表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫可愛がりしていたら、喰われました。  作者: 不知火螢


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/40

31

 兄上と姉様が宿屋に顔を出したのは、すっかり陽も暮れて辺りが暗くなってからだった。

 こんな時間まであれこれと後始末に奔走していたのかと考えると、のんびり子供たちとベッドでゴロゴロして待っていたのが、なんだか申し訳なくなってくる。

 元々、私が首を突っ込んだことだし。兄上、関係なかったし。


「なんか、今更ながらに、兄上を巻き込んだことを申し訳なく思ってきました」

「昨日も言っただろう? 今回はきちんと筋を通すのが正解だったし、想定していた以上にことが厄介だから、問題ない。そもそも、あれは今の段階でけりをつけていなければ、結果的に国が動く事態になっていたんだ。そうなっていたら、遅かれ早かれ、巻き込まれていた。それなら、早いうちにことを終わらせられた今の方がよっぽどいい」


 なるほど、確かに、ミハエル殿下の最側近の兄上なら、何かしら対応することになっていただろう。それなら、今の方が、よかったのかもしれない。

 現在の王室直轄の騎士団長はオルトマン家(うち)とも親しい家の人だし、そこ経由で兄上も協力することになるなら、結果的に殿下の手柄にもなるわけだし。

 今回のことだって、私たちが勝手にやったけど、そこで掴んだ情報は必然的に殿下の元に上がるわけだし。

 うん、よかった、のかな?


「それに、イルヴィッツ伯爵に大きな貸しができたし、とんでもない駒が舞い込んできたからな」

「駒?」

「ファルクよ。なんか色々あって、あいつ、うちに来ることになったわ」

「……なんで?」


 いや、ほんとになんで?


 姉様が呆れながら話してくれた内容は、本当に意味が分からなかったけれど、ファルクが家を出たのは実家よりも私を優先するから、らしい。イルヴィッツ伯爵が保管していたハイヒラー侯爵からの手紙だとか、領内の管理が杜撰になっている証拠となる各種帳簿だとか。

 そういった、ミハエル殿下の地盤を強化し、政敵であるハイヒラー侯爵を始めとした現王妃、第一王子、第二王子を排除するのに役に立つあれこれをなぜか手土産として、いい笑顔で兄上に差し出したそうだ。

 その代わり、建前として実家から身を守るためにオルトマンで匿ってくれ、ということらしい。


 ……なんで?


「てっきり、あなたに惚れたんだと思ってたけど、じっくり話を聞くとどうやら違うみたいね。あれは……恋心というよりも、どちらかというと、信仰心……? 崇拝? なんだか、そんな感じね」

「えっと……信仰される覚えも、崇拝される覚えもないんですけど……」


 というよりも、本当に、私自身がファルクと対面して言葉を交わしたのは、今日が初めてである。仮に、一年前に挨拶をしていたとしても、そんな感情を向けられる覚えはないのだ。


「少なくとも、ラヴィニアと恋仲になりたいわけではなく、ラヴィニアの幸せに繋がるなら実家の意向なんてどうでもよくて、むしろ実家を捨ててミハエル殿下に付く、ってことみたいよ。実家を捨てる、というのは私には理解できない感覚ではあるけれど、そこはまぁ、家の方針が自身の信条に反するなら、仕方ないのかもしれないわね」

「そういうものなんですかね……」


 私も姉様も家の方針のおかげでのびのび育った結果、家の意向に沿うのが当たり前、という思考に至っている。もし、私もよその家で育っていれば、家に反発することもあったのだろうか。

 考えても仕方ないことだけど。


「まぁ、あいつのおかげでハイヒラー侯爵に少しでもダメージを与えられるならそれでいい」

「あ、兄上! 殿下と話をしたいのですが、どうしたらいいですか!」


 思いもよらなかった話をもたらされてすっかり忘れかけていたが、兄上たちが来たら話をするぞ、と決意していたのだ。この決心が揺らぐ前に! と切り出すと、兄上は少し驚いたように目を見開いた。


「また突然だな。まぁ、話をするのは賛成なので、構わないが。そうだな……ミハエルの公務の都合もあるから、今日明日はさすがに無理だな」


 それはそう。

 殿下だってお仕事があるし、昨日今日と兄上を今回の件に巻き込んでしまったので、兄上が関係する仕事も処理が止まっているだろう。二日分の仕事を止めてしまったと考えれば、さすがにそんなすぐに会えるとは思っていない。


「……ミハエル次第だが、早くて明後日だな」

「思ったよりも早かった!?」

「ミハエルがラヴィニアに会いたがっているんだ。お前の兄としても、ミハエルの側近としても、オルトマンの後継ぎとしても、今、何よりも最重要なのはもはやお前とミハエル、それからジークフリートとジークリンデのことなんだよ」


 なんてこった、私の個人的事情は、もはや個人の範囲に収まらず、兄上の中の最重要事項にまでなってしまった。

 でもそれもそうか。リートとリンデの存在が秘密ではなくなって、更にその父親が王位継承権を持つ王子だっていうだけでも大事なのに、王家の色まで持っているのだから。

 うん、はい、兄上にとっては最重要ですね、はい。


「場所はタウンハウス(王都のうち)でいいな?」

「はい……いつ行けば?」

「そうだな……マリーナ、ラヴィニアに渡した通信具の対、借りれるか?」


 姉様は心得た、と言わんばかりに通信具を兄上に手渡した。あっという間に解決してしまったけれど、元々は一角兎の問題がきっかけだったので、私と姉様が密に連絡を取る必要がなくなった。姉様としては、私と家族が何らかの連絡を確実に取れればそれでいい、という認識なのかもしれない。


「準備ができたら連絡する。この町から移動しても構わないが、連絡にはすぐに出れるようにしておけ」

「はーい」


 兄上のことだから、本当に明後日には準備が整っていそうである。

 ……この決意が、薄れないうちに会いたいような。心の準備ができるまでもう少し時間が欲しいような。そんな矛盾した気持ちを抱えながら、待つことになりそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ