第一章 5 『役に立たない異世界の冒険者』1
翌日、二人の姿が再びギルドのホールに現れた。
実は二人はずっとギルドにいて、しかも昨晩の夏奈の出費が大きすぎたため、本来なら部屋に泊まれたはずの二人はホールで夜を明かすことになった。夏奈は元気そうに見えるが、レイアは少し寝不足のようだった。
「……」
その時のレイアは暗い目つきで夏奈を睨んでいた。夏奈はまるで悪いことをした子供のように、指をいじっていた。
もちろん、夏奈は確かに悪いことをした。
「……お前なあ、よくそんなに食べられたな。あれだけ食べた後でもまだ食欲があったのか? それに昨日稼いだ金を全部使っただろう。俺の金までほとんど使い切るところだったぞ。」
「仕方ないもん、すごく美味しかったんだから……」
夏奈はふくれっ面で首を傾げ、気まずそうに言った。
この世界の食べ物は体力を回復させるだけでなく、少量の魔力も補充することができる。そして夏奈の特殊な体質のせいで、彼女の食欲は底なしの穴のようだった。
「で、これからどうするつもりだ? まさかまた雇ってくれと頼みに行くのか? 先に言っておくが、俺は絶対に行かない。人に頼んで働かせてもらうなんて、俺の価値観に合わない。」
「他にどうすればいいのよ? それにバイトは悪いことじゃないでしょ……」
夏奈は自分の世界では働き手であり、非常に勤勉であることがうかがえた。
「その考えはやめろ。それにお前も知ってるだろう、借金を返すにはギルドの依頼を受けて、達成した報酬から差し引かれるんだ。こんなバイトじゃせいぜい食べていくのがやっとだ。」
「えー? お金で借金を返すんじゃないの?」
その言葉を聞いて、夏奈は困惑した表情を浮かべた。
「お前はどう考えてたんだ? 昨日はっきり言っただろう。依頼を受けて報酬から差し引かれるんだ。しかも三つこなさないといけない。」
借金返済の方法を知った夏奈は、決意したように勢いよく立ち上がった。
レイアがついに夏奈もまともなことをする気になったかと思ったその瞬間————
「焼きパンにジャムをつけたものを、もう一つください。ありがとうございます————」
「食べるな————! このクソ野郎!!」
夏奈が気合いを入れ直すかと思いきや、昨日二人で稼いだ金を残らず使い切ろうとしているのだった。
レイアも勢いよく立ち上がり、夏奈の頬を両側に引っ張った。
「引っ張らないで、引っ張らないで———— 冗談だよ、冗談だから————」
夏奈の懇願に、レイアは沈黙を選んだ。
十数秒後、ようやくレイアは夏奈の頬から手を離した。この時、夏奈の頬は引っ張られたせいで少し赤くなっていた。
「もしお前がこういう態度を続けるなら、今すぐ神界に戻る方法を探すぞ。その時はお前一人でどうやって生きようと、俺の知ったことじゃない。」
「そんなことしないで、依頼を受けるから————」
レイアはそう言っているが、実際には彼も離れるつもりはなかった。ただ夏奈に気合いを入れてほしかっただけだ。
二人は依頼掲示板の前に立ち、様々な依頼を見ていた。
「薬草採取……未知領域の探索……スライム討伐……」
レイアは掲示板の前で依頼を選んでいた。
その時、夏奈が何かを発見したようで、慌ててレイアの肩を叩いた。
「レイアさん、見て見て。」
夏奈は一枚の依頼書を指差した。
「うん?『足虫の狩猟』か。本当にこれでいいのか?」
「ふふん————、私が女だからって見くびらないでね。こういう虫くらい怖くないわ。」
そう言うと、夏奈はその依頼書を剥がし、足虫の狩猟の依頼を受けた。
……
木々のまばらな林の中で、二人は依頼を開始した。
ただ、道のりは少し険しかった————
「わああああ————!! レイアさん、レイアさん!!! 助けてください————————!!!」
夏奈は体高が半メートル、体長が九メートルもある虫に追いかけられていた。
この虫には百本近い歩脚があり、人間が走る速度で這うことができる。また、頭部には鋏のような口器があり、その威力は侮れない。
しかし実際にはこの虫は菜食で、口器で木を噛み切り、鋏状の口器にある特殊な器官で木の枝葉を吸収して生きている。ただし、自分の縄張りに人間が入ってくると、ある程度の攻撃性を示す。
そしてその歩脚は貴重な薬材、口器は武器の材料になる。さらに、この虫の食性や生活習性のため、肉は非常に甘く、希少な優良食材である。
表面の皮膚は非常に硬く、魔法以外では、よほど力が強くなければ一般的な武器では実質的なダメージを与えられない。この虫の皮膚は加工が難しく、剥ぐのも大変なため、普通の冒険者は歩脚と口器、肉を目的に狩猟する。
もちろん、以上は通常体質の冒険者に限った話で、だから————
「わああああああ————!!! 助けて———!!! なんでこんなに大きいのよ————!?!?」
攻撃手段を持たない夏奈のような人間にとっては、この虫に噛み切られるのが関の山だろう。
「おい————、お前……ちょっと止まれ。そんなんじゃ、こいつに追いつけない。」
「止まったら確実に死ぬでしょ!?」
奇妙なことに、レイアはかろうじて夏奈と並走できる程度で、むしろ夏奈の方が少し速いくらいだった。そのため、レイアは夏奈と並走している足虫に全く追いつけなかった。
もしレイアが立ち止まって魔法を詠唱すれば、距離はさらに離れてしまう。
「ずっと無我夢中で突っ走ってないで、俺の周りを回れ。俺を中心にして走れ。」
レイアが前を走る夏奈に向かって叫んだ。
すると夏奈は横方向に走り始め、レイアを中心とした円形のルートを描き始めた。
レイアは中心に立ち、杖を構えて足虫を狙い始めた。
「————」
「ああああ————!! 早くしてよレイアさん————、もう限界————!!」
レイアが魔法を放つ角度を調整していると、夏奈は走りながら叫び続けた。
足虫が体を持ち上げて夏奈に向かって突進しようとしたその瞬間——
「今だ————!」
一瞬のうちに、杖を掲げ、狙いを定め、魔法を放つ、すべてが一気に行われた。
雷系の魔法が杖の先端から放たれ、正確に足虫の脳を貫いた。
足虫の体は勢い余って夏奈を下敷きにし、夏奈の体は足虫の脳髄液と血でべとべとになった。
レイアは遠くから駆け寄り、泥まみれになった夏奈を見た。
「うぅ……うっ……レイア……さん————、あ、ありが……と……うぅ……おえ——」
やっとの思いで足虫の下から這い出た夏奈はすすり泣き、同時に体に付いた足虫の不快な残留液のせいで吐き気を催していた。
「お前……よくあんなに速く走れたな。まさかそんな才能があったとは思わなかったよ。」
「だ、だって死にたくなかったから……ひたすら走るしかなかったの……危なかった……死んだかと思った。」
レイアは息を切らしながら立ち、生命の危機にさらされて引き出された夏奈の驚くべき才能に感心していた。
「でも、さっき俺の言ったことを理解してくれて助かった。あいつが俺の方に向かってくることも覚悟してたんだ。」
「わ、私だってそんなことしないわよ。確かにちょっとはそういう考えも浮かんだけど、実際にはしないって。」
どうやら夏奈はさっき、本当にあの足虫をレイアに向かって誘導しようと考えていたらしい。
レイアは全く気にせず、息を整えると足虫の解体を始めた。
もちろん、夏奈のうっかりで、ギルドから支給された専用の解体用ナイフをギルドに忘れてきてしまった。レイアは夏奈を責める時間も惜しんで、素手で足虫を引き裂き始めた。
この力はあまりにも恐ろしい……
夏奈は傍らに座って、黙々と足虫の死体を引き裂くレイアを見て、心の中で恐怖を覚えた。
「ねえ、レイアさん。なんでこの虫の死体を解体するんですか?」
「ああ? もちろん素材のためだ。ただ殺せばいいと思ってるのか? これらの素材は少なくとも10ゴールドくらいにはなる。借金を返した上に、まだいくらか稼げる。」
金を稼げると聞いて、夏奈は金銭への欲望をあらわにした。
その時、レイアは手を足虫の脳の中に突っ込み、あちこち探り始めた。
脳神経のせいで、レイアが探るたびに足虫が時々ピクピクと震え、突然動く足虫に夏奈はびくっとした。
「レイアさん、何を探してるんですか?」
「うん……ちょっと待て……ああ、見つけた——」
レイアは手を引き抜き、手には鳥の卵ほどの大きさの物を持っていた。
「これは脳珠だ。こいつはこの虫の体中のどの素材よりも価値がある。普通の人はこんな物があることさえ知らない。それに道具なんかにも使える。数十匹に一つの割合でしか取れない貴重なものだ。」
「そ、それじゃあ、運が良かったんですね。これも売れるんですか?」
「もちろん売れる。でも今はダメだ。今売ったら、借金としてギルドに取られてしまうかもしれない。」
付着した液体を拭き取った後、レイアはそれをしまった。
「よし、終わったな。じゃあ、これらの物を袋に詰めてギルドに持って行くぞ。」
「ど、どうやって詰めるの? 手で持つの?」
「もちろん袋を使うんだ。まさか————」
この時、レイアははっと気づいた。解体用ナイフを忘れたということは、当然袋もないということだった。
「……」
「うん……実は、まだ方法があるよね?」
夏奈はおどおどしながらレイアを見た。レイアはその場に立って沈黙していた。
——————
しばらくして、夏奈は両手で足虫の尾部を掴み、引きずって歩くという苦しい姿勢で進み、レイアは足虫の皮で簡単に歩脚を包んで脇に挟み、首には足虫の口器を掛けていた。二人はそんな格好で解体した足虫の死体を運んでいた。
しかし明らかに、夏奈の力では簡単に足虫の体を引きずることはできず、歩く速度は非常に遅かった。一方、レイアは比較的楽そうだった。
「うぅ……重いよ————」
「準備をちゃんとしなかったお前が悪い。今は我慢しろ。」
夏奈が文句を言うと、レイアは少し困った様子だった。
その時、二人の後ろから奇妙な音が聞こえてきた。
「ねえ、レイアさん。何か変な音が聞こえない?」
「そんな変な音なんてしないだろう。聞き間違いだ。」
この時、夏奈は立ち止まり、正体不明の音を注意深く聞いた。
「いやいや、確かに音がする。後ろから聞こえるよ。」
「はあ、そんなわけないだろ————」
レイアが振り返ると、三匹の足虫がゆっくりと二人の後ろをついてきていた。
瞬時に、レイアの額に冷や汗が浮かんだ。
「……? 何が見えたんだ、レイアさん? 急にそんなに怖がって。」
夏奈が振り返ると、一匹の足虫がじっと自分を見つめていた。両者の距離は非常に近かった。
空気には気まずい雰囲気が漂っていた。
「うん、逃げるぞ。」
「わああああああ——————————!!!」
自分を見つめる足虫と目が合った夏奈は、振り返って全速力で走り出した。後ろで引きずっていた足虫の死体も夏奈の走りに合わせて舞い上がった。レイアは夏奈と並んで走っていた。
二人は戦利品を持ったまま、町に向かって走った。




