侍の心得其十七 見習いは自分で使う武器を自分で作ることで成長するものだ
初の仕事終わりの打ち上げトーナメントが終了して三日が経った。
あの日のトーナメント後、某は久々に出た熱で二日寝込み、大事を取って一日を何もない自宅で過ごして今日、久々に糞尿降り注ぐ貧民街の大通りを抜け、製材所に向かっているところである。
言い訳ではない。決して言い訳では無いのであるが、あの日倒れたのは仕方ないことでもあったのである。なんせ、半年間の修行が終わってすぐに修行の成果を見せて、そのあと、すぐに職場を案内され、仕事をし、即、抜き打ちのような形でトーナメントがあったのである。それは倒れるというものである。
某だって馬鹿では無いのだ。安定して木材が運べるようになるまでは、少しばかり体力を温存しつつ仕事をして、最後のトーナメントで一気に稼ぐ! ふっ! これは名案でござる。見たところここに居る見習いたちは某の前世での努力の結晶である技の数々に対応出来ていないようでござるしな。
そんなわけで某は、日の傾き具合から計算して、就業時間のほぼいっぱいかけて、木材運搬初日と同じ木材を四往復分、つまり、銭貨二枚分、製材所へと運んだ。病み上がりだったのもあって少しきつかったが、初日の試験の疲れが無い分、余裕がある。万全ではないが、これで前回のような醜態を晒すことは無いはず――
「ふぅぅ、やっと終わったでござる。しかし、この木材運搬は中々に鍛錬になるでござるな。木材の持ち方を変えれば鍛える筋肉もある程度調整できるし、まさに今の某にうってつけでござるな!」
そんな某の元にベルノさんがやってくる。はて? 某が何かしたのであろうか? なんだか嫌な予感がするのでござるが......
「アドリューン、何を驚いて......ああ、私がここに居る理由ですね。そろそろ、仕事の終わりの時間が近づいているので見回りに来ているのです。これも私の仕事ですから。あなたのペースから考えて、今から木材の運搬をしては打ち上げトーナメントに間に合いませんね。今日はここまでにして、これで、あなたの武器を作ってください」
ああ、なるほど! ベルノさんはタイムキーパーでござったか。確かに、時間ギリギリまで運搬をさせればトーナメントはおろか、日が沈んだ後も運搬ということになりかねない。そこまでブラックでは無いのであろう。
――ん? 今、最後なんと言ったでござるか?――
「さあ、アドリューン、何をぼさっとしているのですか? ここは製材所であり、あなたは見習い。こうして余った時間で自分の武器を作るのは当然でしょう? 前回は初日でしたし、見るからに疲労困憊でしたから、あなたの父......シューラスに作ってもらいましたが、見習いだっていずれは職人になるのです。その時に一から道具の扱いを教えるなんて効率の悪いことはしません」
なるほど、あのトーナメントにはそのような意味があったのでござるか。それに、武器が壊れたら危険というルール。あれは、技量が低い者はそもそも戦いの舞台にすら立ち続けられぬということ。ぬうう、武器は父上に作ってもらえばよいと考えていた某が間違いでござったか!
それでも、少しごねてみることにする。確かに武器の差はある程度なら技量でカバーできる。だがそれは同程度の体格を持つ相手の場合である。某の場合、体格差をやっとの思いで技量で埋めているのだ。ここで武器までハンディキャップを付けられるなどたまったものではない。
「ベルノさん、某、親方の強さを学び、某の体を鍛えるという意味では弟子といって間違いないでござるが、木工職人の弟子......いや、見習いではござらん。だから、武器を作るのは某の仕事では――」
「ほう? つまり、あなたは自分一人、他の者たちより優遇された条件で挑む。メリアさんから聞きましたよ。あなたは『侍』という完全未知の存在になろうと日々、修行し続けていると。ここで、あなただけ武器を優遇することは簡単です。その体格と年齢を言い訳にすればいい。ですが、あなたの目指す『侍』はそれで成すことができるのですか?」
ぬ、ぬうう...... 確かにそう言われるとその通りでござる。このまま、某だけ優遇されて戦っていれば、信条である「仁・忠・侠」のうち、「侠」に反するところであった。某は肉が食えるかもしれぬということに心を奪われ、いつの間にか某の信条すら揺るがす邪な考えを抱いてしまっていたようである。ベルノさんには感謝せねばなるまい。
「確かに、ベルノさんの言う通りでござる。某が間違っていたでござる。決められたルールの中で正々堂々と不屈の精神で立ち向かってこその『侍』でござった」
「ええ、分かっていただけたようで何よりです。では、この木材をあと一時間ほどで加工して、武器にして初めてトーナメントに参加した場所は覚えていますね? そこへ集まってください」
そう言ったベルノさんは、某に、一メートルほどの長さの角材を渡してくる。今の某の背丈よりも大きいので、渡された時少しふらついたが、すぐに態勢を立て直す。ここで、某は聞いておかねばならぬことがある。
「加工する為の道具はどこにあるでござるか?」
「ああ、そういえば、案内していませんでしたね。ついてきてください」
そう言われて、ベルノさんについて製材所へと入ってゆく。道中にあった部屋で作業している職人たちを見ながら進むこと五分。見るからに新人といった、先ほど作業していた職人たちと比べればかなりぎこちない者たちが何人も作業台に木材を置き、各々が思い思いの道具を使って作業を始めていた。
「ここが、加工する場所でござるか?」
「ええ。あそこを見ていただけば分かりますが、なるべく危険が無いように、この時間には必ず二人は職人についてもらうことになっています。新人が使えないような道具は置いていないので、好きな道具を使ってその木材を加工してください。では、私は見回りに戻りますね」
お礼を言ってベルノさんを見送る。さて、某も早いとこ加工を始めねばな。まずは、空いている作業台に移動して......ぬう。背が足りぬでござる。某はなんとか木材を作業台の上に置くことは出来たが、作業台の高さは某が手を上げてようやくなんとか作業台の上に手のひらが出るほどの高さ。流石にこれで加工するのは無理があった。
これは作業台の上に上って作業をするしかないでござるな...... しかし、それでは作業台の意味が無い気がするでござる。床で作業するのとなんら変わらぬ気が......
そんなことを考えながらウンウンうなっている某を見かねた職人が一人近づいてきて、声をかけてきた。
「おい、アドリューンだったか。近くで見たらやっぱりかなり小さいな。ここの作業台は製材所内でもかなり低い方なんだがな。まあ、いい。即興でわりいが、踏み台を作った。今日からこれに乗って作業するといい。流石に作業台に手が届かなくて武器がありませんってのは戦い以前の問題だからな」
「かたじけないでござる」
有難く受け取ることにした。流石にこの程度の助太刀で卑怯者とは言われないであろう。それに、某が困っているのを見てすぐに必要なものを作ってしまえるあたり、ここの職人のレベルの高さが伺えるというものである。父上にしてもそうであったが、某が少し地面に絵を書いただけで即座に木刀を作ってしまったでござるしな。
......さて、某も武器を作るとするでござる。うーむ。しかし、かなり道具が多いでござるな。知っている道具だけでも、さしがね、ノコギリ、カンナ、キリ、カナヅチ、金属ヤスリ、そして憎い隣人ノミ......いや、あのノミではないでござるよ? 当然、工具のノミでござる。ただ、毎日無料で、血を抜き取られるわ、潰したら異常繁殖するわで現状手の打ちようがなくて参っているだけである。それこそ、その単語を思い返すだけで怒りが――
おっと、危ないでござる。ノミで取り乱すとは、某まだまだでござる。
しかし、知らぬ道具がいくつもあるでござるな。それに、この少しずつ刃の形が違う道具はどう違うのであろうか。
まあ、良いでござる。まずは当たって砕けろ精神でやってみるでござる。
「まずは、ノミでござるな! これで木材を大きく削るでござる! 確か、カナヅチで打ち付けるようにして......」
バキッ!
バキッ!
バキッ!
ビシッ! ぬあ?!
しまった!
この黒い部分は節であったか。ぬうう、思いっきり木材に亀裂が入ってしまったでござる。ええい! これだからノミは駄目なのでござる。ノミと関わると碌なことがない!
ノミに全ての責任を転嫁した某は、カンナを手に取る。
「うむ! 一気に削ろうとした某が間違っていたのでござる。ここは、地道に削るに限る」
ザッ!
ザッ!
ザッ!
――よしよし、良い調子でござる! この調子で削って行けば――
ゴリッ! バキッ!
「ぬあああああ?! おもいっきり彫れた上に、角がいっきに割れてしまったでござる」
「おーい、そろそろ時間だ。仕上げろよー!」
――なにい!? 某、まだ、ほとんど終わってないでござる。ええい! ままよ! このままでは重すぎてまともに振れぬでござるから、金属ヤスリで少しでもマシに仕上げるでござる!――
ザーッ! バキッ! ザーゴリッ! ザリザリザリビシッ!――
結局、時間いっぱい刀を目指して削った木材は刀というにはほど遠く、棍棒......いや、このおぞましい、端くれが出まくり、ところどころひび割れている木材を形容する武器が思い当たらぬのである。不良が使うイメージの釘バットなんかの方が数百倍はまともな武器に思える。それに、これ以上ひび割れて武器として使えなくなるのを恐れたことによって、その木材は、父上が作ってくれた刀の何倍も重かった。持ち上げることは出来るが振ったり某独自のアドリューン式を試すと、武器の重心が定まらないせいで全く思うような動きをしない。
「はっはっは。まあ、初めてなんてそんなもんだ。この前の見習いで見せた一回戦のキレなんて到底出せそうにないな。それなら、まだ、城壁の外にいる魔物の方が良い武器を使ってらあ」
先ほど、某のためにわざわざ武器を作ってくれた職人が某の作った武器を見て笑っている。ぬうう。絶対に次はもっとまともな武器を作って、見返してやるでござる!
「アドリューン、武器破損により、勝者ケルス!」
結局某は相手の攻撃を受け流す途中で武器が折れてしまい、一回戦で負けた。くぅぅぅ......某のお肉生活がああああああああ!
どうも、設定をゲロりたい作者です。アドリューンの父上の名前なんですけど、本当はアドラスで出したかったんですよね。ただ、読み返してて、致命的な問題に気付いたんです。
「あれ? 親方の名前、アドゴラさんじゃね?」
この瞬間、アドリューン、アドラス、アドゴラという、偶然の『アド』揃い現象が起こってしまい、これはいけないと、名前を考える羽目に...... 実はここまで、アドリューンの父上だけずっと名前が出てこなかったのはそういう裏事情があったんですねぇ。
筆が遅くて中々ゲロれない設定が他にもあるのに出せないの辛いよー!!




