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侍の心得其二十二 シーカスとアドリューン

 親方の声と共に広場の中央へと移動してゆく。手には木刀。今日という日を目指してアーミーと共に秘密の特訓をしてきた成果を試す大一番という、張り詰めた緊張感の中で作ったものとしては最高の出来だと自負している。


 そんな木刀を握りしめ、広場の中央へと歩いてゆく。相変わらず、親方の頭は今日も絶好調である。というか、いつも以上に光り輝いていて戦いに水を差さないかと心配になるのだが、そこは親方もわきまえており、戦いの際は全く気にならないのだ。観戦する時は、時々目が眩みそうになるのだが。


 そうして、某はシーカスと対峙する。シーカスの持つ武器は相も変わらず、見た目としては何が他と違うのか分からない木剣。だが、シーカスはこの剣一本で勝ち続けて来た。某には分からないが、シーカスの作る武器が折れるのを見たことが無いし、木剣の動きから、間違いなく某には見抜けぬ加工技術を完成させているのが分かる。最近は苦戦すらせずに勝ち切る、名実ともに見習い最強である。そんなシーカスが某に話しかけてきた。


「アドリューン。君のことは初めて会った時から普通じゃないとは思っていた。まともに歩けもしない体で親方を転がし、史上最年少で見習いになった。そうして、【飛脚】に鍛えられ、半年後、ベルノさんを疲弊させ、新人ながら、このトーナメントでいきなり勝った時は肝が冷えたよ。やばい奴が来やがったてな」


 シーカスの独白のような問いかけに少し失いかけていた自信が戻ってくる気がする。そういえば、某、一度親方に勝っているのであったな。


「たまたまでござるよ。親方も、ベルノさんも、某の意図に上手くハマってくれたから勝てただけでござるし、あの一回戦も特別に父上が木刀を作っておいてくれたから出来たことでござる」


「それでもだ。俺は親方と君が戦った試合を見ていない。見習いは基本的に木材運搬をしていて打ち上げトーナメントの時以外製材所内に入ることは無いからね。あの日、一番軽い木材を運ぶだけでへばっていた五歳の子供が目で追えない、武器をどうこうした程度ではとても敵わない何かをしたとき、心に火が点いたんだ。俺はどうしてここで見習いに勝てる程度の武器を作って喜んでいたんだってな」


 シーカスの独白はその後も続いた。某とアーミーが組んだ話、今まで余裕だったのに、新しい武器を使うようになったアーミーの存在で自分の技術が更に上がった話、次はどんな手で来るのかと楽しみで眠れなかった話――。


 某としては途中から恥ずかしくなって止めたくなっていたが、こういう時だけ介入してくる審判の眼圧......つまり、見習いの最後くらい語りたいことを語らせてやろうという、親方のはた迷惑な粋なはからいによって真剣に聞いているようでいて、真顔で悶えさせられるというわけも分からぬ羞恥プレイをさせられていた。ここまでシーカスが雄弁家だったとは。試合前にダメージを受けることは想定していないでござる!


 だが、そんな話も唐突に終わりを迎える。


「さて、アーミーが見たことも無い武器を持っているね。ということは、今日まで隠していた奥の手ってことかな? つまり、アドリューン、君も何か魅せてくれるんだろう? ごめんね。感極まって語りすぎちゃった。始めようか」


「うむ。アーミーには悪いでござるが、某、モブはごめんでござるからな! ここでシーカスを倒して、一回戦負けのまま職人にしてやるでござる!」


 某とシーカスが真剣そのものと言った表情で対峙したのを確認した親方は声を張り上げて叫ぶ。


「では、始め!!」


 それを皮切りにシーカスが某に向かって突っ込んでくる。某もまた木刀で応戦する。だが、今日の某は一味違うのでござる。いつもであれば、シーカスに一合目で撃ち負けてそのまま負けるのが常であったが今日は、違う。

 某だってこの半年間寝ていたわけではない。きっちり木材運搬も、木材加工の特訓だってしたのだ。そんなわけで、少し疲れるが、アドリューン式を打てるようになっていた。


「アドリューン式 迎刀術 崩転」


「っ!!?」


 某は、親方に使った時の如く剣に刀を滑らせ、シーカスを弾き飛ばす。当のシーカスはまだ見たことのない技である。驚きでくぐもった声を出しながら回転し、勢いそのままに後方へ転がってゆく。ここで、手を抜くわけにはいかぬというもの。親方の時は体力が無かったが、今の某には追撃する力がある。一気に反転し、攻勢に転ずる。


「逃がすものか!」


 だが、勝ち続けているシーカスの実力も本物であり、転がりつつも受け身を取って地面に片膝を付きながらも起き上がる。ここで剣を落としていないのは流石というほかない。ここが、シーカスと他の見習いとの大きな差なのである。


 カーン!


 某の走りながらの一撃は膝をついたシーカスに見事に受け止められる

 くうう、軽い。今この時ばかりは、某の体の軽さを、小ささを恨むしかない。


「ふうう、危なかった。何をされたか分からなかったけど、アドリューンがまだ幼くて助かった。君があと三歳年を取っていたら、剣を飛ばされて負けていたよ!」


 そう言うや否や、今度はシーカスが攻勢に転じる。シーカスの剣は、この半年でかなり上達していた。半年前は基礎の基礎といった感じであったが、某とアーミーの様々なタイプの武器と戦ったおかげで剣に幅が出来ているのだ。ただ、真っ直ぐ斬りかかってくるだけではない。ところどころでわざと大振りしてつり出しにきたり、一振りごとに細かく剣の軌道を変えてくるせいで、こちらに対応の余地を与えない。これが進化したシーカスの必勝パターンである。


 とはいえ、某も対策を練っていないわけではないのだ。ミシミシと、シーカスの剣を受ける刀が悲鳴を上げる。某の刀が壊れるタイムリミットは刻一刻と近づいてくる。


 ――ぬぅ! シーカス、はやく全力の一撃を。今の勢いでも使えぬことは無いでござるが、奥の手を確実な一手にするためにはまだ威力が足りぬでござる......!――


 そう考えている間も、何かを察したかのように、シーカスの剣は決して決めには来ないがかといって、某の反撃を許さない。そんな絶妙なラインを保っていた。


 ミシッ......!


 原型こそまだ保っているが、某の刀のどこかに亀裂が走った音がした。そろそろ頃合いであろう。もう、ここまで来ればこの一撃に賭けるしかないでござるな。

 アドリューン式 迎刀術。これは、崩転で、銃弾を受け流し、倒転で受け止める。そのために生み出したものでござる。


 ただし、これは、二幕ではない。三幕構成なのだ。その三幕目は、銃弾を打(・)ち(・)返(・)す(・)つまり、相手の技を反射する為の技。


「そろそろ、某の刀が限界でござる故に、最後の技をお見せするでござる!」


「それは困るね、そろそろ武器を壊して勝たせてもらう!」


 某の言葉に反応し、シーカスがよりキレを増した一撃を放ってくる。確かにこの一撃に限界を迎えた木刀は耐えられないであろう。


 だが、某はこの瞬間を待っていたのでござる......!!


「アドリューン式 迎刀術 反転」



 ............



「......勝者、シーカス!」


 静まり返った会場の中に、親方の声が響き渡る。某は、半ばでポッキリと折れてしまった木刀を右手に持ったまま地面に倒れ伏し、某の首にシーカスは剣を突き付けていた。


 ――ああ、某は結局モブの道を脱せなかったでござるな――


 親方の声と、折れてしまった刀が残酷に某の脳裏に敗北の二文字を焼き付ける。勝ちたかった。それが、某の本音であった。悔しさに某の頬には自然と涙が伝っていた。数分とも数秒ともとれる時間の後、ひょいっと体が浮くのを感じた。某を持ち上げたのは動かない某に業を煮やした親方かと思ったが、眩しくはない。というか、腕の太さからして全く違った故にすぐに別の誰かに持ち上げられたのだと分かった。一体誰が......


「アドリューン、良い戦いだったな。思わず、シーカスに勝っちまうのかと思ってこっちはヒヤヒヤだったよ」


 某が持ち上げた相手を確認するよりも早く声で誰か分かった。アーミーである。背負われた某の視界に入ってきたのは木製のハルバードであった。くう、これでは、某、完全に主人公の引き立て役ポジションではないか! 


「アーミーが戦うよりも前に某がシーカスを仕留めるつもりだったで......ご......ざ――」


 悔しさからかそれとも某がまだ六歳であるからか......流れ出る涙のせいで上手く言葉が話せない。ただ、そんな某の滴る涙を一身に受けたアーミーは言う。


「アドリューンの意志は俺が、継ぐ。この半年の日々。全てをこのハルバードに乗せてシーカスを討つ!!!」


「......任せたでござる。某の弟子であるからには必ず、必ず勝ってくるでござるよ!」


 某はそれだけアーミーに伝えるとそのまま、アーミーの背中でとめどない涙と共に声を上げて泣いた。それは、そこらの六歳児が泣くのと同じように。ただ、それをあやそうとするもの、ましてやそれに水をさそうとするものは居なかった。これが、某がこの異世界に来て初めてまともに味わった敗北であった。前世で練り上げた技を使っての敗北。


 真の侍への道は千里を歩むよりなお遠く、故にこそ某の心を熱く滾らせる。


 某は、涙と共に今のままでは何もかもが足りないことを悟った。肉体も、技も、刀への理解も......

 これから、更に強くなるためにやらなければならないことは山積みであるが、それよりもまず、やらねばならぬことがある。それは、弟子の戦いを見届けること。某は負けたが、アーミーはまだこれからなのである。某がシーカスを幾分か削ったのでござる。これは勝ってもらわねば困るというものであるな。


 そうして、アーミーによって広場の外縁まで運ばれた後、再びトーナメントは再開された。シーカスとアーミーは順当に勝ちあがり、決勝戦、シーカスとアーミーの最後の戦いが――始まる。





というわけで、アドリューンは負けてしまいました......

ただ、シーカスの言うように、六歳としては異常なんですけどねぇ。そもそもシーカスと互角に戦えているというのがまた(汗

次回は、観戦側のアドリューン視点でも良いのですが、アーミー視点で決勝戦の模様をお届けしたいと思っております! お楽しみにしていただけると嬉しいです。

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