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侍の心得其三十六 やるべきことを怠る者は簡単に食い物にされる

今日から七月。暑すぎて嫌になっちゃいそうですが、今月もどうぞよろしくお願いします。

 某が冒険者カードについて教えてもらった二日後、ベッシュはまた門番の仕事があるとのことで、第一門の詰所へと戻っていった。

 なんでも、某とベルノさんのような少人数で狩りをする者たちがゆっくり休む時間が取れるように門番の仕事が休みの日に荷物番や見張りの仕事を引き受けているんだそう。


 そう聞くと、休みの日も働く超絶ブラック環境のように感じるが、見渡す限り農地なこの地での休日は暇以外の何物でもないんだとか。それに加えて、死ぬ可能性のある、門番の任期中の狩りは当然禁止されているわけで。結果として、見張りを引き受けて冒険者達と談笑している方がお金ももらえるし息抜きにもなるしで一石二鳥なんだそうだ。


 この二日はベッシュさんのおかげで大分落ち着いて休むことが出来た。初めての狩りの影響が残っていないと言えば嘘になるが、夜間の見張りをしなくても良かった分、落ち着いて気持ちを整理できたのは間違いない。


 それにしても――


「ベルノさんはよく知っていたでござるな」


「当然です。冒険者は狩りをする力量も大切ですが、それ以上に、路銀や備えを盗まれないための周到な準備も必要ですから」


 こういう部分がベルノさんに親方が頭が上がらないということなのだろう。とはいえ、某とてただ感心するばかりでは無いのだ。こういう手本は日々参考にさせて貰っている。ベルノさんは侍ではないがこの世界で上手く生きていくための知恵を誰よりも持っているのは間違いないのだから。


 そんなベルノさんに付いて、今日は明日の狩りに行く準備と今日を休みの日と定めて休憩している冒険者達への聞き込みを行うことになっている。

 まずは、少し門から離れて農地で仕事をしている者に声をかけて、トズの実を買う。この辺りは城壁と結界による日当たりの問題でクリュウの木が育たないのだ。これも相場通り二粒で銭貨一枚だ。これをベルノさんは四十粒購入した。


「本当はクリュウの実の方が安く量が摂れて良いんですけどね。流石にクリュウの畑がある場所まで戻るには時間がかかりすぎますから」


 うーむ。某、トズの実は確かに小さいとは思うが、こういう豆はタンパク質からビタミンまでバランスよく摂れる万能食とも言える。確かにエネルギーとして考えるのであれば、小さくて値段も高いトズは向かないが、栄養に関してはクリュウの実よりも遥かに上だと思う。ただ、異世界ではもしかすれば違うのかもしれぬ故、口には出さぬが。


 そうして、袋に入れたトズの実を持って拠点である外壁の近くに戻り、ベルノさんは冒険者へと聞き込みへ向かった。本当は某も行きたかったが、ベルノさんに食料の加工を頼まれれば、嫌とは言えない。そんなわけで、近くに山積みにされているトズの落ち葉を貰って火を起こす。

 ここいらは農地なので、少し探せば簡単に枯れ葉や枯れ枝の類が手に入るのだ。農地の結界の内側にあるものを取るのは犯罪だが、外に出ている分は自由に使える。


「確か、買ったトズやクリュウはそのままにしておくと腐ってしまうから、水分を抜くために、焼くか炒るのであったな」


 道中でベルノさんが話していたことやクリュウの実の焼き芋をしたときのことを思い出しながら作業をする。とはいえ、流石にクリュウの実の時のようにそのまま直接焼くわけにはいかない。そんなわけでベルノさんから受け取った金属製の小鍋の中にトズを投入してゆく。


 本当はここで塩があれば少し嬉しかったでござるが、今の手持ちには無いのでそのまま鍋を火にくべる。トズの中の水分が抜けてぱちぱちとはじける音がする。某は程よく長い木の棒を二本構え、鍋とにらめっこである。ベルノさん曰く、威勢のいいトズは跳ねて鍋から出ていこうとするから、それを叩き落としたり、火の通り具合に偏りが出ないように混ぜるのだそう。


 ――ベルノさんは一本の木と言っていたでござるが、某の前世を舐めるでないぞ。こういった料理で使うのは箸と相場が決まっているのでござる。華麗なる某の箸捌きに刮目するがよいでござる!――


 そんな調子で豆のような見た目のトズと戦った。前世では無理だったが、この世界での成長は時々某を驚かせる。なんせ、突然ポップコーンを作るときのようにトズが跳ねるのに、そのすべてに対応できるのだ。某の動体視力は現時点でプロボクサーレベルくらいはあるのではなかろうか? これが極まればベルノさんのように牛を背負えるように――


 そんなことを考えながら某はトズが焦げ始めるまで炒り、それが終わったらトズを買った時に包んでもらった袋の中にトズの実を戻す。調味料の一つも無いので期待するような味はしないのであろうが、それでも香ばしい香りが某の鼻をくすぐる。


「うむ。初めてにしては良く出来たのではないでござろうか?」


 匂いを嗅ぎながら満足していると後ろから空気の読めない横槍が入る。


「おい。今日は子守りのやつはいないのか?」


「はっはー! こんな子供一人に荷物番を任せるなんて馬鹿だな。なあ、坊ちゃん。命が惜しけりゃ、大人しく荷物と食料を俺たちに渡しな!」


 どうやら、某がずっと一人でいたことで近くに居た冒険者がこれはチャンスと某の荷物を奪いに来たらしい。ベルノさんがいる間は、昼間で某一人が見張りをしていても絶対に襲ってこなかったことを考えると相当慎重なのか、それとも弱いのかのどちらかだが、男たちの様子を見れば後者で間違いないだろう。


 なんせ、男たちのもつ袋は明らかに空であり、武器こそ持ってはいるが、少し体に目を向ければ、鎧すらも着ていないことから、相当切羽詰まっているのは間違いなかった。


「確かに某に力が無ければ荷物を渡すしか無かったでござるが、生憎、お前たちのようなチンピラに負ける気はないでござるよ」


 そう、淡々と言うと目の前の男たちにも多少のプライドがあったらしい。逆上して襲い掛かってきた。


「このガキが!! 言わせておけば」


「はっはー! お前なんか一瞬でちょんぱして身ぐるみはいでおさらばだ!」


 だが、その動きは雑過ぎた。正直、殺す気で動く必要も無いくらいだ。恐らくだが、ここで鎧すら着ずにこんな行動をしている時点で既にこの者たちは身ぐるみを剥がされた後なのだろう。なるほど。ベルノさんが門の内側であっても見張りが必要だと言ったのはこういうことでござったか。


 某は、腰に差していた刀の峰で二人のチンピラ冒険者を打ち据える。


「見えな......痛っ!」


「はっぐあー!」


 某は技を使うまでも無く、二人を制圧すると、あまりにもあっけなく倒された二人を見て呆然とする、某たちの荷物へ手を伸ばそうとしていたこやつらの仲間と見られるもうひとりの男がこちらを見て固まっていた。どうやら、チンピラはチンピラ並みに作戦を立てていたようで、二人で気を引き、その隙に残りの一人が荷物を奪うつもりだったらしい。


「嘘だろう? くそおおおおおおお! なんで俺たちばかりがこんな目に遭わなきゃいけないんだ」


 完全に八つ当たりではあるが、そんな大声を上げて隠れて某たちの荷物を奪おうとしていたチンピラの最後の一人が某へがむしゃらに突進してくる。

 だが、その突進は、バーサークカウにも親方にも及ばない。それどころか、これならまだ製材所の見習い達の方がマシだ。


「余裕があれば助けてやりたいところでござるが、ここは弱者にとことん厳しい世界なのでござる。もしその怒りの矛先を向けるのならば準備不足と情報集めを怠った自分達の浅はかさでござる」


 そう言って、某は刀すら使うことなく、後方で横たわっている二人の方へ少々腕をひねりながら背負い投げを決めた。


「ぐあっ!」


 こうして某はあっさりと三人の奇襲を退けた。それからしばらく後のベルノさんが戻ってくるまでの間、某を襲いに来るものはいなかった。これを機に噂でも広まって某のこの体格で舐められることが無くなれば良いのであろうが流石に倒した者がこの弱さであれば、噂が流れても襲ってくることはあるのであろうな。

 某は、横目で痛みに呻きながら転がる三人の冒険者を睨む。


「おや、アドリューン、お手柄でしたね」


 そんなことを考えていると、良い情報を得られたのかほくほく顔のベルノさんが某へと声をかけてくる。そういえば、こういう者たちの処罰はどうするのであろうか?


「ベルノさん、おかえりでござる。荷物を奪おうとしてきたので懲らしめたのであるが、殺すのは流石に駄目だと思った故、峰打ちで留めておいたでござる」


 正直なことを言えば、人を殺すという覚悟がまだないというのは間違いなくあった。アニマルを殺した時だって吐いたくらいなのだ。人を殺した時にはどんな弊害があるのかさえ分からない。

ベルノさんはそんな某の頭を撫でながら、どこか悲しげな顔で倒れてうめく冒険者を見ながら言う。


「ええ。それでよいでしょう。実力差がありすぎる場合は逆に殺してはならないのです。いくら正当防衛といえど無傷ではあらぬ罪を着せられる可能性もありますから。とはいえ、彼らを門番につきだしても事情聴取に時間を取られて一銭の特にもなりません。ここは、再度襲われないように武器を燃やして彼らを遠くへ捨てておきましょう」


 その後、某とベルノさんは三人の冒険者を気絶させ、彼らの武器を某が先ほどまでトズを炒っていた焚火にくべる。流石に焚火程度の温度ではせいぜい剣身がすこし曲がる程度だそうだが、木で出来ている柄は燃える。それに、焚火が消えた後もしばらくの間は熱された金属の塊を持つことなど出来ず、こうしておくだけで相手をほぼ戦闘不能にできるんだとか。


 こうして、三人の冒険者を処理した某とベルノさんは少し離れた場所に拠点を移し、某の炒ったトズの実を食べた後、日が暮れたので見張りを交代しながら夜を明かした。そう頻繁に来るものではないのか、それとも某が倒した三人の噂が広まったのか、この日、某とベルノさんに襲撃してくるものはいなかった。


 その後の風の噂で聞いた話だが、鎧も武器も無しに第一門の外へ出た三人組が再び第一門に戻ってくることは無かったという。この一件を機に冒険者という職業の厳しさを痛感した。某は今はベルノさんが居るから良いが、確かにこれならベッシュが言った冒険者レベル千に到達できないという話にも納得できる。少しの油断でこのチンピラ冒険者のような状況に追い込まれかねないのだから――。

 思ったより、襲撃する冒険者の話が長くなって二度目の狩りにいけませんでした......

おかしいな? サクッとやって終わりの筈だったんだけど。

 とにかく! 予定通りに進んでいきませんが次こそ二度目の狩りにいきます(これは絶対)。

二度目の狩りに行ったら、再び領地に戻りますので、そのつもりで......


 チンピラ冒険者が何故こんな必死なのか。もう出てくることは恐らく無いですから書きますが、実は彼ら貧民出身で、頑張ってお金を貯めて、冒険者登録をして、装備をそろえた者たちなんです。

 ですが、そんな彼らに冒険者の常識を教えてくれる人はいません。そんなわけで彼らはより上位の心無い冒険者たちに武器以外の身ぐるみを剥がれました。そこで冒険者を諦められれば良かった。だが、もう一度領地に戻っても貧民の労働生活。後は言わなくても分かると思います。

 なるべく世界観に矛盾が出ないように出てくる人物にはたとえ名前を書かずとも背景は考えるようにしています。

 そんなちょっとした話を後書きでこうして書いていければと思ってます。では。

(読まなくても本編には全く影響ありませんから、気が向いた時だけでOKですよ!)

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