侍の心得其三十二 生産区画
昨日は予告通りカラオケ行って、カラオケ行って(←つまりカラオケはしごして)力尽きました。申し訳ありません。
ベルノさんが貴族に気付いたおかげで、なんとかその場を乗り切った某は冒険者ギルドを出て、西門へとやってきていた。遂に、外へ出ると思うとなんだか心躍るものがあった。とはいえ、某の想像していたような、外に出る為に長時間の間、確認待ちの列に並ぶということは無いようだ。
というのも、冒険者カードを持っている者は門を素通り出来るし、持っていない者は泣こうが喚こうがはじかれて決して外に出ることは出来ないからだ。
「これは凄いでござるな。全て自動で選別してくれるとは」
「ええ、ここは第二門であり、この門の先がそのまま外ではないですからね。ここでは、そこまで厳重なチェックは必要としていないのです。ただ、次の第一門はかなり厳重かつ、外の世界での活動内容等の予定を明確に聞かれますから時間がかかることを覚悟しておいてくださいね」
某はベルノさんの答えに首を傾げる。そういえば、あの貴族の受付嬢には聞きそびれてしまったが第一門と言っていた。これは一体どういうことなのかベルノさんに聞いておかねばなるまい。
スムーズに進む第二門を通過する者たちの列に並びながらベルノさんに尋ねる。
「第一門、第二門と当たり前のように皆言っているでござるが、それはどういうものであろうか? もしや、第三、第四というものまであると考えて良いものでござるか?」
ベルノさんは少し驚いたような顔をする。やはり某の質問は非常識なことであったであろうか。だが、そこはベルノさんである。某の顔を見て納得したような優しい顔をして答えてくれる。
「確かに、産まれてから死ぬまで、食料生産と、冒険者にかかわらない貧民ならば門の種類など知らなくて当然でしょうね。平民では常識の範囲内なのですが」
「門の種類でござるか?」
「ええ。アドリューンの言うようにこの領地には第三門まであります。広い領地だと第四、第五門がある場合もありますね。まず、これから私たちの向かう、動物や魔物の住む世界と人の生産区画を隔てる第一門。その第一門には、外の生き物が入ってこないように、城壁に加えて、はるかに高い結界が張られています。そして、今から通るのが第二門、生産区画と居住区画を分ける門です。第一門が突破された場合に防衛するための門です。そして、貴族たちの住む区画にある門が第三門ですね。ここは、この領地の機密を護るため、第一、第二門とは比べ物にならない程強固に作られていると聞いております」
なるほど。東西南北に門があるのは知っていたでござるから、その順に第一、第二と名付けられているのかと思っていたが違うのでござるな。ベルノさんの話から考えれば、ここは第二門西門といった雰囲気なのであろう。
居住区画に居れば当然ではあるが、第何門であるかなど、わざわざ付ける必要が無いでござるからな。
そんな話をしている間に某たちが門をくぐる番がやってくる。ベルノさんが言う通り、確かに門に駐在する門番の数は大きさの割にかなり少ないように映った。
「いでっ!」
目の前に並んでいた、平民と思われる少年が列から逸れるようにはじかれた。どうやら、冒険者カードを持っていないのであろう。とはいえ、弾かれる者は珍しいわけではないのか、特に駐在している門番たちは見向きもしない。しかし、かなり痛そうだ。少し声でも――
「駄目ですよ。アドリューン。彼は自業自得です。それに、列から逸れればもう一度後ろから並び直しですよ」
そう言ってベルノさんに止められてしまえばどうしようもなかった。ここでルールを守らずに痛い思いをした少年に声をかける為に外に行くのを遅らせる程、某はお人よしではないのだ。
少し、心が痛い思いをしながらも、某もああはなりませんようにと願いながら、冒険者カードを懐から取り出し門をくぐる。すると、冒険者カードが淡く発光し、某は先ほどの少年のようにはじかれることなく通り抜けることが出来た。
「おい! なんで、あの子が通れるのに俺は通れないんだ! ずるいぞ。ちくしょう!」
某の後ろでそんな声が聞こえたが、こういうのは気にしたら負けなのだ。とはいえ、少し後ろを向いてみれば、流石に看過できぬと判断されたのか、門番によって少年は担ぎ上げられどこかへ連れていかれてしまった。これから罰金でも徴収されるのであろうか? ご愁傷様である。
ベルノさんも無事に門を通過できたのを確認した後、門から出る。すると、目の前には、ベルノさんが言っていたような生産区画というのが納得できるような、広大な農地が目の前に広がっていた。どのくらい広大かと言えば、その広さは北海道の平野のそれに匹敵するのではないかと思える程だ。
そこには、勝手に侵入されないようにするためではあろうが、薄い赤紫の膜、恐らく結界で一定間隔ごとに正方形で区切られた農地が広がっていた。
ただ、育てられているのは、前世のような野菜の類ではなく、三メートル程の木で、その枝をよく見てみれば、真っ赤な実が生っている。その形を見れば何を育てているかすぐに分かった。某の主食である赤色の丸芋、クリュウの実である。
「こ、これは凄いでござるな」
某は圧倒される。確かに農地はどこかにあると思っていたが、それは農村の類であり、まさか城塞都市に内在するとは思っていなかった。それに加えて、クリュウの実がまさかの木の実だったという真実も重ねて某に衝撃を与えた。
「ええ、私も初めて見た時は感動したものです。さあ、アドリューン。ここから一日歩きますよ。第一門はかなり遠いですから」
へ? 今、ベルノさんなんて言ったでござるか? 確かに門が見えぬとは思ったでござるが――。
「一日でござるか!?」
「ああ、あなたはそのことについても知らないんでしたね...... 伝えることは伝えたと思っていたのですが、あなたといるとどうも忘れてしまいますね。話しているとどうしたって大人に感じてしまいますから」
ぬう。そう言われても......某だって、一応頑張って六歳を演じようとはしているのだ。ただ、六歳を演じるなどと考えている時点で既に六歳ではないのでござるが。とはいえ、一日ということはどこか泊まるところでもあるのであろうか?
「ベルノさん、今は昼を過ぎたところでござるが、これから一日ということは、夜はどこで眠るのでござるか? それに、外に出てからも野宿はあるのでござろうか......?」
「泊まるところなんてありませんよ。基本は野宿ですね。この第一門と第二門の間では荷物番に片方が常に起きているようにします。ただ、今回は第一門の外での野宿はまず無いと思って大丈夫ですよ。日が暮れる前に第一門に戻れる範囲での狩りの予定ですから」
他にもベルノさんに滞在の予定なんかを聞いていく。予定としては、某が野宿と狩りに慣れるまでで、出来れば第一門を出入りする際に徴収される通行税と食料費以上の狩りをしたいとのことであったが、今回は某の安全を最優先に考えてくれるようでたとえマイナスでも問題は無いという。
ちなみに、ベルノさんの仕事は親方と某の父上が穴埋めするので問題は無いという。
「では、アドリューン行きますよ。私のやり方をしっかり見て学んでくださいね。この農地を通り抜けることにも実は結構やることがあるんですよ」
「分かったでござる」
そう言い、某とベルノさんは真っ直ぐに伸びる、終わりの見えない道を歩く。徒歩で一日がかりというのならば、数十キロほどはこの光景が続くことを覚悟しなければならないと心に決める。こういう景色の変わらぬ道を延々と歩き続けるというのは想像以上にキツイものなのだ。
最初のうちは門から出る人々でかなり賑わっていた。だが、一時間、二時間と歩くと次第にその人数は減ってゆく。某とベルノさんは話すことは話したので、あとは黙々と歩くだけだった。時々、ベルノさんが心配して、「大丈夫ですか?」と聞いてくれる。某もすぐに「大丈夫でござる」と返す。毎日木材を運搬するあの作業がここにきて効いてくるとは思わなかった。アレに比べれば、こうやって歩くだけなのは退屈ではあるが、楽なものなのだから。
そんな風にしながら、更に数時間歩き、日が暮れてくる。
そんな時、某たちの行く先から、収穫したクリュウの実であろうか? それを山になるほど積んだ荷車を引く一人の男性がやってくるのが見えた。
その男性にベルノさんが声をかける。
「すみません、クリュウの実を十個ほど売って欲しいのですが」
「クリュウの実を十個だな? 銭貨十枚だ。なんだか、親子連れのようにも見えるが、恰好を見るからに冒険者かい?」
「ええ、この子は小さいですが筋が良いですから、今のうちから狩りを見せておきたいのです」
ベルノさんは親子であることは否定も肯定もせず、銭貨二枚を渡し、クリュウの実を受け取りながらそんな風に答える。中々に賢いやり方である。もしここで馬鹿正直に答えていれば、疑われたり、怪しい奴だと思われて弁明に無駄な時間を取られたりする。
やはり、交渉役として重宝されていたその腕はここでも健在なのであろう。それにしても――。
「食料を事前に買っていなかったのはこういうことなのでござるな」
「ええ。そういうことです。ただ、直接買ったからといって安くなったりはしませんけどね。あなたは賢いですから言っておきますが、値切りもしてはいけませんよ? この領地では農作物の売買価格と納める税金が決まっていますから、破ると、最悪犯罪奴隷になりかねません。とはいえ、こういう道中で売れれば、売り子の分の利益が手元に残るので断られることはまずないんですけどね」
値切りが駄目でござるか。つまり価格設定の自由が無いのでござるな。とはいえ、そうであるなら、この第一門と第二門の間で直売所を作れば儲かるような気がして聞いてみたが、それはベルノさん曰く赤字なのだという。
何故なら、そもそもの問題として、どこで買っても値段が同じならばわざわざ直売所で売っても買いに来る人はいない。それに、こういった場所で食料を買うような真似をするのは、これから外へ行く者だけなのだ。ベルノさんから聞いてみて分かったが、クリュウの実が売り切れず傷んでしまい、利益が出ないのは明らかであった。
結局そのまま夜が来たので、ベルノさんに言われるままに集めた、クリュウの枯れ葉と剪定されたと思われる枝を集めて火をつけ、クリュウの実を投げ入れる。つまり、焼き芋だ。
焚火からは、水分を含んだ枝を燃やしているからか、ぱちぱちとはじける音と、水蒸気と不完全燃焼による大量の煙で、芋が焼ける匂いがすることは無かった。
「外に出れば、こういう料理になるでござるな」
「ええ。ですが、火を起こすのはここが最後です。私とアドリューンでクリュウの焼き芋を五個ずつ。これが外に出てからの私たちの食料です」
結局、そのあと、燃え切ったクリュウの枝葉の中から、前世のようなアルミホイルも無いため、真っ黒こげになった塊を取り出し、それぞれの袋の中に四つずついれて、一つを食べる。ベルノさん曰く、「冒険者はいつ食糧難に陥ってもおかしくないから皮ごと食べなさい」といわれて食べたが、黒焦げの皮はかなり苦かった。それに焚火の火力の調整もしていないので焦げ気味であり、甘いというよりは全体的に苦いという印象しか無い芋だった。ただ、いつも食べているスープとは違う味が少し新鮮であった。
「さて、これから見張りをすることになるわけですが、アドリューンは初めてなので短めにしておきましょう。とはいえ、やることは簡単です。まず――」
その後、ベルノさんの指導を受けた。やり方は、近くに落ちているクリュウの枝葉(出来れば枯れて乾いているもの)を自分たちの泊まる場所を中心に道に広がっていくように並べて置き、誰かが通過したり近づいたりしたら、より大きく足音が聞こえるようにするんだとか。
「しかし、これでは、気を付けて歩けば音が出ぬ場合もあるのではござらんか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。その場合は、枝葉を避けて歩くために緊張して呼吸は乱れますし、枝葉を避ける為に体の動きだって大きくなります。ここには動物はいませんから、人なら、呼吸や衣擦れの音で接近は分かる物なんです。それに、仮にそういった音を隠せる実力者なら戦っても勝てませんよ」
なるほど。そういうものであるか。確かにそれならば理に適っている。そんなわけで某はベルノさんに教えてもらったとおりに眠い目をこすりながら最初に短い時間見張りをし、ベルノさんと交代して休む。それにしても......
――むぅ......地面にそのまま寝転ぶのは流石に痛いでござる。熟睡せぬためとはいえ、確かにこれは慣れねば、いや慣れていてもきついでござるな――
某は、ベルノさんが、外はあまり良いものでは無いと言っていたことを早くも痛感しながらもゆっくりと浅い眠りについていった。次の日、特に何も起こらなかったのは良かったが、寝違えて全身が痛かったのに加えて、六歳のこの体での寝不足が辛いのは語るまでもないだろう。
というわけで、城塞都市の中に農地も内包しています。城塞都市の構造ですが、一番外は農地、その内側に居住区、そして中央が貴族街という風になっています。農地では、クリュウの実とトズの実と、少量ながら果物の栽培、そして、林業が行われています。今回は西門から出ましたので、クリュウの実と、アドリューンがもう少し進めば、豆のようなトズの実を栽培している光景が広がっています。ちなみにですが、戦いの心得の無い住人が狩りに行くのには結構重要な理由があるんですよね。まだもうしばらく出しませんけど......
というわけで、設定を少しゲロったところで、今日はここまでにしておきましょう。次回はようやく本物の外をアドリューンに見せてやれるかなと思っております。では。




