第一章 1 『新しい世界の冒険の序章』1
白い光が消えると、目の前の景色が徐々に目に飛び込んできた。
微風が木々の葉を揺らし、草を撫でる。春が溢れているような感じだった。
「ここは……」
周りの景色を見て、夏奈は何か新鮮な感じがした。
自分の世界と同じ青い空、白い雲、緑の草。他のどこが違うのか、特に見当たらなかった。
違うとすれば、空を飛んでいる見たことのない鳥たちくらいだろう。
「ここが異世界なの?」
「……」
夏奈は辺りを見回しながら、独り言を言った。
「でも、何も変わらない気がするけど。あのバカ神様、転送を間違えたんじゃないの?」
「……」
この時、夏奈はまださっきのことを愚痴っていた。自分の後ろにもう一人立っていることには全く気づいていなかった。
「……おい。」
後ろから突然話しかけられ、夏奈は背筋がぞっとした。
振り返ると、少しやつれた様子の神様がそこにじっと立っていた。
「わあ、あ、あ、あなた、どうして——? どうしてあなたがここに——?」
突然現れた神様に驚いた夏奈は、どうしてよいかわからず、数歩後退した。
「……さて、どうやって帰る?」
神様の口調からは怒りの気配が漂っていた。フードの下からは、まるで仇を見るような目つきがうっすらと見え、じっと夏奈を睨みつけていた。
少し震えている神様を見て、夏奈は自分の指をいじった。
「知らないよ。転送を担当したのはあなたでしょ?」
ふくれっ面で反論する夏奈を見て、神様は拳を握りしめ、手には青筋が浮かんだ。
「このお前が——」
自分の指の関節を夏奈のこめかみに押し当ててぐりぐりと動かし、夏奈はひどい頭痛に悩まされた。
「痛い痛い痛い、何するのよ。私のせいじゃないでしょ。あの時はどう見ても問題がありそうだったじゃない————」
「そんなの知るか。なんで今までは問題がなかったんだ?」
「私が知るわけないでしょ————!?」
夏奈は神様の手首を掴んで左右に引っ張り、なんとか振りほどこうとした。
「お前は神域から一人欠けたらどれだけ大変なことになるか分かってないんだろう。今は戻れないんだぞ。この事故のせいで、たくさんの人々のこれからの人生が一瞬で暗くなってしまうんだ——」
神様は夏奈のこめかみをぐりぐりする動作から、ほっぺたを抓る動作に変え、さらにぺらぺらと喋り続けた。
この時の夏奈は、まさに生け贄の子羊のように、他人に自分の頬を思い切り抓られていた。
「そんなこと知らないよ。あなたに言われても私が知るわけないでしょ。やめて、もう私のほっぺた抓らないで——」
その時、神様は手を離した。夏奈は振り返って自分の顔を覆った。一瞬、こめかみを揉むべきか顔を揉むべきか分からなかった。
そしてこの時の神様は行ったり来たり歩き回っていて、その心持ちは少し慌てているように見えた。
「ちっ、なんでこんなことに……」
神様はフードを脱ぎ、宝石のように澄んだ青い瞳を露わにした。
もちろん、片方の目だけがそうで、もう片方の目は白く濁っていて、同時に痛々しい傷跡もあった。
彼の顔立ちを見ると、精緻で華麗な顔立ち、白と黒の混ざった髪、完璧な五感に神官服をまとっている。傷跡があってもそのハンサムな容貌は全く損なわれておらず、あの古典的な大理石の彫像のように、まさに生きているモデルのような姿だった。もし現実世界で彼と同じような人物を探そうとしても、世界中を探しても彼に匹敵する者は数えるほどしかいないだろう。
その時の彼は髪を掻きむしりながら周囲を観察し、その表情も少し焦っているようだった。
「あああ、もう本当に——」
神様が振り返って夏奈の方を見ると、夏奈はしゃがみ込んで自分の顔を揉んでいた。
なんだかんだ言っても——
この時の夏奈は心の中で愚痴っていた。
「明らかに私のせいじゃないのに。私も被害者なのに……」
「よくそんなことが言えるな。どう見ても俺の方が被害者だろ。ちゃんとした態度の人間かと思ったら、まさかこんなに無責任な奴だったとはな。」
夏奈もそれを聞いて少し腹が立ち、突然立ち上がった。
しかし——と言うか、この男が罵られるのにも理由があるんだな。こんなに理不尽に人のせいにするなんて、いったいどういう了見だ——
夏奈は心の中でそう思った。
「何が無責任よ。明らかにあなたのせいでしょ——」
振り返ってよく見ると、恐ろしい表情を浮かべた男が自分の目の前に立っていた。身長も、顔立ちも、スタイルも、全てが完璧な美しさだった。
夏奈は突然緊張し、心の中で葛藤が生まれた。
「それに……それに、あなたがイケメンだからって私が文句を言えないと思うなよ。結局、私たち二人とも悪いところはあるんだから……でも、より悪いのはあなたの方よ——」
「は? その一歩引いた態度はどういう意味だ?」
神様の表情は怒りから困惑へと変わり、それに少し嫌悪感も混ざっていた。
この時の夏奈は少し顔を赤らめ、うつむいて黙っていた。
「おい、なんで赤くなってるんだ???」
なんだこれ、神様の恩寵なのか。それに彼は元々神様だったはずだし、もしかしたら超強い能力とか持っているのかもしれない。それに自分もこの世界の出身だと言っていたし、功績のある人間なのか? いやいや、もし彼に功績があるとしたら、背後にとんでもない勢力があるのか? じゃあ、私が彼に逆らったら殺されたりするのか……? 違う違う違う違う。
夏奈の心は勝手な想像を巡らせ始めた。
「なんで急に青ざめてるんだ? もしかして転送された後、頭に問題が生じたのか? 突然頭の中に流れ込んでくる言語知識に一気に対応できなくて、俺の声が聞こえてるのか? おい——」
神様は前に進み出て夏奈の肩を軽く叩いた。
すると夏奈は突然後退し、完璧な九十度の角度でお辞儀をした。
「すみません、勝手なことを言って。どうか私を殺さないでください——」
「はあ————?????」
この突然の行動に、神様は戸惑い、上げた手を半空で止めた。
「いったい何を考えてるんだ? まさか本当に頭が悪くなったのか? なぜ俺がお前を殺さなきゃならないんだ?」
そして夏奈は姿勢を変えず、体を少し震わせていた。
「あなたって、そういう背後にとても大きな勢力がある人のことですよね? それに神様になれるってことは、きっと大きな功績があるんでしょう? それとも、あなたが直接神様を殺して、その座を奪ったんですか?」
神様はますますわけがわからなくなり、表情は完全に困惑に変わった。
「俺が? 神を殺す? いったいどんなめちゃくちゃなことを考えてるんだ???」
夏奈は返事をせず、ただお辞儀をした姿勢を保ち、頭の頂を神様に向けていた。
二人の周りには気まずい雰囲気が漂っていた。
一分ほど緊張状態が続き、神様がためらいながら口を開いた。
「…………お前——」
神様がこの気まずい雰囲気を断ち切ろうとしたその時、夏奈は突然びくっとした。
「すみません——」
「黙れ————! 何を企んでるんだ、まさか自分で今の状況がおかしいと思わないのか——!? とにかく先にちゃんと立て。そんな姿勢、自分がすごく疲れると思わないのか?————」
神様は夏奈の突然の謝罪にも驚き、イライラしながら夏奈に突っ込んだ。
夏奈はおどおどしながら背筋を伸ばした。長くお辞儀をしすぎて腰が痛くなったようだった。
「なんなんだこれはもう——、変に変な想像しなくていい。俺がお前を殺すわけないだろ。それに背後に何か勢力があるわけでもない。」
神様がそう言うのを聞いて、夏奈はほっと息をつき、緊張していた体もリラックスした。
「正直に言うと、毎日家に引きこもっているゲーム好きの女の子と一緒に異世界に行く方がまだマシだ。せめて彼女は異世界のことについてある程度知っているからな。」
この嫌そうな口調はどういう意味だ。
夏奈は心の中で少し不満を感じたが、直接指摘する勇気はなかった。
「私だって色々知ってるもんね。次は街に行ってギルドを探して、それから職業を選ぶんでしょ——」
「先に今の状況を見たほうがいい。まずは街を見つけるのが最初の目的だろう。」
この時、夏奈は自分たちがいる場所がどこだか分からない草地であることに気づいた。
あちこち見渡してみると、街の兆候は何もなく、むしろ森に囲まれているようだった。
「それはそうだけど、どうやって街を見つければいいの?」
夏奈は周りの景色を見て、神様に街を見つける方法を尋ねた。
神様は空を見上げ、周囲の環境を観察し始め、夏奈の問いかけには応じなかった。
その時、神様が突然しゃがみ込み、地面を触った。
「……? 何してるの? 今は街を見つける方法を考えるべきでしょ? なんで急にしゃがんだの? もしかしてここに来て急に体調が悪くなったの? それとも神域にこもりすぎたの?」
「喋るな。今位置を確認している。」
神様は手のひらで地面に触れ、目を閉じた。彼の体の周りに奇妙な物質が現れ始め、四方八方から彼の手のひらの位置に集まっていった。これらの物質は消えたり現れたりしながら、意思を持っているかのように行動していた。
一陣の強い光とともに、地面に小さな魔法陣が現れた。規模は大きくないが、二人が立っていられる大きさだった。
「よし、こっちに来い。この魔法陣は街を示している。今度は勝手に動くなよ。もし動いて出て行っても、俺は迎えに戻らないからな。」
「また魔法陣なの……? あなたの魔法陣、本当に問題ないの?」
夏奈は少し疑わしそうに言い、この魔法陣に強い疑念を抱いていた。
「もし来ないなら、俺はもう行くぞ。その時は自分で帰る方法を探すから、お前はここで勝手に生きていけ。後でお前にちゃんと後始末をするよう手配させてもらうから。」
「わ、私はそんな簡単に命を諦めたりしないからね。」
夏奈はそう言ったが、それでも少し躊躇している様子だった。
「一人でここで消えていくのが嫌なら、さっさと入って来い——!? そこでぐずぐずして何をしてるんだ???」
「あ、これ……距離が近すぎない?」
「そんなことで変な想像をしていたら、転送中にお前を蹴り出すぞ?」
神様は魔法陣の中に立ち、怖い顔で夏奈を脅した。
「わ、私が入ればいいんでしょ。蹴り出すなんて言わないでよ……」
夏奈は大股で魔法陣の中に歩み寄り、神様の隣に立った。
一瞬にして、再び一陣の白い光が走った。




