侍の秘技其二 筒抜けの叛意 (クローデス中心、三人称視点)
申し訳ないです。投稿遅れました。今日、もう一話きっちり投稿しますので許して下さい。(土下座)
「今日も空は青く、街の賑わいは変わらず、か」
アドリューン達が密談をしている日。ほぼ、灼熱とも言える気候の中、質素寄りの部屋でありながら、明らかに場違いな氷で出来たシャンデリアを天井から吊るすことで部屋の温度を調整し、汗一つかくことなく、眼下に広がるドルバーデンの街を眺める男が一人。
「それにしても、まさか国をひっくり返すほどの意志を持つ者がまだ居るだなんて」
彼の見据える先は職人街のある方角だった。彼の居る場所は、貴族街。それも、この都市の中で最も高い建物である、遠見の砦の、この都市に住む貴族の中でも、テロの序列を持つ、即ち、十位以内の名を持つ者しか立ち入ることのできない最上階だ。
その高さは、都市を囲う第二門の城壁を超え、農地を視界に納められるほどである。流石に、第一門は結界も見えることはないのだが。
「とはいえ、彼らも哀れなものだ。こうして僕に敵対意志がバレているにもかかわらず、頑張ろうとしているとは」
この都市の建物・城壁・結界に関しては全てに貴族の手が加わっている。例えば、貧民街。貧民街は、五階~十階程の家々が立ち並ぶ構造となっているが、その家々の根幹となる、柱などの骨組みは全て貴族が設計している。当然、家に入る者を選別する、閂付きの扉もだ。壁や床、並びに屋根に関しては貧民たちに任せているため、ツギハギなのだが。
それが、職人街や平民街だと更に変わってくる。ほぼ完全と言って良いほどに貴族の手が入っているのだ。外観然り、場違いな門や扉然り。この都市では勝手に家を建てることは禁じられている。何故なのか。それは、彼の力が関係していた。
彼の名前は、クローデス・ドルバーデン・ミネス・スクラ。この都市の中で第三位の序列を持つ上位貴族だ。彼は、覚醒者の中でも珍しい力を持つためにこの地位にいる。力の名は、【索敵】。この力は、自身がマーキングした場所から一定の範囲内において、マーキングした場所が視界に入ってさえいれば、敵対意志を発した者とその意志の強さを察することが出来る力である。つまり、貴族が全ての建物にかかわっているのは彼がマーキングをし、この都市に対して反逆の意志を持つ者の所在を把握するためでもあった。
「さて、このことに関しては報告にいかないとね。とはいえ、ここから出ると暑いから嫌なんだよなあ。それに領主とはいえ、あれを目に入れるのもね」
クローデスはけだるげにため息を吐きながら最上階にある一室から外へ出る。むっとした空気に顔を歪めつつも、遠見の砦の最上階へとつながる長い長い階段を降りてゆく。彼が向かうのは、貴族街の中でも、多くの上位貴族が詰めている政議の砦だ。
クローデスは、遠見の砦から少し離れることを階下にいる使用人に伝えると、そのまま遠見の砦を出た。
貴族街は主に三つの区画に分かれている。一つは、今、クローデスが居た遠見の砦を中心とした監視区画。もしこの都市が戦場になった場合の戦況把握や防衛のために使われる区画ではあるが、それ以外ではほぼ使われない区画である為、現状はクローデスの箱庭と化している。
残り二つは、貴族たちが仕事や都市の運営を行う政議の砦を中心とした行政区画と貴族たちの住居を中心とした居住区画だ。
遠見の砦周辺に配置される防衛専用の建物を横目に見ながらクローデスは進んでゆく。勿論、そういった設備は管理を怠ればいざという時に使えないので、クローデスは自身の使用人を住み込みで働かせている。というのも、貴族というものは上位になればなるほど自分に利が無ければ仕事を嫌がる傾向にあり、戦時でもない防衛施設の管理に旨味など微塵も無いので、現状、クローデスとその使用人だけで管理されている。
そんなわけで、クローデスとその関係者しかいない監視区画はクローデスの箱庭と呼ばれている。今、国全体を探せば分からないが、この都市に限って言えば、彼ほどこの区画に詳しいものはいない。
だが、そんなクローデスでも、その箱庭から出れば話は変わる。
「クローデス様が遠見の砦からお出になられたぞ!」
「何か緊急の話があるのかもしれない。政議の砦に至急連絡するんだ」
「キャー! クローデス様カッコイイわ!! 日に焼けていない綺麗な肌も美しい!」
クローデスは領内の監視が主な仕事でもある為、遠見の砦からはめったなことでもない限り外に出たりはしない。つまり、出た時は領内に何か問題が起こった証拠であり、それだけで勝手に周囲の者たちが動く。ただ、彼はとんでもないほどの美形であるため、砦から出るたびに女性貴族や使用人を虜にしているのだが、それはそれである。
そんな中を、愛想笑いを振り撒きながら抜けたクローデスは政議の砦へとたどり着き、中へと入ると、先ほどクローデスの姿を見て連絡に行った使用人によって既に準備が整っているのか中へと案内される。そこで案内された部屋には巨大な生き物の頭を象った金で出来た彫像が置かれた明らかに他とは格が違う、普通であれば入るのもためらわれるほどの扉の前だった。
そんな扉を迷いも気負いもぜずノックし、「入れ」と返事が聞こえたところでなんのためらいも無く入っていけるクローデスもまた大物であることに違いないのだが。
中に入ると、明らかに運動不足と贅沢の粋を尽くした生活をしているのがよく分かる、全身に肉を蓄えた、もう六十は超えているだろうという見た目をした男が一人椅子に座ってクローデスを見ていた。その男が座る椅子は、華美に彩られながらも背もたれがあり、座る者の負担を軽減するように沈み込む柔らかさを持つと言った逸品だ。
椅子だけではない。この部屋にあるものすべてが、一つだけで平民数人~数百人の生涯年収にも匹敵するほどの金をかけて作られる代物なのだ。
「いつ見ても領主によくお似合いの絢爛豪華な良いお部屋ですね。最近、更にその輝きを増したのではありませんか?」
「クローデス、お前は見る目があるな。そうだろう。ここはバンデルゲートの辺境だが、辺境だからこそ出来ることもある。新しく、隣国の最高級品が手に入ってな。それを新たに飾ってみたのだ」
政議の砦の一室。そこは、華美で、金をかけていることを隠しもしない程に豪華に彩られている。クローデスは最低限部屋で生活出来ればそれでいいという貴族にしては珍しいタイプの人物なので本当は領主の趣味などどうでも良いのだが、褒めておいた方が上手くことが運ぶので、領主に会う時は必ず褒めることにしている。
――いつ見ても、この部屋は見るに堪えない。これが、全て民の血税と権力で作られている物だというんだから猶更、質が悪いね――
そうは思っていても、口には勿論、顔にも出さない。いくら、序列三位とはいえ、領主の機嫌を損ねれば痛いなんてものでは済まない。序列一位の領主の力は莫大だ。今は座っているだけで無能そうに見えるが、力に関しては三位のクローデスを十人集めてようやく互角で戦えると言っても過言ではない程にすさまじいものを持っている。逆らったり不満を少しでも見せた者は簡単に閑職に飛ばされたり、秘密裏に殺されたりする。
「私に会いに来たということはこの都市に何かあったのだろう?」
「ええ、実は久々に都市内に反逆意志を持つ者が現れたのです」
「ほう。それは身の程知らずな。場所と意志の強さはどれほどのものだ?」
「場所は製材所、意志の強さは、国家転覆レベルですね」
クローデスが製材所と伝えた時、領主は少し顔を歪めた。製材所とやらに不味いことでもあるのだろうか。
「そうか。また製材所か」
「失礼で申し訳ないのですが、またとは一体どういうことでしょう?」
領主の反応に不思議なものを感じつつクローデスは尋ねる。
「これを見てみろ。ついこの前、冒険者ギルドから六歳の子供が登録に来たって情報があってな。臨時で下級貴族の仕事が出来る奴に調査に行かせた報告書だ」
そう言って、領主は四方に置かれている報告書と思われる紙の山の中から覚醒者の力と思われるもので、必要な紙束だけを抜き出してクローデスに渡す。
クローデスはパラパラとその報告書に目を通した後、口を開く。
「確かに、このアドリューンという少年と付き添いのベルノという男は製材所で働いているようですね。とはいえ、これは問題はないとの報告ですが?」
曲がりなりにも領主というだけあってこの辺り有能でもある。渡された書類にはキチンと目を通すしその内容も覚えている。だからこそ、ここで見せるべき書類を即座に用意することが出来た。
体型は酷いし、恐らく横領や不正の類もしている。そうでなければ、さほど豊かでもない辺境の都市でこんな部屋が維持できるはずも無い。だが、自身の地位を維持する手間だけは惜しまないからこその序列一位でもあるのだ。
「ああ、だが、この製材所の親方はアドゴラだ。十年前、自然覚醒したままこの都市に転がり込んできた、な。その時、この都市の法に基づいてこの都市から出られないように措置を講じた。そんなやつが管理する製材所についてこの短期間でこうも立て続けに報告が上がるのは偶然じゃないとは思わないか?」
領主は大きな腹をかきながらもクローデスに言う。
――確かにそれを聞けば怪しいな。問答無用で都市に縛られた自然覚醒者、幼いながらも製材所に所属し冒険者登録をする少年、そして、僕のマーキングに引っかかった今回の強い敵対意志。これは面白いことになるかもしれない――
クローデスは内心で少し笑った。殆どの時間を監視のために遠見の砦で過ごす彼にとって久々の好奇心の芽生えであった。
「確かに、言われてみれば、多くの要素が重なっていますね。とはいえ、何故、十年も経ってから急に動き出したのでしょう? これまでは特に目立つような問題行動は起こしていないですよね」
「ああ、だから、近々調査をさせたいと思っているが、職人街となると、貧民街が近いおかげで貴族は誰も行きたがらない。別に調査せずに製材所の関係者全員処刑でも良いんだが、アドゴラは違う。あいつはこの十年でこちらからもタダでは手を出せない程の人脈を築いた。だからこそ、下手に手を出して平民と貧民の職人中心に職務を放棄されてはかなわん」
親方はそれほどまでに大きな存在となっていた。少なくとも、処刑するならば、周辺関係にも気を使わなければならないほど。だからこそ、貴族側も下手に処刑は出来ない。かといって無理矢理調査員を派遣しても、貴族は貴族なのだ。貧民街の近い職人街なんかに行かせれば、住民の不興を買うような仕事をし、調査も適当になるのは目に見えていた。
頭を抱える領主を見てクローデルは思った。これは、自分にとって、遠見の砦から出るチャンスではないかと。
「ならば、私が平民に混じって調査をしましょうか? あと、その際連れていきたい人物がいるのですが――」
そう、クローデルが言った時、領主は即座に反応した。物見の砦に駐屯するのは確かにクローデルがベストなのは間違いない。だが、それ以上に領主にとって職人街の調査の方が厄介だった。
所詮、今は戦時ではない。それに、本来ならば敵対意志がある者が分かる人物などいないのが普通なのだ。今まで過剰であったものが一時的に普通に戻る。それだけのことだと結論付けた領主は、クローデルに命じた。
「良いだろう。クローデル。随行する者の選定はお前に任せる。職人街の調査に赴くがよい。その間の遠見の砦に関しては別の者をつけよう」
「御意」
こうして、職人街に貴族の調査が入ることとなった。だが、領主は後にこの判断を後悔することとなる――。
新キャラはクローデスと領主でした。彼らこの章のキーパーソンの予定なのでお楽しみに! 本当はもう少し書きたいことがあったのですが、文字数がオーバーフローなんじゃああああああああ! あ、書きたかったのは外の世界の植物の話です。ただ、入れると、ちょっと長くなりすぎることが判明したので諦めました。本編で入れていくことにします。
というのは置いといて、今日、ずっと前から読みたかった『神達に拾われた男』(小説版)を読み始めまして、面白過ぎて、ギリギリまで読んでたらまんまと執筆ががががが......
お許しください。次回から本編に戻ります。次回はいよいよ、アドリューン考案の修行が始まっていきますのでお楽しみに~! では。




