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侍の心得其十 就活に成功してしまった某

書き溜めにしようと思ってた筈なのにおかしいな......

堪え性が無いようで投稿ボタンを押してしまったらしい。

 某は侍になりたかった。少なくとも前世では時代遅れであった侍。平和で、普通に生活しているだけでは命を奪い合うような戦いに巡り合うようなことはなく、そんな戦いがある場所に行くにしても、銃器や爆撃といった無敵とも言える間合いから攻撃される。

 それを刀でなんとかしようなんて到底無理な話だった。


 周囲は某を笑ったし、遠回しにそんな無駄なことをしてどうなるんだ。と、何処へ行っても言われ続けた。幸いにも、某の前世での両親は時代劇かぶれだったがゆえにそんな某に理解を示してくれたのは大きかった。十兵衛なら、いつか銃弾でさえ受け流せるようになるかもしれない。

 そう、言ってくれたのは紛れもなく、両親だけだったのだから。


 そんな前世での生活の中で某が銃弾を受け流すこと。それを究極目標として生み出した刀術。それが、迎刀術なのである――。



「んぬう? ここは、家?」


 某の視界には見覚えのあるツギハギがあった。寝ぼけた頭にゆっくりと油代わりの血液を注ぎ込み、エンジン代わりの脳を温めていく。

 だが、いくら思い悩んでも親方との戦いで某が勝鬨を上げた先が思い出せない。


 ――まさか! この家に戻ってきているということは、実は某が見たのは幻想で、親方は転がっていたわけではなく持ちこたえていて、負けたからここに戻ってきているのであろうか......?――


 ベッドから体を起こした某に気付いたのだろう。ドタドタと少し派手な、焦っているような足音と共に寝室へと駆け込んでくる足音がした。


「アドリューン! やっと目覚めたのね。二日も目を覚まさなかったから本気で心配したのよ! なんであんな危ないことしたのよ! 親方にあんな口聞いて、キレさせるなんて。貴方に親方が全力で斬りかかった時は......あの時は、生きた心地がしなかったんだから」


 目覚めた某をみて、安心したのか、母上の目から堰を切ったかのように涙がこぼれていた。それでも、目覚めたら説教をしようと思っていたのだろう。泣きながら、声を震わせながらも母上は某に説教をしている。当然だ。某はそれだけ危険なことをしていたのだ。そんな母上の言葉を某は無言で聞いていた。ただ、某のこの貧相な体で親方に膝を付かせる方法はアレしか思い浮かばなかったのは事実だった。


 だからこそ、反省はするし、説教だって真摯に受け止める。だが、あの決断が間違いだったとは思わない。勝つためにはああするしか無かったのだから。

 そうこうしているうちに、長い長い母上の説教が終わっていた。


「良かった。本当に良かった。でも、アドリューンは凄いわね。あの親方に膝を付かせるだけじゃなくて、地面に転がしちゃったんだから。しかも無傷で」


 そうか。やはり某が見たのは幻想ではなく、ちゃんと親方に勝ったのであるな。某の周囲を漂っていた不安は、母上の言葉を以って実感と、満足感を帯びたものへと変わっていくのをひしひしと感じた。


「母上、それでも、折角父上に作ってもらった刀が折れてしまったのでござる。それに、親方の攻撃を受け流すことで精一杯で、あの後、どうなったのかさえ覚えていないでござる。もし、これが模擬戦でなければ、負けていたのは某であった」


 そんな某の言葉に母上は驚いていた。某の口から語った言葉はそんなに驚くようなことであったであろうか? それに、最近母上に何か言うと結構な確率で驚かれている気がするが気のせいであろうか......?


「実はね、アドリューン。貴方が親方の元で修行することは、私があの場で働くことを決めた時点で内定していたの。力試しの模擬戦だって、別に親方を倒さなくても良かった。ある程度親方に向かっていく意志と、あなたの現時点の実力をそのまま親方に見せれば良かったの。例え、一度剣を振って力尽きるにしてもね」


「それは......真でござるか?」


 なんと! あそこで無理して勝つ必要など無かったでござるか......確かに、今冷静になって考えてみれば分かることもあるでござるな。


「ええ。本当よ。それなのに、後で聞いた話だと親方の弟子にはならないと言った上に散々失礼なことを言ったそうじゃない? 母さん、あなたをそんな子に育てた覚えはないわよ。また明日親方に謝りに行かなきゃいけないわね」


 確かに、親方には失礼極まりないことをした。はっ! 二日間某がずっと寝ていたということは、父上は某の代わりにとばっちりを受けているのではないでござろうか!? これは悪いことをした。後で父上にも謝らねばならぬやもしれぬ。

 そんなことを頭の中では考えながらも、粛々と母上の言葉には頷いておく。模擬戦が終わった今、某も親方には謝らなければならないとそう思っていた。


「それにしても、どうして親方を挑発なんてしたの? それに、親方を弾き飛ばした? ようなあれは何? あなたを助けに行ったはずなのに、親方の方が転がっててあの時は頭が色んな意味で真っ白になったわ」


「アドリューン式 迎刀術 崩転でござる。親方に勝つのはアレしか無かったのでござる。某の体力では某から親方に攻め入っても勝てる可能性など皆無でござった故に、迎撃という形を取らせてもらったのでござる。原理としては、突っ込んでくる親方の勢いを刀身で加速させて、前に傾いた重心を更に前へと移動させ、後は少しの力を加えてやればモーメントの力で勝手に回転してくれるというわけでござる」


 某は母上の質問に淡々と答える。別に聞かれて答えたところで簡単に真似されるとは思えぬしな。某でさえ、前世では終ぞ完成しなかった技である。それに、この技は本当に上手く決まれば、刀が折れるようなことだって無かったのである。要精進であるな。


「待って待って待って! アドリューン。よく分かったわ。あなたが何をしたのか分からないということが。とにかく、モーメントとかいう不思議パワーで親方を弾き飛ばしたのね。製材所ではそう伝えておくわ」


「......分かったでござる」


 本当は全く違うのでござるが、これ以上説明しても無駄だというのは母上の反応を見た段階で察せたのでこれ以上言及するのは諦める。理解してほしい気持ちもあるが、逆に理解されたら困るという気持ちもある。この技にある致命的な弱点にだって気付かれてしまうのだから。


 それはさておき、某も母上の二つ名らしき【飛脚】について聞いておきたいのだが......


 ぎゅるるるるるるるるるるるる!


「なっ!?」


 某の腹が急に周囲へこれまでに聞いたことのない程大きな音を鳴らして響いた。

 某の言葉を受けて何やらぶつぶつと言いながら考え事をしていた母上にも聞こえたようで、某は恥ずかしさで顔を背けるしかなかった。


「ふふっ。そういえば、アドリューンはあの親方との戦いの後ずっと眠っていたから何も食べてなかったわね。ちょっと待ってて。作ってあげるから。それに、働き手が三人に増えたから、また少しだけ食事が豪華に出来るようになったのよ!」


 そう言って台所へと向かった母上の背をベッドの上から見送る。そうか、某もあそこで働くことになるのであるな。とはいえ、今まで家の中に居ただけでは出来なかった鍛錬も製材所でなら出来るであろうし、まずは製材所から『侍』色に染めていくことにするでござる!


 某は思わず浮き立つ気持ちを押さえつつ、母上から、いつもより少し具と塩味が濃くなったスープを受け取って掻きこみ、再び眠りにつく。


 次の日、母に背負われ、糞尿降り注ぐ貧民街を抜け、市場を通り過ぎ、職人街へとたどり着いた時、何故か、ポツポツと腰に某の使っていた木刀に似た形状の木剣を腰に差している人たちが通りを歩いているのを見かけた。どうみても、木剣のように直線ではなく、明らかに刀身が弧を描いているのだ。不思議に思った某は母上に聞いてみることにする。


「ん? 母上、アレはどういうことでござろうか? どうして某が使っていたのと同じような物を腰に......?」


「ふふっ。そうね。着いてみれば分かるわ」


 むぅ。着いてからのお楽しみというやつであろうか。着いたら分かるのならここで教えてくれても変わらぬだろうに。だが、某は母上の背中に背負われており、道行く人に尋ねることも出来ず気になるままに、製材所の門の前へとたどり着く。母上と共に働くことになったからか、前回初めてここへ来たときのようなことは無く、母上が手をかざすとすんなりと門の中へと入ることが出来た。


 その瞬間、まるで待ち構えていたとでも言わんばかりに某の元へ多くの腰に刀を差した青年たちが駆け寄ってきた。


「おお! やっと来たな! 凄かったぞあの戦い」


「そうだ! まさか親方の上半身が土に塗れるのを見られるなんて!」


「なあ、アレどうやったんだ! メリアさんに聞いても『私にも何が起こったか分からないの』って言われたからお前が来るのを待ってたんだ。もしよければ俺にも教えてくれ!」


「おい! 抜け駆けは卑怯だぞ!! それにしても......こんなひょろっちい剣で良くもまあ、魔獣顔負けの親方の突進を弾き飛ばしたもんだぜ。あの瞬間、俺は震えちまったんだぜ。まさかあの親方に初めて土を付けたのが五歳のガキだったなんて」


 なるほど。母上の言う、着いてみれば分かるとはこういうことでござったか。某が親方に土を付けたのは想像以上に凄いことだったようでござる。それにしても......奇しくも某は、計らずして侍を広める第一歩を踏み出せたわけでござるな。

 前世では向けられることのなかった、某に憧れるもしくは、某から必死で技を盗もうとする視線に心地よいものを感じ、嬉しくなった某は、青年たちに『侍』について語ろうと口を開く。


「うむ! 分かったでござる。まず、某の技を理解するには『侍』について――」


 そう、語り出そうとした瞬間だった某の視界が急激に鋭い光で覆いつくされて思わず口から驚きの言葉が出ていた。


「ぬあ?!」


「こらああああああ! お前ら! 何サボっとるんじゃ! 俺を倒すのに精を出すのは悪いことじゃねぇが、まずは仕事をせんかい! 仕事を。もし納期に少しでも遅れようもんならクビにするぞ!!   金があっての修業だろうが」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


「すんません! 親方。今すぐ持ち場へ戻りますっ!」


 親方の怒声と、神々しさで蜘蛛の子散らしたように俺の周りの人だかりが消えて行った。こういうところを見ると流石親方と言えるであろう。そうして数分で綺麗さっぱり人が消えた通路の先に相変わらずの神々しさを纏った親方が仁王立ちするだけとなった。


「ついてこい。アドリューン、メリア。お前らの仕事の説明をする」






親方、設定では体重180kgなんだよね。ちなみにアドリューンは15kgです。



......うん。まあ。うん。ね!(逃走




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