侍の心得其二十 攻略への筋道
某にとって、戦いの歴史とは間合いの歴史であると思っている。太古では投擲。それが弓になり、銃が生み出され、戦いの戦場が海をまたいだ時、航空兵器や、ミサイル兵器へと発展していった。
それもそうであろう。武器には攻撃が命中する間合いがあり、その距離が長ければ長い程、間合いを詰められるまでの間一方的に攻撃できるのだから。ましてや、間合いを詰める手段が無い場所から攻撃できるとしたら...... それが前世だった。
どうしてこんな話をするのか? それは、今、某がアーミーに間合いの有用性について説いているからに他ならない。
「アーミー。間合いとは最強の武器なのでござる。多少取り回しに難があろうとも、剣より遠い位置から攻撃できるアドバンテージは馬鹿にはできぬでござる」
「そうは言ってもだな、アドリューン。アドリューンの言う武器は皆、弱い部分が多すぎやしないか?少しでも受け方をミスしたらすぐに折れるだろう? これじゃあ。膂力のある敵なら、たとえ受け方が完璧でも折れるだろう?」
この世界は木材が悪いのかそれとも、それを振う人の力が強すぎるのか、もしくは別の要素が関係しているのか。模擬戦をしていれば分かるが、すぐに武器を折られる。
あれから、毎日、某はアーミーに木剣の作り方をレクチャーしてもらい、初めてベルノさんに自分の武器は自分で作れと言われた時よりは大幅にマシになってはいるが、相変わらず一回戦は突破できていない。全て武器を折られて負けている。
「確かにアーミーの言う通りでござる。であるが、某の持論に弱点の無い技や武器は弱いというものがあるでござる。弱点が出来るからこそ強みが生まれるのでござる。例えばこの槍という武器の場合、間合いは剣よりかなり長いゆえ、間合いにさえ気をつければ、剣に負けることは無いでござる。内側に入られれば、ほぼなす術が無くなるでござるが」
ここは製材所である。今日は週に一度の休日。休日のはずであるのだが、某とアーミーは製材所に集まって武器づくりについて語り合っていた。休日出勤である。前世基準で言えば休日なしの超ブラック企業である。
そうは言えども、普段は木材運びの労働と、打ち上げトーナメントのおかげで、アーミーと某がまともにシーカス対策が出来るのはトーナメントでお互いが負けてから打ち上げトーナメントが終わるまでのごくわずかな時間しか無かった。それでは全く時間が足りない。
結果としてこうして休日に製材所に来ているというわけである。某も驚くところではあるのだが、あの、信号機のような門は登録されている者なら夜間以外、いつでも出入りできるという。ただ、親方の許可なく何かを持ちだそうとしたら酷い目に遭うとか。
「仕方ねぇ。作ってみるか。まずはこの槍ってやつからだ。しかし、アドリューンがシューラスさんの息子だったとはな。おかげで助かった。誰か職人が見てくれていないと加工道具が使えなかったから」
「まあ、他でもない俺の息子の頼みだからな。父親として応えてやるってのが筋ってもんだろう? 木材加工の練習をするから付き合って欲しいって言われたら断れねぇよ。まさかアーミーとグルになってシーカスを負かそうとしてたなんてちょっと驚いたけどな。最近トーナメントの後にコソコソやっているとは思ったがそういうことだったか」
「父上、これは秘密の特訓でござる。決して誰にも喋ってはいけないでござるよ。例え母上であっても」
某は父上に向かって言う。父上は「分かった。分かった」と笑って言うが返事がいい加減である。これは絶対守る気がないやつである。少し賄賂が必要であるかもしれぬな。父親に賄賂とは如何なものかとは思うでござるが――。
某はそんなことを考えながら一人で木剣をせっせと作っている。木刀にもチャレンジしたのだが、アーミーが某の求めるものが作れず、教えてもらえなかったのだ。某の求める木刀は職人レベルのクオリティが必要らしい。そんなわけで、某は諦めて木剣を作り、少しでも早く腕を上げて木刀を作れるよう苦心中というわけでござる。
そうして、午前中は某はひたすら木剣制作に費やし、アーミーは某の提案した武器のうち、槍の開発に精を出していた。ちなみに、父上は某たちに技術的なことを教えてくれることは無かった。見習いに職人が直接技術を教えるのは禁止されているのだそう。例えそれが実の息子であったとしても......
結局、某は十本の不格好な木剣を作り上げ、アーミーは三本ほど、某の地面に描いたイラストを元に長さや部分部分の形が違う槍を完成させていた。
これから、某とアーミーで模擬戦をするというわけである。ここでは、特にお金がかかっているわけではないから、熱くなることは無いということで、父上にはもう大丈夫と伝えたのだが、「アーミーが作った武器が気になるということで結局観戦するらしい。
「アドリューン、作ってみたはいいがこれはどうやって使うんだ? 刃の部分も短いから、かなり使いにくい気がするんだが」
アーミーは制作した中で二番目に長い槍......百七十センチほどある、アーミーと同程度の長さの槍を持っている。
「うむ。某も達人という程詳しいわけではないでござるが、槍は、突きを基本として戦う武器なのでござる。それに加えて、持ち手となる柄の部分が長いことから、それを利用して多少であれば間合いを調整することも出来る武器でござる」
そう言うと、某もアーミーと同様に槍を手に取る。といっても、某は一番短い槍である。アーミーに某が見本を見せる為にわざわざ一本作ってもらったのだ。といっても、アーミーの中で弱点という考え方が抜けていなかったのであろう。持ち手となる柄の部分がかなり太くなっている。確かに太ければ折れにくくなるというのは間違いないが、その分重くなっていくのも事実であり間合いの維持が難しくなってしまうのであるが、これは慣れていって改良してもらうしか無いであろう。
「まずは、これが突きでござる――」
そんなわけで某は、アーミーに基本動作を教えていった。どうして基本動作を知っているかって? 某、対峙する可能性のある敵の研究は怠ったことが無いのでござる故に。とはいっても実際に戦うことは無かったでござるが。
その後も、某とアーミーはひたすら槍を振り続けた。お互い不慣れなこともあってか、アーミーは勿論、某もまた槍を取りまわすたびに地面に擦ったりぶつけて手が痺れたりしていたが、日が沈むころには何とか形になっていた。ぐぬぬ、これはこれで特訓感があって良いでござるが、槍術スキルが欲しいでござる!
とまあ、そんな風にごねても槍術スキルは降ってこないので某とアーミーは少し知識がある分某が上だったが、父上が腹を抱えて笑いながらこちらを見ていた辺り、どちらも似たり寄ったりということだったのだろう。これで本当に大丈夫なのであろうか......?
その後、某とアーミーは休日で試作と訓練。それから打ち上げトーナメントで試作武器の試運転を繰り返し続けた。某は別に木剣でも良かったのであるが、加工技術を教えてもらうだけ教えてもらって、対価である筈のアーミーへの指南が適当では某の信条のうち『仁』に反すると。
そんなわけで、某も、最初に作った槍、制作難易度が高すぎて心が折れそうになった薙刀、某に合う長さと太さを見つけるのにかなり苦心した棍、そして、これらを作っているうちに父上に及ばぬまでも作れるようになった刀......といった風に様々な武器を作っては試し、アーミーと改善点を話し合い、戦いの中で発見した動きを共有し、模擬戦を行う。
そんな日々を繰り返すうちに五ヶ月という時間が経っていた。こうしてアーミーと組んで新しい武器の制作と研鑽を始めた頃はかなり暑かったのを思えばかなり暑さはマシに......なっていないのだ。アーミー曰く、ここは前世でいう夏の時期がかなり長いんだそうだ。しかも季節の変遷も四季がありそうだとか思っていた某の予想とは全く違った。なんと、年単位で気候が移り変わるんだとか。ちなみに、その話から予測すると、某が転生した時は春のような気候の終わり際だったらしい。
「いやあ、しかし、アドリューンが提案してきた武器はどれもこれも使えるかどうかよく分からなかったし、教える側のはずのアドリューンもまともに使えてなかったのは少し心配だったが、そこで否定せずに頑張って良かったよ。今じゃ、取り回しさえ間違えなければ、シーカス以外に負けることは無くなったしな」
確かにアーミーは凄い。シーカスに勝つという明確な目標と、半年という期限がここまで人を成長させるとは某でも予想していなかった。最近では、某とアドリューンの使う武器の有用性に気付いた他の見習い達が真似をして似たような武器を作ってくることもあるが、そこは某とアーミーに一日の長があるというもの。剣以外の武器を使う者たちは初期の某たちのように勝手に自滅してくれる。
「うむ! 師として鼻が高いでござる!」
その瞬間、頭からスパーンという音と共に軽い痛みが奔る。
「馬鹿野郎! 何が『師として鼻が高い』だ! 結局、武器の制作は全部俺が指導したし、提案した武器の取り回しだってまともに出来てなかったじゃないか」
「痛いでござるよ~ それでも某がいなきゃ、ここまでシーカスを追い詰めることも出来なかったであろう? つまり某は師同然なのでござる!」
そんな言い合いをするくらいには某はアーミーと打ち解けていた。シーカスを追い詰めたというのは、もう少しで引き分け勝利に持ち込める段階までアーミーがたどり着いたのだ。アーミーは平民である故に、貧民であるシーカスは引き分けになれば負けとなる。結果だけ言えば、シーカス相手に四分、アーミーが粘ったのだ。武器は槍だった。
「だが、ここまで来たら引き分け勝利を狙うより、勝ちたいよな。だが、あと一歩のところで詰められちまう。アドリューン、お前は俺の『師』なんだろう? 何かいい案は無いのか?」
ぐう、こういう時だけ師という言葉を使うとは。なんだか上手く使われている様で解せぬ。とはいえ、向こうはそんな某の表情を楽しんでいる様でいて目は真剣そのものであった。そんな目をされれば某も応えたくなるというもの。
これまでの五ヶ月で、基本的な戦い方は出来るようになった。
武器の長さも、ここまでの五ヶ月でほぼベストに近いものになった。ならば、後、いじれるものがあるとすれば――
「アーミー、某に考えがあるでござる。ただ、ここから先は某でも未知ゆえに、上手くいかねば一ヶ月で弱体化してしまうやもしれぬでござる。それに、ここからやることは見習いレベルの加工ではなくなるがそれでも大丈夫でござるか?」
そんな某の問いにアーミーは半ば反射的に頷きながら返事をしていた。
「ああ。問題ない。それに、弱点を負うことで強くなるって言ったのは誰だ? アドリューンに賭けた時点で失敗することは俺の勘定には入ってねぇんだ」
某はその答えに自然と笑っていた。これが弟子を育てる喜びというものであろうか? アーミーは確実に某の色に染まりつつあるらしい。
――はっ! こんなことばかり考えているから某、かなり年上とか言われるのではあるまいな!? 気を付けねば――
アドリューンよりアーミーの方が主人公してる疑惑......?




