侍の心得其四十 ベルノさんとの密談①
お疲れ様です。タイトル変更による伸びがそれほどでもなかったのでシンプルに改題してみました。
内容に変更はありませんので引き続きこれまで通りよろしくお願いいたします。
狩りが終わった後の五日目の休日。昨日、修行道具を手に入れたものの、おろしたてのよそ行きの服を一日で駄目にした某は、母上にこってり絞られ、更にもう一着仕立てるための足しにするということで、たらいを買った残りのお金すべてを徴収された。それでもあの服の代金には届かないというのだから、今更ながらに某は昨日ぐしょぐしょにしてしまった服の価値を思い知る。
とはいえ、やってしまったものは仕方がないのだ! 一通り反省したところで一旦忘れるのが吉というもの。とにかく、昨日母上に言われて浮上した問題があるのも確かである。
こんな時、頼りになるのは......そう、ベルノさんであろう。
そんなわけで某は休みであるにも関わらず、朝一で製材所へと向かった。目的は、修行の相談をベルノさんとする為だ。そんな折、某は製材所の門の前で久々のような、そうでもないような者と会うことになった。
「おお、師匠! 久々だな。同じ場所で働いている筈なのに、見習いじゃなくなっただけでこうも会えなくなるってのは不思議なもんだな」
そう、某と同じタイミングで製材所の中へ入る為にやってきたのは、打倒シーカスを掲げて半年間、共に修行をしたアーミーだった。シーカスとの戦いの後か、それとも勝ち抜き戦の後か、某を師匠と呼んでくれているようになったことが少し嬉しい。
「うむ、久しぶりでござる」
某は嬉しくなった分、少しだけ明るい口調で言葉を返すとアーミーはあからさまに安心したような顔をしている。一体どうしたのであろうか?
「そうか、元気ならいいんだ。それにしても師匠は今日はまだ休みって話じゃなかったか? これは人伝てに聞いた話だが、初めての狩りでかなりの戦果を上げたが、精神的に二度と戦えないんじゃないかって程のダメージを負ったって聞いたぞ」
確かに、某はダメージを負った。だが、それほど大げさなものでは無いはずである。確かに、生き物にとどめをさすという意味ではかなりのハンディを負ってはいるが、ダメージを与えることや誰かのアシストをすることは無理なことではない。それに、時間をかければまた元通り戦えるようになれるとも思っている。
「む? 某、確かに精神的なダメージは負ったでござるが、そこまでの大事ではないでござるよ? 確かに相手の急所を突く行動には少し制限がかかるが、戦えないという程ではない筈でござる」
そうなのだ。急に腕が言うことを聞かなくなり、取り乱したとはいえ、バンデルラビットは斬れたし、結果的に倒せたのだ。まだ、少し思い出せばあのバーサークカウが頭を過り、吐きそうになることもあるがかなり楽にはなってきている。
「なるほどな。なら、噂は一部真実を含む嘘だったって――」
アーミーが某の言葉に納得して返事をしようとしたとき、その言葉を遮るように不意に後ろから声がかかる。
「そろそろ来る頃だと思っていましたよ。アドリューン」
「「ひっ!?」」
某たちの後ろにはいつしのび寄ったのかベルノさんが立っていた。そんなホラー的な登場をしなくても良かろう! そうは、思っても口には出さない。ここで文句を言おうともまともに取り合ってもらえるはずもない。それどころか、痛いところを突かれて返り討ちに遭う危険性もあった。ここは探す手間が省けたと思った方が良いだろう。
「ベルノさんは師匠に用事があるみたいだし、俺も仕事があるから、ここでお別れだな。またな、師匠」
「待ってください。アーミー。あなたにも少し聞いておいて欲しい話があるので少し一緒に来て頂けますか? 仕事に遅れることに関しては私に呼ばれていたと言えば良いですから」
「俺にも、ですか?」
アーミーは予想外にもベルノさんによって呼ばれたことに困惑しつつも言われた通り、某とともにベルノさんに付いてゆくことになった。
その途中、親方も某たちに合流した。親方の頭の光はすっかり回復したようでキラキラと上機嫌そうに輝いている。
「おう。アドリューン。おめぇが思ったより元気そうで何よりだ。ここに戻ってきたときは俺への報告もベルノに変わってもらわなきゃいけねぇくらい気落ちしてたって聞いてたから心配したんだぞ?」
「心配かけて申し訳なかったでござる。アニマルと対峙する機会が無いかぎりは生活に支障はないので問題ないでござる」
「そうか――」
そう言うと、親方が何かボソッと呟いた気がしたがよく聞こえなかった。
そうして、職人たちの指揮を取ったり、現場監督をしたりすることの多い親方と取引先との交渉や製材所の会計、更に最近では某の面倒を見るといった特殊なことを担当することの多いベルノさんが二人一緒になって製材所を歩くのは珍しいらしく、製材所内はかなりざわついていた。
「なあ、師匠、俺、何か、何かやらかしたのかな」
不安そうに某に囁くアーミーは親方が合流したあたりから既に表情は土気色だ。
某は六歳で正規雇用されるという前例のない子供である故に、親方とベルノさんとはかなり頻繁に話す。だからこそ、あまり気にしていなかったのだが、アーミーの不安そうな言葉を聞いて思った。製材所のツートップが、某とアーミーのような役職をもらい立ての者を呼び出すのは、かなり不味いミスをしたのではないか、と。
――まさか、そんなはずは......某、休日を使って、思いついた修行の準備をしたり、貧民街の大通りのど真ん中で踊っていただけで、あ。まさかそれでござるか!???――
「アーミー、考えてはならぬ。ここは全てを忘れてひたすら無になるのでござる」
結果、某も考えてみれば思い当たる節が色々あり、不安になったので、全て忘れて無になることにした。
「ああ、色即是空! 空即是色!」
――嗚呼、般若心境、最高でござる――
「師匠!? どうしちまったんだ! 余計不安になるじゃねぇか」
こうして、悟りを開き始めた某と、最早死人と大差ない死んだ目をしたアーミーを引き連れた親方とベルノさんは、某の入ったことのない区画へと入ってゆく。
案内された部屋の扉には丁寧に閂が二つ付いた、この製材所の中でも類を見ない部屋があった。他の部屋には、一つの閂がついた、関係者以外立ち入り禁止の部屋があるのは知っていたが、二つ閂のある部屋は始めて見た。だが、某には関係ない。もうじきこの世とのしがらみは全て断ち切られるのだ!
「今日はこの中で話します。ここは、親方と私の二人が揃っていないと入ることすら出来ないように作られています。つまり、表向きは、この製材所内の超重要書類の保管庫となっています。ですが、裏向きは――って、アドリューン、アーミー聞いているのですか?」
「ぎゃーてい、ぎゃーてい」
「はーらーぎゃーてい」
「アドリューン、アーミー! 戻ってきてください! はあ、外で説明できなかったとはいえ、確かに私と親方が揃って案内するようなことになればこうなることも予想できたのかもしれませんね。親方、一発ガツンとお願いします」
「ああ、分かった」
その後、二発の打撃音が響き渡った。
「痛いでござる!」
「頭が割れる!?」
どうやら親方に殴られたらしい。もうすぐ悟りが開けそうだったのに邪魔をしてくれるとは。だが、一度戻ってきてしまえば、もう一度無になるには相応の時間を要するのも事実。それに加えて、某の般若心経がうつったのかアーミーも般若心経を唱えていたらしく、某同様に頭を押さえている。
「さて、今日は説教でも、ましてや解雇の話でもありませんから安心してください。一つ聞いておかねばならないことがあるのですが、アドリューンはアーミー以外に誰かに狩りの話をしましたか?」
ベルノさんがそんなことを聞いてきたので正直に答えておくことにする。
「父上と母上だけでござるな。それ以外には誰にも言っていないでござる」
「それなら大丈夫です。メリアとシューラスには既に話を通してありますから」
そう言ってベルノさんは頷くと、親方と二人で扉へと手をかざし、閂を抜いた。
部屋の中は親方とベルノさんがいなければ立ち入り禁止と言うだけあって、少々埃っぽく、大量の木簡が所せましというように置かれていた。そんな部屋の中央に、何も置かれていない四人掛けのテーブルが置かれている。ちなみに、窓の類は無い。
「さあ、中の資料を踏まないように気を付けて入ってくださいね」
某とアーミーが部屋の中に入り、そのあとに続いてベルノさんと親方も部屋に入ると、入り口の扉が閉まった。四人掛けのテーブルがあるとはいえ、四方八方に木簡が積まれ、大柄な親方までいるのだ。正直、部屋としてはかなり狭い気がする。とはいえ、親方が居なくなれば光源がなくなり、真っ暗な物置と化してしまうのは間違いないのでいてもらわねば困るのだが。
「さて、早速ですが、まずはアーミー。今日、アドリューンから聞いたことに関しては秘密にしていただきたいのです」
「へっ!?」
四人が席についたのを確認したベルノさんが切り出したのは先ほどまで某と話していたことを秘密にするということであった。何故秘密にする必要があるのか、そして、そんな理由でこの場に呼び出されたのかという混乱からであろう。アーミーは間の抜けた声を出した。
「秘密にするのは構いませんが、どうしてですか? 嘘が広がるのは良くないことでしょう。師匠の名誉を考えても」
それでも、アーミーは今日のことを隠すのに否定的であった。というか、某の名誉を考えてくれているのは素直に嬉しい。だが、ベルノさんがわざわざこんな部屋に呼び出して話をするくらいだ。何か重要な理由があると見て間違いない。
「いいえ、今回は二人には納得してもらわねばならないのです。今回は私がこの噂を流しました。二人には話を合わせて欲しいと思っているのです。アドリューンを貴族から守る為に――」
某の予感は当たっていた。ベルノさんは貴族から某を護るためという。そう言われれば、事情を聞かないわけにもいかず、アーミーが表情を引き締めたのが分かった。それは某もまた同様であった。
ベルノさん、噂を広める人脈まで...... 今回は一回途中で切りました。というのも、これから昨日の予告部分まで書くとちょっと文字数ががが......
(本音を言うと今日は執筆始めたのが色々あって遅かったせいでこのまま最後まで書くと今日中に投稿できないという)
計画性皆無か! 作者よ! いや、そんなことは無いんだ......だって、世界的な漫画であるワ〇ピースだってそうだろう? 単行本は9話区切りの筈なのに、話の収まりの問題で10話以上掲載することが多々あるじゃないか! ちょこっとオーバーするくらい多めにみてよ~
という作者の嘆きでした。
今日は徹夜して執筆しますので、次の話は明日の朝、出せたらいいなと思っております! では。




