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猫可愛がりしていたら、喰われました。  作者: 不知火螢


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 一瞬だけドアが開いて、すぐに閉まったけれど、その瞬間に見えたのは多分、気のせいじゃなければミハエル殿下だった。

 本当に一瞬だったけど、私が殿下を見間違えるわけがない。


 一年ぶりの再会がまさかの授乳中でちょっと気まずいけれど、すぐにドアを閉められたので、あれを再会とカウントしていいのか、いささか疑問が残るけれど。


 ひとまず、リートとリンデが満足したのを確認してから、ベッドサイドの紐を引く。ガラン、ゴロン、と大きめのベルが鳴り、すぐに侍女と乳母がやってきた。

 二人を乳母に任せ、侍女にドレスを直してもらう。今までは平民向けの非常に簡単なつくりの服だったので、簡単に脱ぎ着ができていたけれど、ドレスはそもそも一人で着るのを想定した作りになっていない。それになにより、今日は殿下に会うということで、いつもよりも入念に着飾られていたので、一人で綺麗に直すのは不可能なのだ。


 ひとまず殿下は応接室にいると聞いたので、そちらへと足を運ぶ。その最中、いつもは兄上の執務室に入り浸っているという話を聞いた。

 ただ、今日に限っては別に兄上が執務室から追い出して、応接室に押し込めた、らしい。


 応接室の扉の前に立ち、ものすごくバクバクと高鳴る心臓を少しでも落ち着けるために、気休めに深呼吸を数回繰り返す。

 右手を左胸に当てると、面白いほどにドクドクという鼓動が手のひらに伝わってきた。


「……兄上は、執務室?」

「はい。応接室には、ミハエル殿下だけがお待ちです」

「わかった。では、貴女たちは、戻っていいわ。用があったら呼ぶから」


 侍女たちは何か言いたげだったけれど、問答無用で下がらせる。

 本来、婚約者同士と言えども、未婚の男女が密室で二人きりになることはない。使用人を待機させるか、下がらせたとしても、ドアを開けたままにする。

 それは、まかり間違うことが無いように、というのが大きな理由なのだが、すでに子供がいる状態である。

 一夜の過ちを犯してその証が生まれているのだから、もはやその状況を避ける意味はない。

 ……たぶん。


 まぁ、あの日は二人ともお酒が入っていたからね。同じことが起きることはないはずだ。

 兄上も居ないということは、二人で話せ、ということなのだろう。


 意を決してドアをノックする。中から入室を促す殿下の声が聞こえたことを確認してから、ドアを開けた。

 中に入ってドアを閉じてから振り返ると同時に、勢いよく抱きしめられた。

 あまりにも勢いが良すぎて、衝撃を受け止めきれず、二人してそのまま床に崩れ落ちた。


「で、殿下?」

「会いたかった。ずっと、ずっと、会いたかった。一人で大変な決断をさせてごめん。頼りなくてごめん。無事でいてくれてありがとう。産んでくれてありがとう」

「え? え??」


 顔は見えないけれど、ぎゅうぎゅうと抱きしめるのは間違いなく、ミハエル殿下である。

 私が先に謝ろうと思っていたのに、なぜ、私が殿下に謝罪を受けているのだろうか。とりあえず、今の私にできるのは、殿下を落ち着かせること、だろうか。


 わたわたと行き場のなかった両腕を殿下の背中に回して、私からも抱きしめる。そして、一年ぶりではあるが、記憶の中の感覚と何かが異なり、はて、と首を傾げた。

 しかし、いまはそんな違和感の追求よりも、殿下の方が大事である。


「殿下、とりあえず、顔を見せてほしいのですが」

「……いま、絶対に不細工だからやだ」

「殿下が可愛くない瞬間なんてないんですけど?」


 いつでも完全無欠に可愛いのがミハエル殿下だ。異論は認めない。

 それでもやだやだと言い張る殿下を何とか宥めすかして、顔を上げてもらう。そうしてようやく、一年ぶりに、大好きな紫水晶と目が合った。

 うん、やっぱりリートとリンデは、殿下と同じ色だね。

 どうやら私が泣かせてしまったのか、紫色の瞳は潤んで目元が赤くなっているけれど、そんな顔も可愛いと思うのは、恋は盲目というやつなのか、私の感覚がおかしいのか、客観的に見ても可愛いのか。たぶん、誰が見ても可愛い。


「うん、可愛い。今日も可愛いですよ。体は……一年で、ずいぶん大きくなりました、ね……?」


 二人とも床に座り込んだままだけど、殿下の方が目線が少し上である。抱きしめたときの違和感は、身体が成長していたからだろう。

 一年前の殿下は、まだ成長期の途中という感じで、もっと中性的な容姿をしていた。十六歳から十七歳の一年間ですっかり成長期が訪れたのだろう。

 自分の判断でその一年の変化を見逃したことに悲しめばいいのかなんなのか、自分でもなんだかよくわからなくなってくる。


「殿下?」

「……なんで、敬語なの」

「え」

「それに、なんで、名前で呼んでくれないの」

「え、と。前とは、状況も、変わりましたので……?」


 確かに、以前はもっと普通に名前で呼んでいたし、敬語ではなくもっと砕けた口調ではあったのは事実だ。それでも、領地で家族のように過ごしていたときはともかく、王子として王都に戻るときに、これからは態度が変わるのはしょうがないね、という話をした、と思うのだが。


 しかし、殿下はそれが不満なようで、口を尖らせて拗ねている。そんな顔をしても、可愛いだけなのだが。

 というか、殿下の情緒が忙しいな。


 ……なんか、思ってた再会とだいぶ違うな??

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