侍の心得其二十一 残念絵師
一つ、剣と言っても、様々な種類があるのは良く知られている話だ。剣を、長い剣身を持つ武器と定義するのであれば、某がぱっと浮かぶものだけでも十を超える。それは、儀礼用の戦闘には向かないであろうレイピアから、かなりの長さと大きさを誇る両手持ちの大剣クレイモア、突きを主体とする剣エストック、某の愛用する......今、手元には無いが、刀だって広い心で見れば剣である。要は刀身の形にまで拘れば、アーミーは更なる躍進を遂げられる可能性があるというわけである。
「そんなわけで、アーミーが扱いやすいような刀身の形をこれから一緒に考えるでござる」
「なるほどな。刀身の形か。全く、アドリューンには毎度驚かされるな。だか、刀身の形を変えて、これまで通り振れるのか?」
アーミーが納得したような不思議がるような顔をして言う。だが、その点は心配しないで欲しいというもの。これまで、見習いとしてずっと打ち上げトーナメントで剣を振り続け、かつ、この五ヶ月で某と共に訓練した。それを考えれば――
「うむ。アーミーがきっちり自分が振れるように作れば振れるのでござる! まさか、職人を目指そうと思っている者が造形も出来ぬとはいわぬでござろう?」
某の言葉に反応して、アーミーがにやりと笑う。これは良くないタイプの笑みでござるな......
「お、おお、言うじゃねぇか。そこまで言うなら、その刀身の形とやらを書いてくれよ。残念絵師さんよ!」
――な、言うではないか! 先に断っておくが某、断じて残念絵師などではないでござる――
某の予感が的中したようだ。最初のうちは煽れば、そのままアーミーが素直に受け止めてくれるので、助かっていたでござるが、最近は某の言葉を受け止めつつ返す刀で反撃まで返ってくるようになった。解せぬ。
「そこまでいうなら、見せてやるでござる! 某だってここ五ヶ月、ただただ、絵を書いていたわけではない! 今日、この場で残念絵師の汚名を返上してみせるござる!」
「そこまで言うなら見せてもらおうじゃないか。アドリューン」
いつの間にか立場が逆転してしまった。某もまた、売り言葉に買い言葉といった風に返事をしたが、まさか五ヶ月ぽっちで上達するほど絵の世界は甘くはない。それを言えば、戦い方だってそうだ。であるが、戦い方に関しては前世での積み上げがあり、それを元に叩き込んだアーミーはメキメキと成長した。だが、某に絵を教える者はおらず、絵に関しての経験値で言えば、ささやかな図工と美術程度のものである。つまりは――言わずとも分かるであろう。
この逆転してしまった立場を取り戻すには、某の慎ましき、全、『美的センス』を結集した程度では到底足りぬ! 某が今から描くはハルバード! 薙刀を扱い、槍を使いこなしたアーミーであるならば、この、斧と槍が合わさった、斬両用武器であっても使いこなせるはずでござる!!
某は、木片を手に、地面にハルバードの絵を描いてゆく。まずは、斧の部分であろう! ふんふんふん! よおおおし! この湾曲部分は鋭く! ああ、少し曲がったでござる! ええい! ままよ!
ん? そういえば、ハルバードのつなぎ目はどんな具合であっただろうか? 刃の位置であったか、それとも、柄の先の方であったであろうか?
......迷った時は勢い任せこそが真髄! これで斧は良いでござるな! あとは、槍の部分でござるな。これは前書いたのと同様でよかろう。
「......よし! でき――」
「ん? なんだ。描けたのか。残念絵師さんよ...... ん? なんだこれ? こんな武器振れるのか? そもそもこれじゃ、手で持ったら刺さらねぇか? それに、その申し訳程度についた槍の先っちょはなんだ?」
ぐぬう......上手く描けた筈であるのに! やはり、某の美的センスは集めても木っ端でしか無かったでござる。確かに、某しかハルバードのは知らぬはずである。だからこそ、このハルバードもどきをハルバードとして、アーミーにでっち上げの使い方を述べるのは簡単である。そうすれば某はいつの間にかあだ名として定着してしまった残念絵師の汚名も返上できるし、立場逆転して失われた師匠としての威厳も取り戻せる!
「アーミー、どうやら、某に美的センスは無かったようでござる。これはハルバードを目指して書いた武器で、実際には、斧と槍が合体した武器でござる。このような不格好な、それこそ、振れば手に刃が刺さるような構造はしていないのでござる」
某は白状した。内心、少し泣きそうである。あれだけ張り切って書き始めたというのに、結果は、意地になって書いた斧の部分がとんでもなく大きく、そのあと、冷静になって付け足した槍の部分がおまけ程度のハルバードだった。偽ることも出来たが、ここまできてアーミーをだますのは、侍云々以前に某の良心が許さなかった。
某はアーミーに何を言われても仕方ないとグッと手を握りしめた。
「......悪かったよ。お前と一緒に居ると、ついつい、年齢を忘れちまうんだ。まるで、声変わりしなかった気のいい先輩と話してるみたいでな。ついついからかっちまった。よく考えればアドリューンはまだ六歳だもんな。平民である俺より色んなことを知ってる先祖返り? だとしても、まだ六歳だもんな。で、実際にはどういう武器なんだ?」
だが、アーミーが某をこれ以上馬鹿にすることは無かった。それどころか、謝ってきた。某から煽り始めて、しっぺ返し食らって勝手に自滅したのは某の方だというのに。だが、謝られたのならばこれ以上しょげているわけにもいかぬというもの。某は仮にも師匠である! これ以上心配させては師匠としてのメンツが立たぬというもの!
「うむ。ここでは木を切る為の道具である斧であるが、それは、武器として活用することも出来るのでござる。アーミーは、剣より、槍や薙刀といった、長柄の武器の方が扱いが上手いのでござる。ただ、アーミーは槍ならば突きから次の突きに移るまでの間、薙刀であれば、相手へ斬りかかった後の立て直しの時間。ここを突かれた時に弱いと感じたのでござる」
某の指摘に、アーミーは頷く。
「確かにな。そう言われてみれば思い当たる節はある。槍であれ、薙刀であれ、シーカスやアドリューンと対峙して負ける時は、いつも、渾身の一撃を躱されるもしくは捌かれて距離を詰められた後だったな」
「そこで、このハルバードでござる。これは、端的に言えば、槍と斧を融合させた武器でござる。槍や薙刀より確実に刀身部分が重くなるゆえに、取り回しの速度としては落ちるかもしれぬでござるが、突きからノータイムで斬撃へ移れるのはかなり大きな利点があるとは思わぬでござるか?」
アーミーは某の描いたハルバードを見ながら顎をさすっている。これは頭の中でどうやって作るかを考えている時の顔であるとこの五ヶ月の修行の間で某は知っている。とはいえ、この微妙な静寂は某のこんな微妙な絵で伝わるであろうかと心配になる
「なるほどな。これが、斧で、ここが槍ってわけか。片側にしか斧を付けないのは何故だ?」
良かった。某の意図は無事にアーミーに伝わっているらしい。ならば、某はあとはアーミーの質問に答えていくのみである。
「いや、それは特に決まりはないでござる。アーミーが振れるのであれば、両側に付けても良いでござる。重くてキレが落ちるとおもうでござるが、試さぬことには分らぬでござるな。両側に斧をつけたものと、片側に斧をつけたものの両方を試してみればよいのではないか?」
「なら、それでいくか。重くなると言ったな? 攻撃を受けることを考えてここを――」
そんな風に某とアーミーは話し合い、休日の度に改良し、そして、一ヶ月が経った。今日は遂にシーカスの見習い最終日である。ちなみに、今日まで、シーカスにハルバードは見せていない。某とアーミーはこの日にシーカスを破ることを決め、ずっと隠れて特訓してきたのだ。
「ついに来たな」
「うむ。ついに来たでござる」
某は、まだまだ、父上には及ばぬが、かなり出来が良くなった木刀。どのくらいかと言われれば、アドリューン式という繊細な技を使えるほどに空気抵抗を軽減出来るわけではないが、問題なく見た目は木刀として通用するレベルである。
アーミーは、ハルバード。そうハルバードである。某の描いた絵からは想像できぬほどに良くできたハルバードだった。ちなみに、槍の両側に斧を取り付けるのは、結局ボツ案となった。理由は、取り回しを考えずとも斬撃を打てるのは楽だが、やはり、どうしても重くなってしまい折角の利点を潰してしまっているからということだった。
その後、某とアーミーが言葉を交わすことは無かった。ここからは敵同士であるのだから。ちなみにであるが、シーカスは、某とアーミーが秘密特訓を始めてからも全勝である。というか、某とアーミーが、様々な武器でシーカスに挑み続けたおかげで、シーカスもまた技量が上がってしまい、半年前とは天と地ほどに強さが変わっている。一時は四分まで槍で粘ったアーミーも、今では二分と戦えない。
――とはいえ、某がアーミーと当たろうが、シーカスと当たろうがどちらも倒すつもりでいくでござる!――
ちなみに、某はアーミーとシーカス以外であれば、初戦なら全勝できるくらいにはなっている。アーミーも初戦であれば五分だ。ただ、二回戦ともなれば、話が変わってくる。半年程度ではやはり加工技術に差があるのか、体格差をカバーすることが出来ないのか、木刀が壊れてしまうのだ。こればかりは、某が努力を重ねるしかないことではあるのであろう。
そんなことを考えているうちに、広場の真ん中へ、ベルノさんが、トーナメントの書かれた木の板を持ってくる。だが、某はそのトーナメント表に思わず驚いてしまった。こんなことがあって良いのでござろうか......
――まさか、某、一回戦からシーカスでござるか!? アーミーは逆ブロックではないか! ぬう。このポジションはどう考えても......某、噛ませ犬系モブではござらんか?――
いや、勝てばよいのだ勝てば。アーミーには申し訳ないが、某がここで、シーカスを倒して、アーミーの面目を潰すのだ!!
「今日は、皆も既に知っていると思うが、シーカスの見習い最終日だ! 今日こそシーカスに土を付けられるように頑張るがいい! そして、シーカス。勝って職人になれ。お前のことだから大丈夫だろうが、全力で相手してやるんだ! 第一、二試合の対戦カードはアドリューン対シーカス、テッド対モードだ。前へ」
こうして、某とアーミーの半年間の特訓の集大成となる打ち上げトーナメントが今、始まる......!
作「~アドリューンのモブ化進行中~」
アド「それはあんまりではござらんか?! 某、六歳では頑張っている方だと思うでござる!」
作「そうは言ってもなあ。シーカスに勝てたらちょっとは主人公っぽくなるんじゃない? 師匠としてはどうかと思うけど」
アド「ぐぬぬぬぬ、お主、さては作者と言う名の皮を被った悪魔でござるな!」
作「......ま、頑張れ(逃走)」
アド「ぬああああああ! 逃げるとは卑怯でござる!」
というわけで、逃げてきた作者です。気付いている方もおられるとは思いますが、あらすじから ~予定~部分を削除しました。というのも、当初考えていたプロットからかなり変わってきてるんですよね。これからどういう方向に変わっていくか作者自身も分かっておりませんが、これからもヨロシクね。




