての言葉なら、もう食べないからね。」
「食べないならそれでいい。じゃあ捨てる。」
レイアは自分の皿を引き戻そうとしたが、夏奈は反対側で引っ張った。
「違う違う、やっぱり私の体はこれが必要みたいだから、捨てないで。食べ物を無駄にしないでよ————」
レイアが手を離すと、夏奈は食事を続けた。レイアはぼんやりと夏奈を見ていた。
「それで、どうやって仲間を募集するつもりなんだ?」
レイアは自分の杖を取り出して左右に振り、少し適当な口調で言った。
「うーん、もじろん、依頼掲示板を通じてお知らせを出すよ。」
「まず飲み込んでから話せ……」
夏奈は口の中の食べ物を飲み込み、口を開いた。
「もちろん依頼掲示板に貼り紙を出すんだよ。そうすれば誰か来るんじゃないかな。」
「誰か来るかどうかは別として、問題はどうやって依頼掲示板に貼り紙を出すかだ。」
「ふふん————、あとでわかるよ。」
夏奈はフォークを左右に揺らしながら、生き生きと言った。レイアは憂鬱そうに夏奈を見つめるしかなかった。
間もなく、食べ物は夏奈によってあっという間に平らげられた。そして夏奈は紙とペンを一枚求め、何かを書き始めた。
しばらくすると、紙に書かれた内容がレイアの目に飛び込んできた。
「これがお前の考えた方法なのか…………?」
机の上に一枚の募集貼り紙が現れた。そこには募集情報が書かれ、同時に夏奈とレイア二人の似顔絵も描かれていた。ただ、その絵はちょっと一言で言い表せない代物だった。
「どうどう? 私なかなか上手くできたでしょ——」
「字はまあ良いけど、その絵はちょっと……」
レイアはその見るに堪えない似顔絵を見て、心の中で不安を覚えた。
夏奈はむしろかなり誇らしげに、貼り紙を手にして掲示板へ向かい、貼り付けた。しかも場所は真ん中で、依頼の一部を隠すような形だった。
「ふふん————、あとは他の人が私たちを探しに来るのを待つだけね。その時はよろしくね、しっかり私を守ってよ。」
「お前を守るというより、むしろお前が一番役立たずで、しかも逃げる時は誰よりも速い。」
レイアの突っ込みに、夏奈は聞こえないふりをして、席に座って募集で集まる仲間を待った。
「聞くけど、お前が募集した基準は何なんだ?」
「基準? もちろん強い職業だよ。大祭司とか、聖騎士とか、狂戦士とかの上級職業で、あなたの大魔術師と肩を並べられるような奴。そうすればパーティの強さも示せるでしょ。」
夏奈の提示した基準を聞いて、レイアの表情は穏やかになり、それ以上何も言わなかった。
翌日、冒険者ギルド——
「……」
空気には気まずい雰囲気が漂っていた。
「言わせてもらうけど、昨晩のことはいいとしても、朝から今までまるまる三時間が経過したんだ。本当に誰か来るのか?」
レイアが我慢できずに口を開いた。
「きっと誰か来るよ。だって小説ではそうなってるからね。もしかしたらすごく強い人が来るかもしれないよ。」
「お前なあ……いったいどの小説でそんな知識を得たんだ? どう見ても人が来るとは思えないけどな。」
昨日夏奈が貼り紙を貼ってから十数時間が経過したが、冒険者はもちろん、彼らを訪ねてくる人影すら全くなかった。仲間を待つというより、むしろ半日座っているだけのように見えた。
「そろそろ基準を下げた方がいいと思うぞ。上級職業とか現実的すぎる。ここは比較的辺鄙な場所で、王都じゃないんだ。こんな場所じゃ上級職業なんてほとんど見かけない。」
「うーん……でも、あなた自分で言ったんじゃない? 仲間を募集するならそれなりの実力が必要だって。だから募集基準も高く設定すべきでしょ。」
上級職業であるレイア自身が、この基準がいかに厳しいかをよく知っていた。
大魔術師は魔術師の上位職であり、魔術師の最高位でもある。おそらく千人の普通の魔術師のうち一人だけが大魔術師になれる。さらに言えば、普通の人が魔術師という職業を得ること自体が難しいため、この世界の魔術師は極めて少ない。
ましてやレイアは現役の神であり、理論上は大魔術師のレベルをはるかに超えている。
それに比べて、職業を持たない夏奈は少し存在感がなかった。
他の人が見れば、どう見ても夏奈がレイアに頼ってなんとか生きているようにしか見えないだろう。
しかし、そう言われても間違いではないかもしれない。
「このままじゃ、募集どころか、人の影すら見えないだろう。それに俺は上級職で、お前は職業もない。お前は本当に少しも恥ずかしく思わないのか? だからお前には言ってるんだ。ここで待ってるより、さっさと借金を返した方がいいって。」
「まだ待ってよ、待ってよ。ただ待つ時間が足りないだけかもしれないでしょ?」
立ち上がろうとしたレイアを夏奈が再び呼び止めた。
「あ、あの……」
その時、一人の女生徒が二人に向かって話しかけてきた。
あまり年は大きく見えず、ゴーグルをかけ、灰色の短い髪は肩の長さで、標準的な革鎧を着ていた。その表情は少しためらいがちだった。
誰かが来たのを見て、夏奈はすぐに立ち上がり、女生徒の両手を握った。
「あなた、応募に来たんでしょ——」
「ち、違います、違います。」
女生徒は夏奈の熱意に驚き、慌てて手を振ると、ポケットからくしゃくしゃの紙を取り出した。
「これ、地面に落ちてたんです。誰かが捨てたものだと思います。絵を見て、あなたたちが落としたのかなと思って、返しに来ただけで……」
そう言うと、女生徒は急いで紙を夏奈に押し付け、その場を去った。
ゴミのような紙を手にして、夏奈はぼんやりと立ち尽くした。
「どうした? その子は何をくれたんだ?」
「わからない。なんか——」
夏奈は言いながら、手にした紙を広げた。
その中の内容を見た瞬間、夏奈は突然レイアとの会話を止めた。
その時、レイアも異変に気づいた。
「……なんだ?」
突然に身体が硬直した夏奈を見て、レイアは不安そうに尋ねた。
「うん……別に……」
夏奈の口調は非常に平静で、むしろ平静すぎるほどだった。
夏奈がゆっくりと振り返ると、レイアも彼女の青ざめた表情を目の当たりにした。
紙を机の上に置くと、そこに現れたのは昨晩夏奈が描いたあの募集貼り紙だった。そしてそれはくしゃくしゃになっていた。
明らかに、誰かが故意にそうしたものだった。
「……どうやら少しずつ他の人の不満を買ってるみたいだな。」
レイアの口調には少し不安が混じっていた。
「ああ……ゴミ紙……誰かに捨てられたものか。なんだか私の貼り紙にそっくりだな……まさか誰かが意図的に私たちの真似をしたのかな? ははは——笑えるわ……」
夏奈は極めて平坦な口調で言い、少し不気味に感じられた。
「——でも、確かに誰かが私たちを訪ねて来たじゃないか?」
レイアはお節介にも冷やかしの言葉を言い、笑いをこらえきれず、少しからかうような口調だった。
なんだよそれ——いったいどういう状況なんだよ……
夏奈は心の中で猛烈に突っ込み、机の上に置かれたゴミのような募集貼り紙をじっと見つめた。
「だから、どうやって依頼をこなすか考えろよ。」
レイアが隣から勧めた。
すると夏奈は机の上の紙を掴み、その目には怨念が宿っていた。
「なんなのよ————!?」
夏奈はその貼り紙を激しく破り捨て、取り乱して叫んだ。




