侍の心得其十九 シーカス攻略会議
攻略対象:シーカス(貧民)
技量:普通
体力:かなり多い
木材加工技術:見習いの中では最優
備考:
・三ヶ月間一度も打ち上げトーナメントで負けていない。
・使用する武器は木剣。
・戦い方は一度作った有利を手離さない。堅実な戦いをするタイプ。
・消耗戦を耐えきる体力がある。
・あと半年で木工職人になることが内定している。
・性格は気さくで、物おじしない。
・勝ち続けていることで得た揺るがぬ自信を全身に纏っている。
アドリューン(貧民)
技量:未知数
体力:見習い中最弱
木材加工技術:見習い中最弱
備考:
・親方に土をつけた。
・数々の技で不利を埋めている。
・背がかなり低いため攻撃しにくい。
・先祖返り。
・様々な技と知識を持つ。
・木刀を使いたいが、現状は棍棒にもなれないなまくら武器を使う
アーミー(平民)
技量:普通
体力:かなり多い
木材加工技術:そこそこ
備考:
・覚醒するまでのシーカスと同程度の実力。
・シーカスが覚醒する前は何度か打ち上げトーナメントの優勝経験がある。
・シーカスと同期。
・文字が一通り書ける。
・シーカスとの戦いで武器の性能差が覆せず限界を感じている。
・使用武器は木剣。
「こんなところでござろうか」
某とアーミーは製材所の中のトーナメント開始前に木材を加工するのに使った加工部屋へと来て、木くずと土の混じった地面にそこら中に落ちている木の端くれを筆代わりにして攻略対象としてのシーカスと、某とアーミーの現状についての情報を書き込んでいた。と言っても、某は当然異世界の文字など書けぬので、某が、アーミーに指示を出し、それを床に書いてもらっている。当然ではあるが、アーミーにも分かっていることがあれば情報を補足してもらった。
「言われた通りにしてみたが、これをして何の意味があるんだ? アドリューン」
アーミーはいぶかしげに某を見つめている。ふむ。きっとアーミーにとっては分かりきったことをどうして態々ということであろう。
「うむ。まずはシーカスという某たちが攻略すべき敵の情報の共有でござる。こうして書き出せば、シーカスの対策が立てられるであろう?」
「なるほど。だが、それなら俺たちのことまで書く必要はあったのか?」
「勿論でござる。某たちの現状を書き出せば、シーカス相手に何が足りていないのか。シーカスの弱点は何か、そして、戦い方の戦略を練ることが出来るのでござる」
某の言葉に納得したようにアーミーは頷いてアーミー自身が書いた文字へと目を落とす。だが、そのあと、アーミーは顔をしかめて苦々し気な声を出す。
「アドリューン、これ、シーカスに弱点があるのか? 確かに、アドリューンなら武器さえ何とか出来ればシーカスに勝てそうな感じはするが、俺が勝てる気がしないぞ」
アーミーの答えはもっともである。今書いた情報は圧倒的王者として君臨するシーカス自身のものであるのだ。それに、こうして文章にして整理したとはいえ、現状のまま突っ込めばこれまでの二の舞、三の舞になりかねない。だが、アーミーには見えていない弱点がシーカスにはある。
「アーミー。確かにシーカスは強いでござる。だが、例えば、堅実であるということは、攻撃の予想をしやすいということ。研究し、シーカスの攻撃パターンが分かればひっくり返せるのでござる。例えば、勝ち続けたことによる自信は時として慢心に姿を変える。慢心は思わぬ隙を生むこともある。それに、ここ最近負けていないということは、劣勢の戦い方にはアーミーの方が分があるとも言えるでござる」
「確かにそう言われればそうだな。だが、シーカスとは打ち合ったら即座に不利になるんだぞ? そんな状態でどうやって......」
アーミーは相変わらず顔をしかめたままだった。これは相当に根深いらしい。そうであるならば、某が希望を持たせてやるのみでござる。某だってこれから教えてもらわねばならぬことがあるのだ。こんな調子では困るというものである。
「それを見つける為に某とアーミーは手を組んだのであろう? 一つ聞きたいことがあるでござるが、加工する木材の大きさに制限はあるでござるか? 今日はベルノさんからもらった木を使ったから知らぬのでござるが、もし、規格が無いのであるならば相当に有利になれるやもしれぬ」
某の有利という言葉に少しアーミーの顔が明るくなるのが分かった。とはいえ、完全にアーミーの周囲を漂う陰りが消えたわけではない。ないが、少しずつ変えてゆけば良いであろう。
「規格は無いな。打ち上げトーナメントは木材を加工した武器で、刃さえ潰してあればどんな大きさや形状であっても構わない。だが、わざわざ長い剣や巨大な長剣を使って勝負しろとでも言うのか? 以前、大きいだけの剣を持ったり、両手に剣を持って戦っていたやつもいたが扱えなきゃ意味がないだろう?」
「ここで、某の提案する武器の出番ということであるな」
「そこまで言うってことは、期待していいんだな?」
「勿論でござる。ただ、提案するのも良いのでござるが、まずは某に木材加工の基本を教えて欲しいのでござる。流石に、このままずっと一合も打ち合えずに武器が破損し続けるのは、研究以前の問題でござるゆえに」
先ほどまで雲で陽が隠れていたのであろうか。少しずつ顔を地平線の中へと潜らせていく夕日が、窓から差し込んでくる。今日、打ち上げトーナメントの一回戦でシーカスに負けてからずっと浮かない顔だったはずのシーカスであったはずなのに、某の武器が壊れた時のことを思い出したのであろう。口角が上がっていくのが見えた。
「ははっ。確かにそうだな。今日の戦いでケルスと打ち合った瞬間はシーカスに集中していたから見なかったが、あの音と、地面に散乱した破片は凄かったな。それにしても、あの時は話さなかったから分からなかったが、あれも刀に並ぶ新しい武器かと思ったが違ったんだな」
解せぬ! 解せぬ! 解せぬぅ! アーミーがちょっと明るくなったのは良かったでござるが、それが某が無惨に負けたことによるものとは。これなら励ましていた意味がないではないか! 某は思いっきり頬を膨らませながら反論してみる
「ぬ、ぬう。仕方ないではないか! これまで木材の加工などしたことが無いでござる故」
「顔が真っ赤じゃないか。悪かったよ。そう膨れるな。しかし、さっきまではなんだかかなり年上と話している気がしていたが、こういうのを見ると年相応なんだなって思えるな。分かった。今日は作り方だけな。今はトーナメントで見てくれる職人がいないから道具は使えないが手順だけは教えてやる」
ぐ、某、前世と合わせても二十年ちょっとしか生きていないというのに、かなり年上は酷くはないか?? と言いたくなったが、流石に前世のことはまだ母上にすら話していないのでここで口にするわけにはいかぬ。
結局、某は笑われっぱなしのまま、木剣の制作手順を教わり、そのあとは、職人トーナメント終了ギリギリまでアーミーとシーカス攻略の方法を話し合った。ひとまず、某としては刀の作り方が分からなかったのは残念であったが木剣の作り方が知れただけでも良しとする。
一番衝撃的だったのは、木剣づくりにノミは使わないということであった。やはり、ノミは某に災いしかもたらさぬものであると改めて痛感した。
その後、広場に戻った某は、母上と、薬代の分の泊まり込みでの労働が終わった父上と共に貧民街にある自宅へと帰った。辺りが陽が沈み、薄暗くなった貧民街は朝や昼以上に理不尽であったとだけ言っておこう。薄暗くなって糞尿が見にくくなっているそれだけで、ギリギリであるのに、母上のいたずらによって某と父上がぶつかり、久々に糞尿を浴びたなんてことは無い。無いったらないのだ。
今日はちょっと短めです!
あと一万五千字で十万字やなあ。
もうちょっとしたら第一章のタイトル回収に着手出来るんじゃないかなあと思ってるけど......
一章は二十万字くらいで収まってくれたらいいな♪




