第一章 17『オーク討伐』
「よし、出発だ出発だ!」
里は意気揚々と大剣を掲げ、空に向かって一振りした。刃が日差しを受けて眩い輝きを放った。
昨日、ギルドで揉め事を解決した後、私たちは夜になって計画を練った。まずは里とアヤコの二人分のクエストを片付け、それから先のことを考えるというものだ。レアは夜通しでクエストの流れを組み立てたが、その途中で私とアヤコが何度も口を挟んで中断させてしまった。
翌朝早く、私たち四人は準備を整えてクエストの旅路に就いた。
これまでと違うのは、今回はもうレアと私の二人だけではないということだ。里とアヤコが加わり、チームは二人から四人へと増えた。人数的には確かにそれなりのパーティーらしくなった。
しかしレアからすれば、人数が増えることが必ずしも良いこととは限らない。むしろ、クエストをより厄介なものにする可能性の方が高いと考えていたようだ。
特に自信過剰な里と、いつもどこかズレているアヤコが気がかりだった。私については……おそらく端で「頑張れ」と叫んでるだけの役割だろう。
アヤコは今回、ヒーラー役を担当することになった。本人の話によると、神界では治癒魔法が最も得意だったらしい。
「さあ、我が最も純粋なる魔法をもって、汝らを傷みの苦しみから解き放たん! 死の法則は、ここには無効なり!」
「最強の剣士として、世界の呼び声に応えし者! 我が手に持つは至高神剣【ラグレイル】! この手で、この世界を闇から救い出さん!」
里とアヤコは歩き出して間もなく、またあの鳥肌が立つような中二病台詞を唱え始めた。見事なまでに息が合っていた。
どうやらアヤコは里からこの口調を学んだらしい。二人は左右に分かれて隊列の先頭を歩き、まるで何かの舞台劇の主役のようだった。
後ろのレアはこの二人の活劇を見て、額に冷や汗を一滴流し、まるで災難を見ているかのような複雑な表情を浮かべていた。
「……なあ、この二人、本当に大丈夫なのか?」
レアが私にだけ聞こえるように声を潜めて尋ねた。
「仕方ない……信じるしかないでしょ。」
私は隣で同じように不安げな笑みを浮かべて答えた。
「いやー、やっぱり仲間が増えるっていいもんだな! それに俺たちのチーム、めちゃくちゃ強いだろ? 一人は剣でバシバシ斬る戦士、一人は超強力な魔法で敵を攻撃する魔法使い、一人は回復ができるヒーラー、そして――」
里は指を折りながらメンバーの役割を数え始めたが、自分の姉のところで突然言葉が止まった。
「どうしたの、里? ぼんやりしてるけど、何考えてるの?」
私は里の異変に気づいて近づき、心配そうに尋ねた。
「ねえ、姉ちゃん。姉ちゃんにはどんな能力があるんだ? 例えば、天地を破壊する技とか、不死身の身体とかさ。」
「うーん……特にないよ。前と何も変わってない。」
それを聞いて、里は指で顎を支え、目を閉じて考え込んだ。眉をひそめている。
よく考えてみれば、里が異世界で私と会ってからまだ一日も経っていない。彼はただ噂で私がこの町の「無名の強者」だと言うのを聞いただけだ。もし私に何か特別な能力があるとすれば、それはレアの首を百発百中で締められることくらいだろう。
今の里はまだ知らない。自分の姉が完全に魔力のない無能な体質だということを。そして私の唯一の攻撃手段は、レアが作った魔法巻物だけだということを。今の私は巻物を一枚も持っていない。つまり……私は単なる囮にしかならない。
「不思議だな…異世界に転移したらもっとすごい能力があると思ってたんだ。まさか姉ちゃん、能力を選ばなかったのか?」
「……」
選べるわけがない。あのクソ神様がそもそも選択肢すら与えてくれなかったんだから。
私は心の中でレアを散々罵りながら、顔には意味深な笑みを浮かべ、ゆっくりとレアの方へ振り返った。
レアも私が能力を持っていない理由を理解しているので、気まずそうに顔をそらし、近くの木を観察しているふりをした。
二人の間の無言のやりとりを見て、里は何が起きているのかさっぱりわからず、困惑した表情を浮かべた。
「ああ……着いたな。ここがオークの出没地のはずだ。」
先頭を歩いていたレアが立ち止まり、手を上げて後ろの者を制した。
目に飛び込んできたのは、森に囲まれた広大な平原だった。空は澄み切って青く、時折鳥が頭上を横切り、長い鳴き声を響かせていた。平原の規模はそれほど大きくなく、サッカー場四、五個分ほどの広さで、周囲は樺の木々に囲まれ、木々の間からは時折虫の鳴き声が聞こえてきた。
もしここでキャンプをするなら、なかなか良い場所かもしれない。しかし私たちは観光に来ているわけではない。
「おおお、すごい景色だな!」
里は周囲を見渡しながら、異世界の自然に感動し、新しい大陸を見つけたかのように目を輝かせていた。
「わあわあ! 里、こっち来て見て見て! 虫が穴を掘ってるよ!」
「本当だ! 異世界の虫も穴を掘るんだな!」
どこの世界の虫だって穴を掘るだろう……
私はレアと並んで立ち、無表情で二人が地面にしゃがみ込んで虫が穴を掘るのを観察している様子を見つめた。まるで初めて動物園に来た小学生のようだった。
私たちがこんなに冷静でいられるのは、この場所がレアと私にとってはもう見慣れた場所だからだ。
何せ数日前、私たちが初めてこの世界に転送された場所がここだったのだから。
「なあ……お前の弟、草原を見たことすらなかったのか? 彼もこの世界に来てしばらく経つんだろ……」
レアは声を潜めて里の反応を愚痴り、その目には疲れの色が浮かんでいた。
「ほとんど逃亡生活だったみたいだし。それに、彼は前は引きこもりだったから、草原どころか家の外にもほとんど出てなかったし……でも、アヤコも虫の穴掘りを見たことがなかったのか……」
「彼女はずっと神域にいたからな。正直、これらは初めて見るものだそうだ。」
この世界の全てに好奇心旺盛な二人を見て、私とレアは同時にため息をつき、顔を見合わせて互いに苦笑いした。
「おいおい――こっちに来い! 変なものを見つけた!」
遠くに走っていった里が突然手を振って呼びかけた。新しいものを見つけた時の興奮した口調だった。
まず駆け寄ったのはもちろんアヤコだった。彼女は新しいものには必ず一番に飛びつく。その速さは影すら追いつけないほどだ。
その後を追って、レアと私も向かった。
「なあ、アヤコ、これを見てくれ。何かの魔法陣の模様に見えないか?」
里はしゃがみ込み、地面のある場所を指さした。
彼が指さす方向を見ると、確かに地面に魔法陣の跡があった。模様はくっきりとしていて、縁は整っており、しかもかなり新しいものだった。どうやら最近描かれたもののようだ。
「確かにそうかもね……でも、これって転送陣の模様だよね? この辺りには誰も住んでないのに、誰がこんなところに来るんだろう?」
アヤコは首をかしげて、地面の不思議な魔法陣を見つめながら、興味津々に頭をかいた。
「バカだな。これは魔法陣の主がここからどこかに転送したってことだよ。誰かがここに転送してくるわけないだろ?」
里は自分の理解に従って、自信満々にアヤコに説明した。得意げな表情を浮かべて。
その説明に納得したアヤコは、なるほどとばかりにうなずいた。
「おおお、なるほど!」
里とアヤコは地面の転送陣を研究し始め、その由来や用途についてあれこれと議論を交わした。
確かに誰かがここに転送されてきたんだけどな……
私は心の中で二人の見解にツッコミを入れながら、無意識にレアを一瞥した。何も知らないレアは困惑したように私を見返した。
「どうした? これは俺のせいじゃないぞ。」
「……」
厳密に言えば、確かに私のせいだ。あの時あの二歩前に出なければ、レアはおそらくこの世界に来ることはなかっただろう。
もちろん、あくまで「おそらく」の話だが。
「よし、ここで役に立たないことを研究してる場合じゃない。俺たちはオークを討伐しに来たんだ。魔法陣の研究は後回しだ。」
レアは前に出て、二人の肩を叩き、どんどん脱線していく議論を遮った。
呼び止められた二人は明らかに残念そうな表情を浮かべた。どうやら彼らはクエストよりも、この世界の新しいものを研究したいようだった。
「しかし……この場所、静かすぎるだろ。本当にオークがいるのか?」
里は周囲を見回したが、オークの姿はどこにも見当たらなかった。そこには私たち四人と、森と草原と、たまに空を飛ぶ鳥だけだった。
レアは何も答えず、顔を少し横に向けて南の方を見つめた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「いや、もう囲まれている。」
「え? どこに?」
レアの言葉を聞いて、里は慌てて大剣を抜き、周囲を警戒しながら見回した。刃が空気を切って弧を描いた。
周囲は異様に静まり返っていた。風の音と鳥の声、そして四人の呼吸音だけが空気に混ざっていた。その静けさは、明らかに不自然なものだった。
四人はそれぞれ別の方向を向き、背中合わせに円陣を組んで、いつでも襲撃に備えた。
「あれ……?」
その時、アヤコが首をかしげて、地面の異変に気づいた。
さっきまで穴を掘っていた虫が、突然そのまま地面ごと落ちていったのだ。さっきの掘る速度からすると、こんなに早く穴を掘り終えるはずがない。少なくとも、突然落ちるなんてことはありえない。
つまり……
「地下! 地下にいるんだ!」
アヤコが突然叫んだ。
その言葉が終わる前に、地面が激しく震え始めた。土が盛り上がり、そこから数匹の筋骨隆々としたオークが姿を現した。彼らの肌は深い灰色で、顔つきは醜く、口からは二本の長い牙が飛び出し、日差しに照らされて黄白色に輝いていた。
粗い鉄製の武器を手にしたオークもいれば、厚い包帯を巻いた拳闘士のようなオークもいた。同時に、森の奥からは弓を構えたオークたちも現れ、背中には矢筒を満載して、威勢よくこちらに向かってきていた。
わずか十数秒のうちに、二十匹以上のオークが四方八方から四人を取り囲み、その陣形は隙のないものだった。
迫りくるオークたちを見て、レアたちは戦闘態勢を整えた。
もちろん、何の戦闘能力もなく、ただ震えることしかできない私を除いては。
……やっぱり私は戦力外か。
私は拳を握りしめながら、心の中で自分を呪った。
数で言えば明らかにオークが優勢だった。しかし実力で言えば……レアの目が素早く周囲を走り、状況を把握した。
オークたちの配置は非常に緻密で、前四、中八、後八の陣形をとっていた。合計二十匹。前列は近接武器を手にし、中列は包帯を巻いて格闘に特化しており、後列は弓を構えている。この配置ならどのオークの攻撃も妨げられず、まさに教科書通りの包囲陣形だった。
「これ、本当にC級クエストなのか……? どう見てもおかしいだろ……」
里は大剣を構え、緊張した口調で言った。剣先が微かに震えているが、握る手はしっかりとしていた。
その光景を見て、レアはゆっくりとため息をつき、落ち着いた口調で言った。
「里、第二案を実行するぞ。」
「え?」
その言葉に、里は困惑した表情を浮かべ、体が硬直した。
「ちょっと待ってくれ、レアさん! まだ何も始まってないだろ! もっと良い方法があるはずだ!」
里は何とか話を戻そうと、焦った声で言った。しかしレアは首を振るだけで、あらかじめ予想していたかのようだった。
「ちょっと待って……第二案? 何の話をしてるんだ?」
私は恐怖で震えながら、声を震わせて尋ねた。
レアは私の疑問には答えず、里と目で何かを伝え合い続けた。
「今の状況は予想を超えている。どうやらこのクエストは確かに不確定要素が多いようだ。」
「いやいや、まだチャンスはあるだろ! 頼むよ、レアさん! まだ早いって!」
里は必死に訴えた。声には最後の抵抗が込められていた。
しかしレアは答えず、ただじっと里の決断を待っていた。
「一体何の話をしてるんだ? もうすぐ向こうが来るぞ!」
アヤコは慌てて飛び跳ねながら、手の中に青い魔法の光を集め始めていた。
レアは依然として一言も発せず、迷っている里をじっと見つめ続けた。
その視線に耐えかねたのか、数秒の膠着状態の後、里はようやく決心し、歯を食いしばって言った。
「レアさん、やるのか? 今、ここで!」
「ああ、今だ。」
そう言うと、レアは腰をかがめて里の両足を掴み、勢いよく持ち上げた。里は全身を緊張させ、大剣を頭上に掲げ、まるで引き絞られた弓のように構えた。
そして、レアは里の全身を振り回した。まるで人型の大剣を振るかのように。
「あ……」
里は短い悲鳴を上げ、そのまま空中で弧を描いた。大剣は回転の勢いで横に薙ぎ払われ、風を切る音を立てて、先ほど里が自分で振るった時よりもはるかに強力な一撃となった。
一連の動作が終わった後、目の前に広がる光景に、アヤコと私は呆気に取られた。
「あああああ――! こんなの恥ずかしすぎるだろ――!」
里が空中で悲鳴を上げた。その声は風に吹かれて途切れ途切れになっていた。
「今更何を言ってる。お前が台詞を言ってる時は恥ずかしくなかったのか? 準備はいいか? 【ラグレイル―里】だ。」
なぜかレアは無表情でその名前を口にした。
しかし、その無表情だからこそ、かえって言いようのない滑稽さが漂い、見ている側としてはさらに直視しにくかった。
「ちょっと待ってくれ! 慣らしてくれ――!」
「無駄だ! お前たち二人、伏せろ!」
レアが号令をかけると同時に、彼自身もその場で高速回転を始めた。「ラグレイル」という大剣――そしてその柄として使われている里――は空気中に銀白色の弧を描き、風が轟音を立てて吹き荒れた。時折里の悲鳴が混ざり、それはまるで特別な戦闘咆哮のようだった。
アヤコと私はすぐに地面に伏せ、頭を抱えて体を丸めた。舞い上がった土や草の切れ端が顔に当たった。
前列の四匹のオークは反応する間もなく、横薙ぎに振るわれた大剣によって一掃され、巨体が轟音とともに倒れ、土煙が立ち上がった。わずか数秒で近距離のオークは全滅し、残るは遠くの八匹の弓兵だけとなった。
遠くのオークたちはこの光景を見て、一斉に弓を構え、レアたちに向けて矢を放った。矢が空気を裂く音が耳障りに響くが、レアは片手で里の足を掴み、もう一方の手で回転の幅を調整しながら、放たれた矢をすべて弾き飛ばした。矢は周囲にパラパラと落ちていった。
「アヤコ! フラッシュ!」
レアは回転を止めずに、アヤコに向かって叫んだ。
命令を受けたアヤコはすぐに体勢を低くして体を安定させ、両手を合わせた。
「わかった、【星辰の光よ】――!」
アヤコの手のひらに眩い光の玉が集まり、レアが大剣を振るう合間を縫って、それを上空に投げ上げた。
光の玉は空中で炸裂し、強い白光が一瞬にして平原全体を包み込んだ。
遠くの八匹のオークは視界を奪われ、痛みに叫びながら目を押さえた。弓は狙いを失い、あちこちに無造作に矢を放った。
続いてレアは里を地面に下ろし、右手を上げて五指をわずかに開いた。指先に細かい雷光が集まり、パチパチと音を立てた。
八本の雷光がほぼ同時に放たれた――正確無比に、素早く、一発も外さずに。それぞれが遠くのオークの急所を正確に貫き、八匹のオークは悲鳴を上げる間もなく、次々と倒れていった。
戦場は一瞬で静まり返った。風が草の葉を揺らす音と、里が地面に仰向けに倒れて荒い息をしている音だけが残った。
「……終わったのか?」
私は地面に伏せたまま、慎重に顔を上げて周囲を見回した。周囲には二十匹のオークの死体が無造作に転がっていた。
「ああ、終わった。」
レアは手についた埃をはたき、落ち着いた口調で言った。
一方里は依然として地面に仰向けに倒れ、手足を投げ出し、大剣を脇に置いて、空を見上げながら断続的にうめき声を上げていた。
「……俺はもう二度と……【ラグレイル―里】なんてごめんだ……」
レアは彼のそばに歩み寄り、見下ろしながら、口元にわずかな笑みを浮かべた。ただし、それは企みが成功したような笑みのように見えた。
「よくやった、褒めてやる。」
「そんな褒め言葉、いらないよ――!」




